第4話 喧嘩
「ねぇ、リーシェ。部屋から出てきてほしいな。」
「いやです」
「さっきの事だけど、本当に何もないから。」
「違うのです。」
「リーシェ?」
私はリアが帰ってからずっと、部屋に閉じこもっています。
あんな風に疑ってしまって、彼の気持ちを蔑ろにしてしまった私は、これからも、彼の隣に立つ資格があるのでしょうか。
「ごめんね、僕が悪かった。」
スレンはずっと、扉の向こうから声をかけてくれています。でも私は.........。彼から声をかけて貰う資格もないのかもしれません。
私はリトリシエではないのです。
でも...だとしたら.......どうして私をずっと傍に置いていてくれるのでしょうか。もし、彼は私ではなくて本当のリトリシエに想いを寄せていて、いつか彼女が帰ってくるのを期待しているのなら、私はただの邪魔者です。
そういえば、スレンは心の声が聞こえるから、私の事はたくさん知っているかもしれませんが、私は彼のこと、ほとんど知りません.........。
「リトリシエになったクラウシア」は本当に、この世に必要な存在なのでしょうか.......。
「ねぇ、リーシェ。どうしても出て来れない?」
「私にはこの部屋から出る資格はありません。」
「リーシェ。何かあった.....?」
「私って、スレンにとって、何なのですか.....?」
私は思わず呟いてしまいました。
スレン、嫌な思いをしてしまったかしら。
今すぐ訂正しないと.....。
「ねぇ、リーシェ。やっぱり出てきてくれない?この屋敷の部屋、全部防音仕様だから、君の声聞こえないんだ.....。」
.........え?
そうでした。私には加護があるから聞こえているだけで、普通だったら、話し声程度の音は聞こえないのでした.....。
私は、泣いて腫れてしまった目を隠すために俯きながら、扉を少し開けました。今は夜で、部屋の明かりも付けていないので、顔は見られないはずです。
「入ってもいい?」
「.......はい。」
スレンは怒っているのでしょうか.....。
表情を伺おうと少し顔を上げようとしたら、目の前が真っ暗になりました。
これは.........。スレンに抱きしめられているのですね!!急すぎて一瞬何が起きたのか分からなかったです。
でも、こうやって優しく抱きしめてくれているのに、この優しさを疑ってしまった自分が益々嫌になってしまいます。
.......本当に、彼にとって私って必要なのでしょうか...。
「リーシェ」
「.....はい」
私はスレンの胸に顔を埋めながら、小さく頷きました。
「幼い頃にね、屋敷を抜け出して、森に行ったことがあったんだ。」
.....急に何の話でしょうか.......。
「そこで、桃色の髪の少女と出会ったんだ。」
桃色の髪.......?私の、クラウシアだった頃の髪色と一緒.............。いや、気のせいですよね。そんな髪色の人、確かに珍しいですが、世界中を探せばどこかに...。
「気のせいじゃない。その時、僕は君に一目惚れしたんだ。」
...............え?
私、昔スレンと会ったことがあったの?
でも私の記憶には無いです.........。
「人違いなのではないでしょうか。」
「まさか、僕が一目惚れした女性を見間違える訳が無い。」
でも、だって、それじゃあ.........。
心臓のどきどきが止まりません。
昔から私のことが好きだったってこと...?
「じゃあ、どうしてリトリシエと婚約を.....?」
「それは.......言えない。」
まただ.......。また隠し事。スレンには私の考えていることが全部筒抜けだけど、私はスレンの考えていることが何も分からない。
「ちゃんと言ってくれなきゃ、わかんないよ.....。」
私の瞳に、また涙が溜まりました。
私はスレンのことをもっと知りたいのに、どうして教えてくれないの...?
「ごめんね、でも、まだ話せないんだ。」
「何なの、それ.......。」
だめ.......。感情的になっちゃだめ.......。ダメなのに.....。今言わなきゃ後悔しそうで.....。
「隠し事ばっかしで!!!本当の事かどうかもわかんないし!!!私のことを好きとか言いながら、私の妹とは言え2人きりで長話したり!!!もう、貴方の何を信じたらいいのか分からないの.....。私のことが嫌いなら、ハッキリ、嫌いって言ってよ.........。」
――言っちゃった。
でも、こうやって八つ当たりみたいに叫ぶしか出来ない自分が、本当に嫌い。
「―――煩いな」
.........え?
扉の方から、声が聞こえました。
聞き覚えのない声です。
でも.......私とスレンに、こんな口の聞き方ができる人、この屋敷には1人しか存在しないです.....。
扉の前に立っていたのは、30代後半くらいの男性でした。綺麗な黒髪に鋭い赤い瞳。一目見ただけで、誰か分かります。
「父上.......。」
スレンも驚いた表情で彼を見つめています。
「痴話喧嘩をするなら、扉をちゃんと閉めてからにするんだな。それとスレン。お前に少し話がある。」
そういうと、彼はスレンを連れてどこかへ行ってしまいました。
お義父様にお会いしたのは初めてでした。体調が悪いと聞いてきましたが、歩いて大丈夫だったのでしょうか.......。
「私に一目惚れ.........。」
本当なのかな.........。
本当だったらとても嬉しいのに.......。
更新遅くなりました。
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