牛先輩
昼下がりの授業を終え、圭馬と陽輝は漫画サークルの部室で駄弁っていた。話題はもちろん、ランドクリエイト・オンラインのことだ。
「そういえばあのドラゴン、ソロで倒して動画上げてるプレイヤーいるぞ。初期装備で」
「変態かよ。というか初期装備でダメージ通るのかよ」
「刃は通らないからってメイス使ってたな。3時間くらいチマチマ削って倒し切ってた」
「なるほど変態だな」
陽輝が話題に上げているのは有名実況者の最近出した動画らしく、そういった動画のおかげか、発売から3週目、初週こそ伸びなかったものの『ランドクリエイト・オンライン』の売れ行きは順調らしい。
「お。圭君ら、ランクリやってんの?」
そんな2人の後ろから、男性の声がかかる。
「やってますよ。牛先輩もやってるんですか?」
「今、10レベくらいっすね」
話しかけてきたのは漫画サークルの先輩、通称、牛先輩だ。一つ上の先輩なのだが、本名は塚本勝で、なぜ牛先輩と呼ばれているのか圭馬は知らない。少しぽっちゃり気味なのが語源なのではないか、と少し失礼なことを考えている。
「俺は今11レベ。でも、2人で遊んでるのかぁ。知り合いで他にネクス買うような物好きいなかったから羨ましいよ」
「その理屈だと、俺らの回生は全員が物好きですね……」
「え?黒ちゃんも砂ちゃんも買ってんの?すごいな」
10万円というネクスディメントの規格外の金額設定に、購入を躊躇する人は多い。
牛先輩は黒瀬、砂川とも仲が良く、2人とはよく女性向けアニメの話題で盛り上がっている。本人は女性向けアニメが好き、というわけではなく、アニメならなんでも見るタイプらしい。
「先輩もパーティに入ります?多分、2人も嫌がらないと思いますし」
「んー、いや、俺はいいよ。ソロが気楽で好きだし、同学年で遊んでる中に入っていくのも気が引けるから」
「あー、その気持ちはわかります」
「でも、たまにはパーティプレイもしたいなぁ。俺はコデニナだけど圭君達は?」
「コデニナ?」
「俺らはイトリスっすよ」
「……ああ、街の名前ですか」
コデニナというのは初期スタート地点の街の1つだ。圭馬は知らなかったが、陽輝は他の街の名前も把握しているようだ。
「イトリスってあのロールプレイ、趣味プレイ、ネタプレイ推奨の『変人の巣窟』?」
「あー、そうっす。そのイトリスです」
「うちの鯖そんなことになってんの!?」
あっさりと肯定を返す陽輝に、自分のいる鯖がそんな状況になっていること、そしてそんな別称で呼ばれていることに圭馬は動揺を隠せない。
「まぁ、なんというか……一因はあの人なんだけど」
「……あの人か」
ロールプレイ推奨の発端はどうやら知っている人物のようだ。圭馬の脳内で、悪役面のニヤケ顔が浮かんで消えていった。
「雰囲気楽しそうだし移ってもいいかな。一緒に遊んでるプレイヤーもいないし、今なら町の移動費安いし」
「半額期間っすからね。終わったら高くなるらしいっすけど」
現在、ランドクリエイト・オンラインは大移動キャンペーンの真っ最中だ。500Nでポータルを使って復帰地点の街、つまりメインサーバーを変更することができる。
当初の設定では、ポータルの移動費は一律1000Nだったのだが、メインサーバーを移り変える場合はレベルに応じて金額が上がるように変更され、キャラレベルが5になるまでなら1度目の移動は無料になる。設定上は国が有力な戦力である冒険者を国外に出さないようにするためらしい。
移り住むわけではなく観光などで移動する場合の移動費は変わらず1000Nである。
圭馬達にとっては「別に移る理由も無いし」ということで、あまり関係ないイベントという認識だった。
「牛先輩は何使ってるんですか?ソロなら妥当に剣士とかですか?」
「いや、魔法職。サブ職は無し」
「おおう……」
先輩がパーティに加入しても、近接いない問題は解消されないようだ。ちなみにだが、武器の手軽さが相まって片手剣士、両手剣士が人気である。
「圭君達は?」
「俺が弓でこいつがサブ剣士の炎魔法使いで」
「あと、撃つ度に自傷ダメ入るガンナーと、拳で戦う白魔法士ですね」
「……なるほどイトリスの名に恥じないネタパーティだね」
圭馬は周りが特殊なだけですと主張するも、牛先輩には苦笑しながら納得されてしまったのだった。
リアルに余裕ができたので随分久しぶりの更新。
なるべく週末にまとめて更新する予定です。




