(2)
その日の夕食は、白身魚のムニエルだった。
ルイスはナイフとフォークを使って、器用に魚を切り分ける。
「ルイス、ナイフとフォークを使うのがとっても上手になったわね。立派な紳士みたいよ」
「うん。マナーの先生とれんしゅうしたよ」
イサベルに褒められると、ルイスは得意げに胸を張る。
ついこの間まではイザベルが骨を抜いてあげないと食べられなかったのに、目覚ましい進歩だ。イザベルとルイスの会話を聞いていたアレックスの目元が、わずかに和らいだ。
(うん、うん。いい傾向だわ)
イサベルは満足げに頷く。
子供は褒めて伸ばす。
もちろん叱るべきときには叱る必要もあるけれど、それ以上に「見ているよ」「頑張ったね」と伝えてあげることが大切だと思っている。
なにしろルイスは、長いあいだ両親からの愛情に飢えていた。
実の母親には放置され、父親は仕事ばかりだったのだから。
だからこそ、今からでもたっぷりと愛情をかけてあげたい。そうすれば、精神を病んでヤンデレのヤバい男になる未来も変わるはずだ。
(絶対に、私がルイスをハッピーエンドにしてあげる)
ルイスには、たくさん笑ってほしい。
たくさん遊んで、たくさん学んで、たくさんの人に愛されて、いつか大人になったとき、子供時代を思い出して「幸せな家庭だった」「自分もあんな家庭を築きたい」と思ってもらいたい。
ささやかな願いを込めて、イザベルは微笑んだ。
◇ ◇ ◇
それは、ルイスがイザベルの私室に遊びに来たときのこと。
「ルイス、ちょうどよかったわ。こっちに来てくれる?」
イザベルはルイスを手招きする。寄って来たルイスは、イザベルの前あるテーブルに置かれたものを、不思議そうに見た。
「おかあさま、これは何? どうしていろんな形に切ってるの?」
テーブルに置かれていたのは、木の板だ。それが、三センチくらいの大きさで色々な形に切られている。
「これはね、新しいおもちゃを試作しているのよ」
「おもちゃ? つみき?」
「ううん、積み木じゃないわ。ルイス、ここに絵を描いてくれる?」
「ここ?」
「うん、そう。大きくね」
イザベルは切れ目の入ったいた全体を指す。ルイスは戸惑いつつも、そこに馬の絵を描いた。
「ありがとう。この絵をこうして──」
イサベルは綺麗に並んでいた木の板を、引っ掻き回す。馬の絵は一瞬で消え去った。
「あっ」
ルイスが驚いたように声を上げる。
「大丈夫よ。これをもう一度、元の形に戻すの」
そう言って、イサベルは木片を手に取った。
「ほら。この角には馬の脚が描かれているでしょう? こっちは胴体。これはしっぽかしら。ということは──」
「こう?」
ルイスは、みっつの木片を器用に並べる。その切れ目はぴたりと合い、馬の体の一部が出来上がった。
「すごいわ、ルイス!」
少し大げさにほめると、ルイスの顔がぱっと輝く。
「へへ。これは前脚だからこっち」
「そうね。さすがだわ」
「かんたんだよ」
ルイスは頬を紅潮させて、木片合わせに熱中する。
イサベルは頬を緩ませて、その姿を見守った。
(ふふふ。考えてる、考えてる)
そう、これはイザベルお手製の木製パズルだ。
ルイスはまだ五歳。机にかじりついて勉強ばかりさせるのではなく、遊びを通じていろんなことを学んでほしかった。そのため、前世で見たことのある知育玩具を真似して作らせた。
「できたよ!」
全てのパーツを組み合わせたルイスは、得意げにイザベルを見上げる。
「すごいわ、ルイス! あっという間ね」
「うん! もう一回やる」
「どうぞ」
イザベルは釣られるように微笑む。
子供の学習能力は目を見張るものがある。ルイスは一回やっただけで要領を掴んだようで、その後はすらすらと完成させるようになった。次から次へと木片をはめていき、最後の一片を合わせる。
「できた!」
「すごいわね。さっきよりずっと早いわ」
イサベルが拍手すると、ルイスは誇らしげに笑う。
その笑顔の眩しいこと。
(かっわいー! 本当に可愛い!)
ルイスは「もう一回やる」と言うと、再び木片をばらばらに崩した。
ほんの思い付きだったが、思った以上の食いつきで作ってよかったとつくづく思う。腕のいい木工職人を紹介してくれたアレックスには感謝だ。
(これなら、もう少し難しいものでも大丈夫そうね)
今回作成したものは十五ピースだが、百ピースくらいに増やしてもいいかもしれない。
(ルイスは絵が得意だから、風景画なんかもいいかも)
そんなことを考えていると、再びルイスの「できた!」という声が聞こえた。
(旦那様に相談して、さっそく準備しないと)
ルイスがこんなに喜んでくれるのなら、多少手間がかかってもたくさん作ってあげたくなる。
イサベルは新しいパズルを目にした時のルイスの反応を想像して、頬を緩めたのだった。




