魔女の小屋@ダングルス
「それじゃ、また明日」
「おやすみー」
冒険者ギルドの前でそう言い残し、圭馬と黒瀬の二人はログアウトしていった。すでに日付は変わっているが、大学生の夜は長いのだ。
火山の探索を終えて、火属性の素材はかなり集まった。これだけの素材があれば、武器一本作るには十分だろう。
「じゃあ、俺は武器屋に行くけど」
「おー」
どうやら砂川はついてくるらしい。とくに拒否する理由もなく、並んで歩き出す。
「武器屋かー。この銃みたいなのもあるかなー」
「どうだろうな。プレイヤーメイドで銃作るのはかなり難易度高そうだけど」
普通の鍛冶のスキルで銃なんて作れるのだろうか?だが、それができないとなると、プレイヤー間で差が生じてしまう。キャラ作成の際に、防具と初期金額を犠牲に作ってもらった特別製だが、ずっと使えるほどの性能では無いはずだ。
「もっと強いやつがあればいいなー」
「……レレドベ倒せれば十分だと思うんだが」
「でも、もーちょい火力あれば3発でベビーじゃないのも倒せると思うんだよー」
確かに今の武器だと1割くらい残るとは思うが、あれは本当に別格だ。あれだけ格上の相手と戦うことは当分無いと信じたい。
そんな会話をしながら、辿り着いたのは商業地区だ。中心部に生産者ギルドがあり、そのまわりに武器屋、防具屋、道具屋、なんでもありのよろず屋などなど、様々な店が囲むように建っている。
「どうする?好きに回るか?」
「うーん、付いていくー」
そんなわけでサリミラを連れて向かったのは魔法系の武器屋、『魔女の小屋』と看板のかかった店内は、杖や本、水晶玉などのアイテムが置かれているせいで外の見た目よりも随分と狭く感じる。
「へー、魔術書的なアイテムもあるんだねー。あっ!なんか魔法少女みたいなステッキもある!」
「はいはーい!いらっしゃいませー!」
「うぉっ!?」
誰もいないと思っていたカウンターから、突然、女性キャラが顔を出した。真っ黒な服にとんがり帽というお手本のような魔女の服装だが、快活そうな笑顔に元気のよい声、そして金髪のショートカットでは、魔女、というより魔女っ子といった印象だ。
「『魔女の小屋・イトリス支店』へようこそ!どんな装備をお探しですかー?購入ならこちらで!オーダーメイドなら奥でおうかがいしますよー!」
「……オーダーメイドで」
「はいはーい!」
チェーン店なのかよというツッコミは心にしまっておこう。サリミラとともに店の奥へと案内されていく。
「お前は何か買わねえの?」
「んー、ちょっと金欠だしねー。なくても魔法使えるからー」
今回のクエストの弾代くらいは出そうかとも言ったのだが、キルしてる分ドロップもらってるからー、とのことで、自己負担である。竜鱗のお返しで魔道具一つくらい奢ってやってもいいかもしれない。
誘導されるままに売り場を抜けると、作業場のような場所に通じていた。
作業場のちょうど真ん中あたりで、椅子に座った妙齢の美女が小刀で木を削って杖を作っていた。黒っぽい服を着ているが、動きやすそうな見た目から、ファンタジー風の作業服だということがわかる。あの見た目ならば、それらしい格好をすれば魔女に見えると思うが、長い黒髪を後ろに束ねている姿は職人という印象が勝ってしまって、こっちも魔女という感じはしない。
「じゃあ師匠、あとおねがいしまーす!」
「うるさいよ、スティー。さっさと売り場に戻りな」
スティーと呼ばれた金髪の店員はごゆっくりー、と言い残し、売り場のほうへ戻っていった。
「炎の匂いがするね。……土の匂いはそっちの嬢ちゃんからか」
「おー」
「いや、NPCなんだからわかるだろうよ……。炎魔法用の杖を作ってほしいんだが」
