猫獣人ネムル
起き上がった猫耳娘に対し、なんと声をかけるか思案する間もなく、我先にとカマセーヌが話しかけていた。
「へっへっへ。獣人なんて珍しいな。こいつは高く売れそうだぜ……!」
「にゃっ!?」
「ちょっとカマセーヌ様黙っててもらっていいですか?」
いつの間にやらカマセーヌに悪役モードのスイッチが入っていた。そのまま話させると面倒なことになりそうなカマセーヌを引っ込め、警戒している猫耳娘に話しかける。
「怪しいものじゃないです。俺はケイディアっていいます。今ちょっとクエストで猫を探してて」
「……さっきのはにゃんだったにゃ?」
「この人は悪役を生業にしてるだけなので気にしないでください」
「してるだけってなんだよw」
笑いながらカマセーヌとフローデも自己紹介をする。カマセーヌのことは有名人なだけあって知っていたようで、納得したように警戒を緩めた。
「聞いたことあるにゃあ、あんたが……。あたしはネムル。この街には昨日やってきたばかりにゃ」
ネムルはサーバーの移動費が安い期間のうちにいろいろな街を回っているそうで、居心地のいい場所を探して転々としているという。
「昨日はメルドに行ってみたんにゃけど、あそこは人が多くてダメだったにゃ」
「あそこは攻略最前線だからな」
「あー、そこは俺も聞いたことありますね」
このランドクリエイトオンラインで最も人口が多く、最も攻略が進んでいると言われる街がメルドである。ちなみに人口数2位の街はバーツェ、3位がフローデのいたコデニナである。
「この街は結構気に入ったにゃあ。のどかにゃ雰囲気だし猫も多いし」
「さっき猫まみれでしたけど、えっと……寝てたんですか?」
「この街の猫たちとの交友を深めてたにゃ」
聞けばネムルはわざわざ自動ログアウト機能をオフにして昼寝をしていたそうだ。「んぅー」と間延びした声を上げながら、両腕を上げて伸びをする。
「起こしちゃってすみません」
「まぁいいにゃ。で、なんにゃ?」
「えっと、ロックって黒猫を探してるんですけど」
そう言ってケイディアは持っていた人相書ならぬ猫相書をネムルに見せる。ネムルはそれを一瞥すると、ああ、とつぶやいた。
「いたにゃあ。そんにゃ猫。くつしたちゃんって呼んでたにゃ」
「多分最後に逃げたやつだよな?」
「だと思います。……どこ行ったかとかってわかりますか?」
「そんにゃのわかるわけにゃいにゃ」
なにしろこの街へ来たばかりだと言うネムルに猫の行き先などわかるはずもない。話している追いかけたほうがよさそうだ。
「とりあえず追いかけるしかなさそうだな」
「そうですね。まだ近くにいるかもしれませんし」
手分けして探そうと相談するケイディア達。ネムルはそんな彼らを遠巻きに眺めながら何やら思案していたが、意を決したのかケイディア達に話しかけてきた。
「猫探しにゃら、手伝ってやってもいいにゃ」
「え?」
「あたしのスキル、猫探しにはうってつけにゃ」
「そいつはすごく助かるが……」
そう言いながらちらりと目配せするカマセーヌ。ケイディア達にも異論はなく、コクコクと頷きで返事をする。
「探索系スキルが無い状態で闇雲に探すよりはずっといいと思うよ」
「俺もそう思います」
「そうだな。……じゃあ、頼めるか?」
「おまかせにゃ」
えへんと胸を張るネムル。そのままクルリと背を向けるとピィーッと甲高い指笛を鳴らした。すると、建物の隙間から数匹の猫たちが飛び出し、駆け寄ってきた。
「おおっ!?なんだ!?」
「スキル『猫笛』にゃ」
『調教師』か何かのスキルだろうか。反応を見るに、カマセーヌも知らないスキルのようだ。
ネムルはそのまま屈みこみ、猫たちを見ながらまた別のスキルを発動させる。
「『キャットトーク』。……にゃあ、ロックって黒猫がどこに行ったか知らないかにゃあ?」
猫たちを撫でながら話しかけるネムル。『キャットトーク』というスキル名から察するに、どうやら猫と話せるようになるスキルのようだが、ケイディア達には猫たちがにゃあにゃあと鳴き声を上げているようにしか聞こえない。
「ふんふん、にゃるほどにゃあ……えっ!?」
猫の声に耳を傾けていたネムルだったが、突如として大きな声を上げると、バッとケイディア達に振り向く。
「何かわかったんですか?」
「……もしかして、細工屋のクエストしてるにゃ?」
「ん?ああ、そうです。そのロックって黒猫は細工屋の飼い猫らしいですよ」
口ぶりからして、ネムルも細工屋の存在は知っているようだ。細工屋に会うためのクエストだと告げると、ネムルはこう提案してきた。
「そのクエスト、あたしも参加させてほしいにゃあ?」




