今日のカマセーヌ様
イトリスの街、冒険者ギルド。その片隅でケイディアは人を待ちながら、一人悩んでいた。
悩んでいるのは次に自分が取るジョブのことだ。ケイディアのジョブは最初に習得した弓兵と風属性魔法士の2つのみ。初期のジョブのみしか持っていないのは、パーティメンバーではケイディアだけだ。
「うーん、やっぱり斥候でも取っておくか?探索に……無いと困るかもだし、レンジャーみたいなイメージで……」
ぶつぶつと口の中で呟くのは、圭馬の考えるときの癖だった。
ちなみにここで考えているレンジャーは、日曜朝のスーパー戦隊シリーズとかではなく、森林の警備などを行っている人々のことである。
長椅子に座って一人ぶつぶつと呟くケイディアは傍目から見れば怪しい人でしかない。そんなケイディアに声がかける者がいた。
「おう、ケイディアじゃねえか。今日は一人か?」
「ん……カマセーヌ様か。そっちも今日はお供いないんですね」
悪漢らしい巨体を揺らしながら、気さくに話しかけてきたのはカマセーヌだ。ケイディアが待っているのはこの男ではない。
本人が様付けで名乗るので、ケイディアもなんとなく様付けで呼んでいる。
ケイディアの隣にどさりと腰を下ろす。ケイディアくらいの一般人なら4人は座れそうな長椅子なのだが、カマセーヌの巨体だと、1人で長椅子の半分近くを占めてしまう。
「ちょっと人を待っているんです」
「お前んとこの大砲娘ならさっき町の外で見たが」
「いえ、いつものメンバーとは別の人を」
ケイディアが待っているのは牛先輩だ。牛先輩はサーバーをコデニナからイトリスに移ることを決め、冒険者ギルドで待ち合わせる約束をした。
ちなみに、メンバーやフレンドのログイン状態は画面を開けば確認することができ、しようと思えば隠すことも可能である。クローベルとサリミラはログイン状態だったが、ダングルスは今はログインしていない。今日は出席日数がギリギリの講義があるはずだ。
「んで?取るスキルで悩んでたのか?」
「そうなんです。今持ってるのが『弓兵』と『風属性魔法士』なんですけど、何かオススメとかありません?」
正直、考えすぎて行き詰まっていた。第三者の意見が欲しいところである。だが、そんなケイディアをカマセーヌは笑い飛ばす。
「ハッハッハ!悩め悩め!考えることこそ、このゲームの醍醐味だからな!」
「はぁ……」
「気になるジョブがあるなら全部取っちまえばいいんだよ。金さえあれば取得に制限は無いんだからよ」
「まあ、それもそうなんですけど」
確かにこのゲームにはジョブの数に制限は設けられていない。だが、ジョブの取得数に応じて、新しく取得するための金額が倍々に増えていくため、考えずに取りすぎると、後々の派生ジョブの取得に影響が出ると訓練所で言っていたはずだ。
一度取得したジョブを忘れることもできるが、その場合、取得にかかったNは戻ってこない。
「うーん、やっぱり『斥候』かな、パッとしないけど」
「パッとしないって言うなよ。罠解除とかはダンジョン探索に便利だぞ」
「そうなんですよねぇ。だからこそパッとしないというか……。自由度の高いゲームなのに必須スキルっていうのがモヤモヤするんですよね」
そこにスキル代を払うのがなんか悔しいんですよね、とケイディアは胸中を語る。それに対し、カマセーヌはニヤリと笑いながら答えた。
「なるほどな。それなら他のジョブにしたほうがいいかもな」
「でも……やっぱりダンジョンには必須じゃないですか」
「必須じゃねえよ」
「え?」
疑問符を浮かべるケイディアに、必須じゃない、と繰り返し答える。
「例えば、入り組んだ洞窟の奥、南京錠のかかった木製の扉があるとするな?お前らのパーティだったらどうする?」
「鍵を探す?」
「そうだな。ダンジョン設計者の意図としてはそうなる。だが無理やり開ける方法もあるだろ?」
「えーと……サリミラが銃をぶっ放して扉ごと吹き飛ばす?」
「そういうことだ。『斥候』のジョブなら開錠スキルで開けられるが、炎魔法で燃やしてもいいし、土魔法で穴を掘って扉の下をくぐるという手段もある。解き方は一つじゃない。鍵の仕組みについて知識があれば、スキルなしで針金で開けることすら可能らしいぞ」
「へぇー。勉強になります」
カマセーヌの説明に、ケイディアは素直に感心する。
「だから無理に取らなくても……ん?」
「ん?」
ギルドの入口になにかを見つけた様子のカマセーヌにつられてケイディアは振り返る。カマセーヌの視線の先、ギルドの入口に立っていたのは小柄な女の子だった。
今回のテーマはケイディアの新ジョブ探しです。
カマセーヌ様の面倒見の良さが留まるところを知らない……。




