裁縫師クローベル
「それで、素材狩りに行くって言ってるのに全員新装備なのか」
ギルドの中、遅れてやってきたダングルスは苦々しい顔で他メンバーを見渡していた。ちなみにケイディアの装備は、元々の弓兵の初期装備に男性用の魔術師装備が組合わさった緑と黒を基調とした衣装だ。魔力と敏捷性に少しずつ補正がかかっている。
「グイヌ火山には火炎狼とか火炎蝙蝠とか、火耐性の裁縫素材もあるんだぞ?それ手に入れてからのほうがよくないか?」
「じゃあダングルスは無しでいいのね?」
「すみません、お願いします」
一瞬で手のひらを返して装備を頼むダングルス。装備は少しでも強いほうがいいからな、と装備を外しクローベルに渡す。
「はい、100Nね。組み合わせるのは私の前の装備使うけど、作業代ね」
「へいへい。今の裁縫のレベルはどれくらいなんだ?」
「今、レベル5」
「……早すぎないか?」
思わずケイディアは呟く。生産ジョブは上げやすいとは聞いたことがあるが、昨日取ったにしては随分上がっている。
クローベルはストレージから黒色のローブを実体化させ、その場で作業を始めた。
「『裁縫』!」
ボフンと煙が上がると、クローベルの初期装備とダングルスの初期装備である男性用と女性用の魔術師装備が組み合わさった服が出来上がる。その横に現れた使わなかった部分の布を手に取り、さらに装飾を付け加え始めた。
「もともと私こういうのは得意だからね。結構リアルでも裁縫はするんだよ」
「へぇ。意外だなあ。でもそれって関係あるのか?」
「関係あるらしいぞ。リアル補正って呼ばれてる奴だな」
「えー?リアルが関係してるのー?その人の趣味とかのプロフィールで補正がかかるってことー?」
サリミラの問いにダングルスは首を振る。
「いや、その動きの洗練さによって経験値に補正がかかるらしい」
「洗練さ?」
「そうそう。例えば、今クロが裁縫してるけど、手慣れてるのは見ればわかるだろ?」
「そうだな」
クローベルの手の動きを見ながらケイディアは答えた。スイスイと黒色の布に糸が通っていく。
「そういった手の動きなんかで経験値に補正がかかるらしい。正しい動きをすればボーナスが入るんだと」
「裁縫が出来ない人は取れないってことか?」
「それだと鍛冶とかもできなくなるだろ。そういう時はさっきみたいにスキルで作って出来上がり、だな。あれだけでも普通に経験値は入ってるから、初期装備を大量に買ってスキルでレベリングしてる人もいるらしいぞ」
ただ初期装備を布に戻して再び作るだけでも経験値は入るそうだ。だが、服にするにせよ布に戻すにせよ、少しずつ使える布面積は減っていくし、服を作る際には糸を消費する。財力でどうにかするにも限度があるとのことだった。
「でも裁縫のすごい人はスキルに頼らずにモンスターのドロップ素材から作ってるらしいよ?」
「やっぱりそういったプレイヤーメイドのほうが強いのか?」
「装飾付け加えるだけでも結構変わるからね。手が込んだ物のほうが性能がよくなるよ、っと。完成!」
完成という言葉に反応し、装備がキラリと輝く。装備のステータスが決まるのはこの瞬間だ。
「うん、まずまずだね」
「黒魔術師感が増したな」
出来上がった魔術師装備は元々の装備に千切れた黒布を多くあしらったようなもので、裾の部分は女性用の装備に寄せて長くなっている。千切れているのはボロ布を使ったわけではなく雰囲気作りの物なので防御力に問題はない。
クローベルから受け取ったそれをダングルスはさっそく装備してみる。
「おお、ありがとうな」
「おおー。いい感じだねー」
「俺の時も思ったけどクロちゃんすごいな」
「ふふん。その言葉に免じて、さっきの意外だな発言は見逃してあげましょう」
どうやら、裁縫が得意というクローベルの弁に対し意外だと言ったのは失言だったらしい。知らないところでケイディアは命拾いしたようだった。
新しいジョブに盛り上がってしまってクエストが始められませんでした。
次からやっとクエスト出発です。




