冒険の前に
五条圭馬は、VRゲーム機『ネクスディメント』を起動する準備をしていた。ネクスディメントからプレイヤーに向けて伸びる端末は2つ。この2つを使うことで、プレイヤー達はゲーム内の世界にログインすることができる。
圭馬が頭に被った片一方の端末は、ヘッドバンドにヘルメットのシールドがくっついたような形をしている。
シールド部分にはゲーム上の画面を出すことができるが、ゲーム中は目を閉じているので、普段は使うことはない。短時間の離席などの際にゲーム画面を確認しながら作業ができるように付けられているものである。重要なのは脳波を確認するためのヘッドバンド部分の方だ。
もう一方の端末は、首の後ろに取りつける。こちらは脊髄の信号を操作するための端末だ。伸縮性のある素材で作られており、首にピッタリとくっつく。
起動の準備を終え、圭馬はベッドに仰向けに横たわる。あとは、起動のためのキーワードを唱えるだけだ。目を閉じ、呟く。
「ワールドリンク」
フッ、と意識が遠のくような感覚が圭馬を襲った。そして目を開けると、群青の空間にケイディアは漂っていた。そのケイディアの目の前に文字が表示される。
『復活地点を選択してください。
・イトリスの町
・最終ログアウト地点(ケリト草原)』
「イトリスの町、冒険者ギルドに」
復活は、イトリスの町か、最後にログアウトした場所を選ぶことができる。そして、イトリスの町の中ならば、場所を指定することもできる。
群青の空間が光に包まれ、辺りは真っ白になった。光が消えると、いつの間にかケイディアは冒険者ギルドの前に立っていた。
「おー、ケイ君が3番手かー」
「……サリ」
小柄なケイディアよりも、さらに小さい女性アバター、パーティメンバーのサリミラが話しかけてくる。最初の冒険のときは無一文で防具も外套しかなかったが、今はそれに加えて、帽子とブーツを装備している。
「……お前、防具揃えねえの?裸縛りなの?」
「ちゃんと揃えるよー?でも、ベルちゃんが用意してくれるって言うから」
「へえ?」
用意をするということは、自分の装備を譲るつもりなのだろうか?クローベルの初期装備は魔法使い用なので、防御が低い代わりに魔力に補正がかかるはずだが。
「……女の子に対して裸縛りって、セクハラじゃない?」
「……おう、ぶん殴るぞ」
「何を想像しったのかなー?かなー?」
ケイディアが繰り出したゲンコツはケラケラと笑うサリミラに簡単に避けられた。
「なんかスキル取ったから、レベル上げのためにって……あ、噂をすれば。おかえりー」
「ただいまー。なかなかのいい出来になったよ。はいこれ」
「わーい!」
「おお、いい感じになったな」
トレード機能を出してアイテムを渡しているクローベルの装備を眺める。黒一色の魔女のような初期装備だったクローベルだったが、今は白を基調に動きやすそうな服装になっていた。
「クロちゃん、生産ジョブも取ったのか」
「そうだよ。これは、白魔法使い用と拳闘士用の初期装備服を『裁縫』スキルで組み合わせてアレンジしてみたの」
「へぇ。そんなことができるのか」
「両方布装備だからね」
初期装備服は中古品が市場に溢れているらしい。だが、それは生産職の職人達から見れば宝の山なのだそうだ。
「元々は同じ素材の筈なのに、初期装備とプレイヤーメイドですっごい差が出るんだよ?おかしくない?」
「ゲームだからねー。上半身裸に見えるのに鎧よりも硬くなるなんてこともあるからねー」
「あ、あれは氣とかオーラを纏ってるから……」
そう言っているうちに、サリミラも装備を着替えていた。こちらは、銃士用の初期装備と軽戦士用の初期装備を組み合わせた物だ。黒と茶を基調とした軽い素材で出来ており、俊敏性に補正がかかるようになっている。
「うん、いーね!」
「上手く作るもんだなあ」
「ケイ君のも作ってあげようか?材料費として、その初期装備と100Nでいいよ?」
「ケイ君も防具はちゃんとしなよー?」
「俺のポジション攻撃食らわないからなあ。じゃあ頼むわ」
サリミラに装備のことを指摘したが、ケイディアも未だに初期装備のままだった。せっかくの機会だからとクローベルに防具を頼む。装備を外しクローベルに渡す。
「おっけー。じゃあ、とりあえず座りたいからギルドの中入ろっか。そこでささっと作っちゃうね」
クローベルはそう言ってケイディア達を促し、3人はギルドの中に入っていった。
随分遅くなってしまいました。申し訳ないです。ちょっと忙しいので次も遅くなるかもしれません。