使う属性を言い当てた女性NPCに素直に感動するサリミラを横目で眺めながら、さっそく本題を切り出す。女性は作成途中の杖を机に置き、こちらへと向き直った。
「杖を作るには結晶化させるために属性素材が必要になるよ。持ってきてんのかい」
「多分足りると思うんだが」
「見せてみな」
「結晶化?属性素材?」
サリミラは疑問符を浮かべている(わざわざエフェクトで文字通りに浮かべている)が、説明は手間なので後回しだ。
目の前に出てきた『魔道具職人ローデンからリクエストがありました。素材アイテムの閲覧を許可しますか?』というウィンドウを見て『はい』を選択する。
「素材には魔力を含んだ素材ってのがあってね、その属性を集めて結晶化させることで、魔道具の核にするんだよ。……あぁ、素材は十分だね。ん?『火竜の劣竜鱗』なんかどうしたんだい?」
「こいつがドラゴンの鱗を撃ちぬいたんだよ。そのときのブレイクドロップだ」
「えへへー」
「そりゃあすごい。良ければ、こいつを核のベースに使いたいんだが、いいかい?」
どうやら、1枚しかない鱗にも存在価値はあったらしい。上位の素材を結晶化の核にすることで、より良い結晶ができるのだそうだ。
予想よりいい物ができそうで、気分が上向くダングルスに、だが、と続ける。
「核はいいけど、杖になる木はどうするんだい?」
「……考えてなかったな」
核の素材として火属性素材を集めてきたのだが、『杖』を作るための材料になる木材のことはすっかり抜け落ちていた。ローデンという名前らしいその女性は「まあ、うちにあるものを使ってもいいけどね」とため息交じりに口を濁す。
「だけど、今は木材の値段はちょっと割高だよ。相場が上がっててね」
「『木工師』問題か……NPCショップにも影響あんのかよ」
「??」
ふたたびサリミラが疑問符を飛ばしてくる。面倒くさいのでまたスルーしようかとも考えたが、サリミラの疑問符を拾ったのか、「木材の供給が追い付いていないんだよ」とローデンが答えてしまったので、仕方なく、現状を軽く説明しておく。
「『木工師』は木材の取り扱い全般に対するジョブで、武器とかの作成に必要なのは技術力なんだが、採取には筋力がいるんだ」
『木工師』のジョブは、謂わば木こりも兼ねているのだ。一方で『鍛冶屋』のジョブは炭鉱夫を兼ねていて、鉱石の採集に補正がかかる。
『鍛冶屋』の方は技術力も必要だが筋力も要求される。そのため両方を伸ばしているプレイヤーが多いのだが、『木工師』は違う。いい武器を作るには技術力がいるが、木材を切ったり運んだりするには筋力がいる。そして『木工師』を取るプレイヤーのほとんどは、作ることに惹かれて取っているのだ。当然筋力は二の次である。
「結果、作るメインの『木工師』が増えて、素材を調達する奴が少ないんだ。だから、木材の相場が上がってる」
「なるほどー」
しかし、木材不足は噂には聞いていたが、プレイヤー間での相場がNPCにまで影響が出るとは思っていなかった。
「で、どっかから木材調達してくるのかい?それとも、こっちで提供しようか?」
「じゃあ」
手っ取り早くそっちの材料で作ってくれ、そう言いかけた俺をサリミラが止める。
「いいこと思いついた」
「……嫌な予感しかしないけどなんだよ」
「わたしが『木工師』取れば解決じゃん?」
まかせろ、とこっちを振り向いた砂川を、俺は引きつった笑みで見つめていた。
銃士で土属性魔法使いで木工師……なんだお前は!?
普段の2倍くらいの長さになってしまいました。分割してもよかったかも?
とりあえず、これにて2部終了です。次の更新はある程度書いてからやりたいので、当分先になると思います。




