現れた人影
「……本当にここ低レベルダンジョンか?」
「どう考えてもおかしいよなあ」
「まだ先があるみたいだしねー」
再び待ち伏せをしていた魔物の群れを討伐した一行は大広間の中で回復に努めていた。クローベルがサリミラに使っている魔法は白魔法の『スローヒール』である。時間がかかる代わりにMPの消費を抑えてゆっくり回復していく。
彼らの話題はこのダンジョンのレベルについてだった。明らかにダンジョンに出てくるモンスターのレベルが高すぎる。クエストの推奨レベル2に対し、推奨レベル4のモンスター2体をぶつけてくるのはやりすぎである。
ちなみに、ケイディアとダングルスは今の戦闘でレベルが上がり、キャラレベルが2になった。おかげでLP、MPは満タンである。
「はい、回復終わり」
「ありがとー」
「でも、もう私のMPほんとに無くなっちゃったよ?」
「そうだな。ここで帰るのも手だが……」
今の戦闘で、ゴブリン種20体というクエスト目標には到達した。だが、
「さっきの戦闘で笛を吹いてたやつがいるんだよなぁ」
「あれ、確実にMPK狙いだよなー」
『MPK』とはモンスタープレイヤーキルと呼ばれる行為だ。代表的なものはトレインと呼ばれるもので、モンスターを引き寄せて他のプレイヤーになすりつけるものがある。
おそらくPKは笛の音でレッサーオーガを起こし、ボブゴブリンを呼び寄せることでMPKを狙ったのだろう。よくよく考えれば、モンスターたちは軽い興奮状態になっていた気もする。それも笛の音の効果だろうか。
「進むか、戻るか……意見求む」
「んー、私は進みたいかなー?死んでもゲームだしー」
「私はMP切れかけだから帰りたいけど、進むって言うなら付き合うよ?」
「ここで帰るのも逃げたみたいで癪だしなあ。せっかくならPKの顔も拝んでおきたいし」
「クエスト条件自体はクリアしたし、死に戻っても問題はないか。なら―――」
「その必要はありませんわよ?」
と、不意に声がかかる。咄嗟に武器を構え、臨戦態勢をとったケイディア達だったが、奥の部屋から出てきたのは、彼らの知っている人物だった。
「……クラリネさん?」
「ええ、ごきげんよう」
クローベルの驚きの声に対し、ローブの裾をつまみ上げ挨拶を返す女性は、丘の麓で出会ったクラリネだった。丁寧なお辞儀に対し、ケイディアは驚いた声で問いかける。
「あんたが、黒幕だったのか……?」
「いいえ、違いますわ。黒幕のPKはわたくしが退治いたしました」
「……え?」
「皆さんと別れたあと、森の中でモンスターを連れている人を見かけまして、不審に思いその後を追ったのです。すると、このホルテ遺跡に入っていくものですから、皆さんのことが心配になりまして……。余計なお世話でしたか?」
「そうだったんだー。助かったよー」
「待て、サリミラ」
警戒を解き、歩み寄ろうとしたサリミラを止めたのはダングルスだ。ケイディアもうっかり警戒を解きそうになったが、考えてみれば、彼女の言うことが真実だとは限らない。
「……すまないが、あんたの疑いが晴れた訳じゃない」
「あら、わたくしを疑っていますの?」
「麓で会ったことであんたは俺たちの編成を知っていた」
そう言いながら、ダングルスは杖を構える。
「そう考えると、ゴブリンが回復役のクロを狙ったり、部屋の真ん中に飛び道具の対策がされていたことに説明がつく」
「……なるほどね」
「根拠としては、弱いですわね?」
ふふっ、と楽しそうにクラリネは笑った。確かに、偶然で片付けることができるくらいの小さな違和感だ。
「それに、あんたの名前、クラリネットから取ってるんだろ?」
「否定はしませんけれど、さっきの楽器はクラリネットではありませんわよ?」
「それでも、楽師なんてサポート特化のジョブを取る理由にはなるだろ?」
「楽師なんて、とは失礼ですわね」
そう言いながらもクラリネはニコニコと笑みを絶やさない。この会話を楽しんでいるようにも見える。
話し方には余裕があるが、ダングルスが引く気が無いことはクラリネにもわかったのだろう。
「素直に騙されてくれたら、楽ができましたのに」
彼女が微笑んだまま口に出した言葉は、ダングルスの推理が当たっていることを意味していた。
「三日に一回は上げたい」とか言った日から忙しくて週一投稿になっている気がする……w




