(3)
それからしばらくした日のこと。その日は生憎、朝から雨が降り続いていた。
雨をもたらす前線が停滞しているのか、ここ数日ずっと雨だ。
「三人ともいい?」
「うん!」
「体の半分は濡れているのに半分は乾いています。頭の上でぱっと開くもの、なーんだ?」
子供たちが口々に「かさー!」と叫ぶ。テーブルに並べられたカードを一番最初に叩いたのは、遊びに来ていたレオンだった。
「レオン凄いわ。これで何枚目?」
イサベルは驚きの声を上げる。さすがは未来の騎士団長。幼少期から瞬発力も人並み外れていたよる。一方、僅差でカードを取られたミゲルは不満顔だ。
今、ルイスとレオン、それにミゲルの三人でやっているのは、前世で言うところのカルタだ。先日のパズルがルイスに好評だったので、他にも遊びながら学べるものを作りたいと思って、思いついた。
テーブルの上には、馬、猫、花、剣、リンゴなど、様々な絵とそれを表す単語が描かれたカードが並べられている。そして、クイズの内容はルイスと一緒に考えながら作った。まさに、この世にひとつしかない手作りの一品だ。
「では次よ。甘くて、ときどき酸っぱいです。赤くて丸い果物はなーんだ?」
「りんご!」
イザベルが読み上げるのとほぼ同時に、ミゲルがカードを叩く。
「あー、負けた!」
レオンは悔しそうにこぶしを握った。
紅茶を飲みながら子供たちの様子を眺めていたジェシカはくすくすと笑う。
「ここに来ると雨の日も飽きることなく遊ぶことができるから、レオンが毎日のように来たいってせがむのよ」
「いつでも歓迎しますわ」
イザベルは笑顔で答える。
レオンやミゲルはルイスにとって年の近いお友達だ。一緒に遊ぶことで、刺激にもなるはずだ。
ミゲルとレオンが帰宅したあと、ルイスは自室でお絵描きをしていた。
「できたよ!」
ルイスは出来上がった絵をイザベルに見せる。それは、今日のカルタ遊びのときの様子を描いたものだった。
三人で遊んでいる子供たちの近くに、女性が二人座っている。
さらに、その近くには男性が一人立っていた。ミゲルの付き人兼護衛をしているゴジョだ。
「わあ、凄い。とっても上手ね」
「うん!」
ルイスは嬉しそうに笑う。
(うちの子、天才だわ。魔法の天才だけじゃなくて、絵も天才だわ!)
こんなに絵を描く才能があるのだからこの趣味は大切に伸ばしてあげたいと思った。
スケッチブックの次のページにも絵が描かれていることに気づき、イザベルは捲る。
「立派なお屋敷ね」
「うん。いつか建て替える、新しいお屋敷。ここがおとうさまのへやだよ」
ルイスは屋敷の二階部分のある窓を指さす。
「おかあさまはここで、ぼくはここ」
ルイスはアレックスの部屋の隣の部屋と、少し離れた部屋を指差す。
「みんな一緒に、ずっと住むの」
何気ない一言に、イサベルの胸がきゅうっと締めつけられた。
グラファンの中で、イザベルはルイスを罵倒し虐待した最低最悪の継母だった。けれど、今イザベルが過ごしているこの世界のルイスはイザベルを慕い、ここでずっと一緒に住みたいと言ってくれている。
初めての子育てに試行錯誤ばかりだけど、その言葉を聞いただけで胸がいっぱいになった。
「そうね。ずっと一緒にいましょうね」
ルイスの頭を撫でながら、イサベルは改めて思う。
もっともっと、この子を幸せにしたいと。
そのとき、ふと目に入ったルイスの絵を改めて眺めて、疑問を覚えた。
「ねえルイス。なぜルイスの部屋は少し離れているの?」
ルイスが指さした並びだと、ルイスとイザベルの間にはもう一部屋あるように見えた。
「ここはね、赤ちゃんのへや。ミゲルのところももうすぐ赤ちゃんがくるから、そろそろ僕のところにも来るでしょ?」
「えっと、それは……」
イザベルは表情をひきつらせる。ルイスは、純真無垢な瞳でイザベルを見上げていた。
「もしかして、もういる? ここにいるんだって、ミゲルが言ってた」
ルイスはにこにこしながら、イザベルのお腹を触れた。
「うーん。それは、まだ……だと思うわ」
イザベルは、努めて落ち着いた声で答える。
子供ができる行為をしていないのだからいるわけがないのだが、ルイスにそれを伝えるのは酷だろう。
(子供か……)
ルイスと接するまで小さな子供と関わったことが全くなかったから気付いていなかったが、おそらく自分は子供と接するのが嫌いではない。
もし自分が産んだ子供がいたらどんなに可愛いだろうと、イザベルは想像してみる。
(イザベルって見た目はすごく美人だし、アレックス様も美形だし、子供も美形になるのは確定よね)
ルイスと一緒に遊ぶ姿は、まさに天使のじゃれ合いのように尊いに違いない。
(ルイスの髪は母親似で黒だけど、私とアレックス様の子はどうなるかしら。銀髪? それとも、赤髪?)
そこまで考えて、ごく自然にアレックスとの子供を産むことを想像していたことに気づき、かーっと顔が熱くなる。




