十一、絡まる木蔦
ぼくは、玄関ホール前の階段に腰掛け、頭を抱えていた。
隣では、ミミが黙って座っている。
下手な慰めを言わないところが、正直ありがたかった。
デイジー、カメリア、ジニア、みんな殺されてしまった。
ぼくの周りにいる人間を一人、また一人とジワジワと殺していく。それが暗殺者の手なのだろうか。
ぼくは後継者なんかに興味はない。ぼくのことなんかほっといて欲しかった。どうしてそんな事のために、みんなが殺されないといけないんだ。
怒りと悲しみと虚しさが、一気に押し寄せる。
そして、その感情の波の合間に、ぼくはある可能性に気がついた。
(そんな……もしそうだとしたら……)
そこへ、吟遊詩人たちがやってきた。
「あの、ちょっと聞いて欲しいんですけど」
ぼくは階段から立ち上がった。
心臓が脈打つ。
足元がふらふらとおぼつかない。
頭の中で何度も爆発が起きているみたいだ。
「ジニアの部屋は、鍵が閉まっていたんですよね。誰も中に入ることが出来なかった。それはつまり」
ぼくは大きく息を吸って、吐いた。
「ジニアは自殺だったのではないですか?」
「自殺? 何のために?」
ミミが座ったまま、声を上げる。
「それは、刺客がジニアだったからです」
ぼくは声を絞り出した。
「わたしたちがこの島に来た時から、暗殺者はずっとそばにいたんです。それが、ジニアです。彼女ならば、ユーリを突き落とすことも、デイジーやカメリアを殺すことも出来ました」
ジニアがまさか刺客だとは誰も思わない。みんなが油断する筈だ。だからあのカメリアすらも、殺されてしまったのだ。
でも、最後にぼくを殺すことはできなかった。
「きっと、罪悪感にさいなまれて……それで、ぼく…いえ、わたしを殺す前に、自殺してしまったんではないでしょうか」
もしそうだとしたら。
ぼくは救いようのない愚か者だ。
ずっと彼女に騙されていたのだ。
しかし、吟遊詩人は優しく微笑んで言った。
「アイビーさん、もしジニアさんが自殺だとしたら、妙な点があるんです」
そして、ぼくに目線を合わせるように屈んだ。
「もし自殺だったら、首を絞めたもの——布や紐のようなものが部屋に残っていないとおかしいんです。でも、彼女の首には何も巻き付いていませんでした」
ぼくの肩に手を置いて、ぽんぽんと叩いた。
「大丈夫ですよ。彼女は、あなたを裏切ったりなんかしていません」
彼女はぼくを裏切っていない。
男の言葉に、ぼくの感情が決壊した。
そのまま膝をついて、声を上げて泣き出す。
ぼくは、自分勝手で自分本位だ。
もちろん、彼女たちの死は、胸が張り裂けそうなくらい悲しい。
でも、誰かがぼくを裏切っていたのかもしれないという疑いが、何よりぼくを苦しめた。悲しかった。耐えられなかった。
ジニアを疑った時、ユーリを怪しんだ時、幸せな日々が全てまがい物だったと言われたら、と心の中では怯えていた。それが何よりも恐ろしかった。
声をあげて泣くぼくを、吟遊詩人は優しく撫でていてくれた。
そして、少し落ち着いたぼくを見て、吟遊詩人は、静かに言った。
「アイビーさん、時間がありません。これから、ユーリさんのところに行きましょう」
「え?」
ぼくは驚いて、吟遊詩人の言葉を聞き返した。
「時間がないってどういう事? 次に殺されるのはユーリなの?」
「いえ、ユーリさんは殺されません。殺人は、もう起こらないはずですよ」
吟遊詩人は、階段を登っていく。
ミミ、そしてカイエンが、その後に続く。
「もう起こらないって、それはどういう事?」
「殺人はもう終わったからです」
ぼくも慌てて三人を追う。
階段を登りながら、必死に吟遊詩人に問いかける。
「どうしてユーリのところに行くんですか?」
吟遊詩人は、一旦足を止めてぼくを振り返った。
その顔は、哀しげで、ぼくはなんだか悪いことを聞いてしまったのかと不安になった。
「それは——ユーリさんに、笛をやめさせるためです」




