第5話 仲直り
「父上、体調まだ治ってないんだから、休んでてよ」
「お前が静かにしておけば俺があそこに行く必要もなかっただろう?」
「それは...。すみません。あと、話っていうのは...」
「話?そんなのない。女っていうのはな、感情的になってる時はとりあえずそっとしとくもんだ。話し合うのはお互い落ち着いてからだ。」
あ...気を遣ってくれたのか...?
実は、父上は最近はとても元気だ。顔色も良く見える。とても若く見える上に、顔が整っているから、昔は王都一の美形なんて言われていたらしい。今も言われるようだが。
父上は一定周期で病が発生するらしい。僕も父上の症状を自分の目で見たことがないから詳しくは分からないが、とても症状が重いらしい。
そして父上は全てを知っている。
僕の能力も、リトリシエとクラウシアが入れ替わってしまったことも、全て報告している。
だが、今日リーシェの妹に話された内容を伝えるべきか.......?
あの話を迂闊に信じるのは良くないと思う。こんな信憑性のない話を父上にしたところで、馬鹿にされるのではないだろうか。もうすぐで僕が公爵を引き継ぐというのに、こんな話をしたら失望されるかもしれない。
そう思い、ちらっと顔を上げると、父上と目が合った。
「スレン、お前隠し事をしてるな?」
「...何の話?」
「何か考えている時、人差し指で足を叩く。お前の癖だ」
自分の手元を見ると、たしかに人差し指が足を叩いていた。
そんな癖が.......。自分でも知らなかった。
「大したことじゃないから。」
「お前は隠し事が多いなぁ。まぁいい。早めに仲直りしろよ。あと、例の件。早めに考えろよ。」
リーシェの妹の話に確信が持てるまで、父上に話すつもりはない。
そして、例の件。
婚約の解消についてだ。
父上は恐らくリトリシエの能力によって洗脳されている。彼女が僕の想い人だと吹き込まれたんだろうな。だから父上が、今は中身が入れ替わってしまったから、僕が婚約を解消したいと思っているのだろう。
僕からしたら、今、入れ替わってくれてとても都合がいいが。
とにかく、最優先事項はリーシェとの仲直りだ。
それは分かっているのだが.........。
「あの、父上。」
「なんだ?」
「仲直りって、どうすればいい?」
―――
部屋から出たくないです.......。
昨日の夜あんなに言ってしまって、今から平然とした顔で一緒に朝食なんてぜっったいに無理です!!!それに寝たのに昨日以上に疲れが.....。
というか、私、スレンの本当の婚約者でもないのにどうしてあんな事を言ってしまったのでしょうか...!本当に、今から合わせる顔がないです.....。
私はどうしても部屋から出られず、窓際にあるソファに腰をかけ、窓の外を眺めました。
窓の外は晴天で、雲ひとつありません。お庭には綺麗な花がたくさん咲いていて、庭師により丁寧に手入れされています。窓の外からは微かに鳥の鳴き声も聞こえてきます。
「きれい.......」
私は思わず口にしていました。
聖女だった頃は命を狙われることもあり、自由に外に出られませんでした。何度か神官長に外に出てみたいとお願いしたことがありましたが、許可が降りたことはありませんでした。その頃は毎日のように外を眺め、自分の知らない世界に憧れを寄せていました。
初めて私が外に出たのは、王国聖女の選定儀式のときでした。私は、初めての外で、興奮した気持ちを抑えられませんでした。馬車が休憩していたときにこっそり抜け出して森に行ってしまったのです。その後どうなったのか、記憶はありませんが、とても怒られたような気がします。王国聖女になったあとは外への行き来は自由になりましたが、貧民地区へ行くことが多く、こうした綺麗な庭に触れたことはありませんでした。
あれ...?休憩中に抜け出した時、あの時が私が初めて自然に直接触れた日のはずだったのに.......。どうして記憶がないんでしょう...。昔の事だったから、忘れちゃったのでしょうか?
考えるのも疲れてしまった私は、窓を勢いよく開けました。一気に風が吹き込み、白いレースカーテンが靡きました。花の薫りが部屋に、風と共に流れてきました。私は大きく深呼吸しました。
「気持ちいい.....。あれ?」
そういえば昨日、スレンが私に会ったことがあるって言ってませんでしたっけ...。もしかして、私が抜け出した時に.......?なんか、時期的にも合ってそう...。
私に一目惚れ.......。
思い出しただけで、顔が熱くなりました。
どうしよう...。本当に、「私」のことがす、すき.....なんでしょうか?!
今思い返せば、彼は私にとても優しくしてくれていました。何度も2人で出かけましたし、よくお話もしてくれました。
なのに私は、昨日、そんな彼のことを否定してしまったのでしょうか.......。
とにかく、落ち着いたから、スレンに会いに行かないと。
そして、謝らないと.....。私が全部悪かったのです。
―――
リーシェが朝食に来なかった。
今までにそんなこと、1度もなかったのに。
確実に、昨日のことが原因だ。
そう思い、彼女の部屋の前まで来たのはいいのだが...。
「隠し事ばっかり、か.......。」
リーシェにも、父上にも言われた。
僕は昔から相手の心の声が聞こえていた。だから、相手がどれだけ言葉足らずでも、僕には相手の事が考えていることが十分に理解出来た。それが当たり前だったのだ。だから、僕自身も、全てを伝えなくても相手に伝わっているだろうと思ってしまうことがあった。
でも、なにも伝わっていないんだな.....。
昨日のことで全てわかった。僕が、全部悪いんだ。
僕は深く深呼吸をして、リーシェの部屋の扉をノックした。
返事がなく、部屋に居ないのかなと思い、少し扉を開けて部屋の中を覗いた。
すると、風が花の薫りと一緒に廊下を吹き抜けて行った。リーシェは窓際にいた。大きく開け放たれた窓から、勢いよく風が吹き込み、白いレースカーテンと、リーシェの白くて長い髪が揺れる。彼女の綺麗な髪は陽の光を反射して、きらきらと輝いていた。
「きれいだ.....」
僕は思わず、口にし、彼女に見蕩れてしまった。
「スレン.....?」
リーシェの声が聞こえ、やっと僕の意識が現実に戻ってきた。
「リーシェ、あの...」
「「ごめん」!!」
あ.........。被ってしまった.....。
「ふふっ.....。」
顔を上げると、リーシェが笑っていた。
「びっくりした!こんな息ぴったりに揃うだなんて!」
彼女はそう言いながら無邪気に笑った。
本当に可愛い。誰にも見せたくない。僕だけのものにしたい。心からそう思った。
「ねぇ、リーシェ」
僕はリーシェの手を取り、彼女の手の甲に口付けた。
「愛してる。僕と、婚約してほしい。」
更新遅くなりすみません!!
これからも少しずつ更新していきます。
私も頑張りますので、これからも読んでいただけたら嬉しいです!
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