第3話 嫌い
「死に戻り...ですか?」
「嘘はついてませんわ。クラウシア様に託されたのですもの。」
「どうして君に?」
「聖女は自分に強力な加護を与えることが出来ないのですよ。だからきっと、傍にいたわたくしに託されたのです。」
正直彼女には聞きたいことがたくさんある。僕もさすがに混乱した。リトリシエの本性。そして、リーシェの未来。全てが残酷で、信じたくないものだった。
「スレン殿下。わたくしに手を貸してくださらない?」
エルトリア嬢は僕を真っ直ぐに見つめて言う。
「わたくしも、貴方も、クラウシア様を守りたい。目的は一緒でしょう?」
「それはそうだが...........。」
彼女をこのまま信じてしまっていいのか、僕にはわからない。だが、彼女が本当にリーシェを慕っているのは、心の中を見た時にわかっていた。だけどどうしても、このまま鵜呑みにしてしまっていいのだろうか。死に戻り、なんて聖女の力で出来るのだろうか。僕一人では、わからない。
「リーシェの意見も聞いてもいいか?」
「だめですわ。彼女はいつどこであの女に監視されているか分からないですもの。」
「うーん、僕の屋敷なら大丈夫だと思うけど...」
「誘惑!!あれはある程度の聖力か魔力を持ってない人は、自分があの女の術中にいることにさえ気づかないのです!!この屋敷にも、もうすでにスパイがいるかもしれないのですよ.......。」
「それはまた冗談を.........。」
...本当にいるかもしれない。
そう思うと、やはりこの子と手を組んで、リーシェを完全に守るようにした方がいいのだろうか。考えれば考えるほど、わからない。
「とーにーかーく!!!」
急にエルトリア嬢が大声を出した。
「あなたは!!!いいよって!!!言えばいいのです!!!!」
「いやです」
「このわがまま!!!!!」
いや、どっちがわがままなんだか.......。
「一体、わたくしのどこが気に入らないというのです!!!!」
「いや、そういう問題じゃなくない?」
「ではどういう問題で断るというのです!!!貴方にはメリットしかないのですよ?!?!」
「いや、だから.......」
ガシャン!!
突然廊下から、何かが割れる音がした。
人払いをしたのに、どうして部屋の近くで音がするんだ?と思い、僕は勢いよくドアを開けた。
「っ、!!リーシェ.........」
そこに佇んでいたのは、リーシェだった。
―――――――――
スレンがリアと2人で話に行ってからもう30分も経ちました。スレンの自由を奪いたいわけではありませんが、どうしても、他の女性と2人きりで話しているという事実がとても悲しく感じてしまいます。
そういえば、初めて話した時に、リアは私に、スレンを譲ってって言われました。まさか本人に、2人きりでその話をしているんじゃ.......。
私はスレンのことを信頼しています。でも、もやもやしちゃいます。もし、その信頼を裏切られでもしたら.........って、スレンはそんな事する人ではないです!!
私は1人で首をぶんぶんと振り、その考えを頭から消しました。
でも、私もお話の内容、気になりますわ。
そう思い、私は2人が話している部屋の扉の前に来ました。
ここのお屋敷は各部屋の防音効果が凄いです。でも、私の加護があれば.....。
そうして、私は自分の耳に加護を付けました。
「とーにーかーく!!!」
!!!!
きゅ、急に大きな声が聞こえてきてびっくりしてしまいました.....。本当に心臓に悪いですわ。しばらく心臓のどきどきが止まらず、少しお話を聞き逃してしまいました。
「一体、わたくしのどこが気に入らないというのです!!!!」
本当に声が大きいのですね.........。
というか、何の話をしておられるのでしょう。
まさか、やっぱり、婚約者を変わってほしいとお願いしているのでしょうか.......。どこが気に入らない、というのは、どうして変わってくれないのか、という意味ですよね.......。やっぱり、リアはその話をするために2人きりに...........。
もし、スレンが、この扉の向こうで、そのお願いに頷いていたら、私は.........。
.......いやだ。
初めて私を1人の女性として大切にしてくれた彼を失うのは辛いです。彼が私にかけてくれた、優しい言葉が全て嘘だったら...........。
彼を信じたい気持ちと、信じたのに裏切られたらどうしようという恐怖。その両方がのしかかってきて.....
どうしたらいいの.........。
どうしようも無い感情に私は頭がクラっとしました。
ガシャン!!
ふらついた拍子に、廊下に飾られていた花瓶に肘が当たってしまったようです。カーペットの上に硝子の破片と水が散乱しています。
あっ.......。今の音、お部屋の中に聞こえていないですよね...。
そう思い、扉に近づいた瞬間、扉が勢いよく開きました。目の前には、スレンがいます。
「っ、!!リーシェ.........。」
スレンは驚きと不安の混じった目で私を見つめます。
彼のそんな表情を見て、私の胸はギュッと締め付けられました。
「リーシェ、ごめん、今の話...聞いてた?」
どうして彼が謝るのでしょう。盗み聞きしたのは私で、謝らなければいけないのも、私なのに.......。
「最後の方を、少しだけ...」
「そうか、」
彼は何故か少しほっとした表情を見せました。
何...........?どうして彼はほっとしたの?
「私に聞かれたくない話を、していたのですか?」
気持ちが昂ってしまって、私は何も考えずに口を動かしてしまいました。
「リーシェ?そういう訳ではなくて.....。」
わかっています。スレンはひどいことをしない人だって、信じたいのです。だけどどうしても、信じるのが怖くて......。
そして、今もこんなに優しい目で私を見つめてくれている彼を、信じきれない自分のことが、いちばん嫌いです。
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