ステージボスのお嬢様
PKであることを認めるクラリネの言葉に武器を構えたケイディア達だったが、対するクラリネはその場に立ったままだった。ここで仮にサリミラが引き金を引けば、一瞬でライフを消し飛ばすだろう。
「……どういうつもりだ?」
「どういうつもりも何も……皆さんこそ、どうするおつもりなのでしょう?」
逆に聞き返され、眉を寄せるダングルス。代わりに答えたのはサリミラだ。
「最終決戦の流れじゃないのー?血で血を洗う戦いはー?」
「最終決戦と言われましても、わたくしの手持ちはもうありませんよ?4対1で勝てるとも思えませんし」
言うなれば先程のが最終決戦でしたね、と両手を広げ肩をすくめるクラリネ。確かに、背後の部屋から魔物が出てくる気配は無い。
「わたくしもせっかく用意した手駒を全て失いましたし、もう戦うつもりはありません。わたくしの敗北、まあ痛み分けということで、ここを通していただけませんこと?」
「お前に戦闘する気が無いとしても、それで俺たちが『はいそうですか』と道を開けるとでも思ってるのか?」
「うふふ、あなたに無抵抗の女性を集団でいたぶる趣味があるのでしたら、仕方がありませんね。紳士的ではありませんけれど」
「ぐっ……」
あっさりと負けを認めるクラリネに食い下がるも、半目で軽蔑の眼差しを作る彼女にダングルスはたじろいだ。ただ、クラリネの口許は楽しそうに微笑んでいる。
「落ち着けよダン。相手はPKなんだから、紳士的な対応じゃなくても構わないだろ?それに集団でフルボッコにしなくても、誰か1人が倒しちまってもいいんだから」
「そうですね。1人に罪悪感を押し付けてしまえば、他3人の心の平穏は保たれますもの」
「……」
爽やかな笑顔でいちいち嫌な言い回しをしてくるお嬢様だった。
「まー、負けを認めてるし、キルまではしなくてもいいんじゃないかなー?」
「私も初対面で無抵抗な人を殴るのはちょっと」
モンスター相手には血の気の多い女性陣も、無抵抗のプレイヤー、しかも同性をキルするのには乗り気ではないようだ。
その様子を見てダングルスもクラリネをキルすることは諦めたようで、はぁ、と溜め息をつく。
「……仕方ないか」
「仕方ないな。……じゃあ1個聞きたいんですけど、手持ちってことは、さっきのモンスター達はクラリネさんが操っていたってことですか?」
「……そうです。わたくしが扱う武器はこちらです」
敗者として質問にくらいはお答えしましょう、と言いながら、自分の腰に手を回し取り出したのは革製の鞭だ。
「……なるほど。鞭のスキルでテイミングができるのか」
テイミング、テイムや調教とも言われる能力は、有用かはともかく、ゲームではよく聞く用語だ。モンスターを使役して戦わせることができる。ランドクリエイト・オンラインにもそういった能力が存在する。
「先程のホブゴブリン達はテイミングではなく、魅了状態、のほうが近いですね。鞭スキルの一種で、簡単な命令を聞くだけの洗脳状態ですから」
「なら俺からも一つ。テイミングって、鞭じゃないとできないのか?」
「……興味あるのかよ」
「火竜とかテイミングできたら楽しそうだろ?」
もう許したとばかりにクラリネに問い掛けるダングルスにケイディアはツッコんだ。その割りきり様にクラリネは苦笑混じりで返答する。
「鞭にはテイミング能力に補正がかかるスキルがありますが、一般的な剣士や魔法使いでもテイムは可能だと聞いています。その条件は、モンスターを懐かせ心を通わせるとか、モンスターに自分の力を認めさせる、といったことが言われていますね」
「……それだけ詳しいのにテイミングはしてないのか?」
そのダングルスの質問に、クラリネは軽く頬を膨らませ不機嫌な顔を作る。その膨れっ面もロールプレイなのだろうが。
「レッサーオーガ2匹はちゃんとテイミングしていたんですのよ?一瞬で消し飛ばされましたけど」
「あははー。ごめんねー」
どうやら活躍することもなく退場した2匹はテイミングしていたらしい。聞くところによると、速さの足りないレッサーオーガは、距離を取りながらスキルを使うだけで簡単にテイミングできるお手軽モンスターなのだそうだ。
それからしばらく、クラリネのテイミング講座が行われた。PKとは思えないクラリネの穏やかな物腰の前に、先程まで戦いあっていたとは思えない和気あいあいとした空気で、彼らはしばし談笑するのであった。
言いくるめで戦闘回避されました。クラリネ自身は、キルされるだろうと予想していましたが。
長くなりそうだったので、少し無理矢理切りました。次は短いかもです。




