シオの占い
「塔の逆位置ですね」
「……逆位置だと悪いんでしたっけ?」
「そういうわけでもないんですよ」
タロットカードに描かれた絵を見ながらシオは説明をはじめる。
「塔の本来の意味が限界、行き止まり、崩壊といった悪いイメージなので逆位置だと……復活、再構、再出発などの前向きなイメージになりますね。……例えば、再出発という言葉からは初心に帰ることが連想できます。始めたときのやりたかったことを思い返すのもいいでしょう」
「なるほど……」
「塔の逆位置には一度積み上げたものを壊す、といった意味もあるので、今持っているものに囚われず、0から考えてみるのもよいかもしれません」
思ったよりも占い師らしい指摘にケイディアは素直に感心する。シオに対する認識を改める必要があるのかもしれない。
「ケイくん真逆のことを言われてる気がするんだけど……」
「……いろいろな解釈があるということですよ」
やはり騙されている気がする。
腑に落ちない気持ちを抱えながらも、そこでケイディアの相談は一区切りになった。シオは居住まいを正すと3人に対して問いかける。
「それで?どんな猫を探してるんですか?」
「えっと……これです」
「町のどこかにいるらしいんだが、見た目しかわかってなくてな」
ケイディアは『森の宴』で渡された黒猫の描かれた紙を差し出す。青色の首輪をつけた黒猫で、ほとんど真っ黒だが右前足と尻尾の先だけ白色なのが特徴的だ。
受け取ったシオはその絵をじっと眺め、こう言った。
「お代は200Nでどうでしょう」
問いかけられたがケイディアはその金額が高いのか安いのかわからない。カマセーヌに視線を向けると「それで構わん」と200N分の硬貨を机に置きながら答えた。
代金を受け取ったシオは自分のストレージからいくつかのアイテムを取り出していく。目を惹くのは淡い黄色の宝石がついた道具だ。
「おお、ダウジングペンデュラムって言うんだっけ」
「よくご存じですね」
フローデの呟きにシオは肯定で返す。
鎖の先に八面体に加工された宝石がついたダウジングペンデュラムは、名前の通りダウジングという占い方法に用いられる道具である。シオはそれを古びた地図の上にかざす。
「これ、イトリスの地図?」
「そうです。今いるのがこの辺りですね」
シオは地図上の右側に描かれている大きな通りを指差す。イトリスの地図自体は全プレイヤーが所持しており、ケイディアも何度か目にしてはいるのだが、これまでまじまじと見る機会は無かった。
イトリスの町はほぼ真円に近い形だ。それを区切るように東西と南北に大きな道が走り、南東側は冒険者ギルドを中心にスキルの修練所が立ち並ぶ区画、南西側が商業ギルドを中心とした各種ショップが並ぶ区画である。北側は主にNPCの生活区で、普段はあまり用事がない。
地図上では円形だが、北側、町の最北に建つ城とその周囲を囲む貴族区画は、台地のようになっていて高さがある。ケイディアはまだ台地になっている個所には足を踏み入れたことがない。
「先輩とカマセーヌ様は貴族区画とか行ったことあります?」
「用がないからないねぇ」
「行ったことはあるが屋敷はどこも門前払いだったな」
なんらかのクエストがないと入れないのかもしれないなとカマセーヌは答えた。そうこう言っているうちにシオの準備が整ったようだ。
「始めますね……。彼らの進む道を示せ『ダウジングサーチ』」
猫の絵の上に左手を置き、右手で持ったペンデュラムを町の地図の上に垂らす。そしてゆっくりと動かし始めた。
ペンデュラムはまず中心部から地図の上側、北に動き、先の話題にあった貴族区画に移動するが、特に変化は見られない。そこから北東の生活区、南東の冒険者ギルド周辺、南西の商業ギルド周辺、北西の生活区と時計回りに動かしていく。そして北西の生活区に差し掛かった辺りで宝石が淡い光をはなった。
「……ここらへんってこと?」
「……もう少し」
シオはそう呟くと、さらにペンデュラムを細かく移動させていく。じっと宝石を見ていると動かすたびに光の強弱が変化することがわかる。光が強くなるほうへと動かしていき、やがて一つの区画の上に移動した瞬間にペンデュラムの光が一際強くなる。
「わぁ……」
強い光を放った後、光は急速に収まっていき、やがて完全に消えた。
「……ふむクリティカルですね。運良くピタリと当たりました」
「クリティカル?」
「ええ。普段はここまではっきりとは出ないことが多いんですよ」
そう言ってシオは光が強くなった点を指差す。地図上ではそこは空き地になっているようだ。それを確認した3人は口々に感想を呟く。
「空地かぁ。猫の集会とかしてそうな雰囲気だね」
「ここの道から入って、2番目の通りを右、左……3つ目を右」
「旧教会の近くだな。なんとなくならわかるから多分大丈夫だ。ありがとよ」
イトリスの大半を網羅しているというカマセーヌにはわかる場所の様だ。礼を言って、踵を返し歩き出した一同にシオは声を投げかける。
「あなた方の選択がこの大地の新たな力となることを祈っています」
シオのタロット占いは占い師スキルを使っていません。つまり適当。




