十二、屋根裏の謎解き
屋根裏部屋に踏み込むと、吟遊詩人は口を開いた。
「この島で起きた一連の事件。ユーリさん、あなたはその犯人を知っていますね」
吟遊詩人はそう言ってユーリをじっと見つめた。
ユーリは出窓に腰をかけ、一心に笛を吹いている。
「待って下さい。ユーリが犯人だとでも言うんですか? そんなわけないじゃないですか。だって、ユーリはこの部屋でこうやってずっと笛を吹き続けていたんですよ。
みんな聞いていましたよね。屋敷に響き渡る、彼女の澄んだ笛の音を。あれは……あの音色は、ユーリにしか出せないはずだ」
ぼくは、吟遊詩人の言葉に必死で抗う。
「アイビーさん」
吟遊詩人は悲しげにぼくに問いかける。
「あなたはご実家の後継者争いのせいで命を狙われていたのです。それなのに、この島にはあなた以外にメイドの女性が四人だけしかいない。なぜだと思いますか?」
「そんなの……居場所がバレないように隠れるため、出来るだけ少ない人数で——」
「たった四人ですよ?」と吟遊詩人は言った。
「少なすぎる、そう思いませんでしたか?」
吟遊詩人はそう言うと、小さくため息をついて意を決したように語り出した。
「料理人の部屋も、執事の部屋もある。護衛の騎士の部屋すらもです。アイビーさんはここを『小さな屋敷』と仰りますが、メイドの女性がたった四人で管理するにはこの屋敷は大きすぎるんです」
カイエンもミミも、じっと黙って男の話を聞いている。
「なぜ、屋敷にいる人間が、こんなにも少ないのか。いいですか、よく聞いてください。
この島は、一度、すでに襲撃を受けた島なんですよ」
「……しゅう、げき?」
ぼくは、意味が分からず聞き返す。
「この屋敷には、すでに暗殺者が送り込まれていたんです。その時に、みんな殺されてしまった。護衛の騎士たち、料理人、家庭教師、執事、みんなです。みんなすでに亡くなっているんです」
理解が追いつかず、頭が男の言葉を拒否する。
「そんな事、あるわけないじゃないですか。じゃあ、何でそれをわたし達が覚えていないんです? そんなことがあったら、わたしだけじゃない、他のみんなだって、忘れるわけないじゃないですか」
吟遊詩人は、悲しみをたたえてぼくをみつめる。
その顔を見て、ぼくは背筋が寒くなるような、嫌な予感がした。
この先は、聞いてはいけない気がする。
『怪談』よりも怖く恐ろしい、そんな話が待っている気がする。
吟遊詩人は、ぼくから目を逸らすようにうつむいた。
「デイジーさん、カメリアさん、そしてジニアさん。亡くなった時の姿で、一番、私が違和感を覚えたのは、抵抗した跡が全くない事です」
ぼくは、真横で亡くなっていたカメリアを思い出す。彼女が誰かに殺されているというのに、なぜぼくは目を覚さなかったのだろう。
「普通、首を絞められたらもがきます。綺麗に横たわった姿勢のままというのは不自然です。三人とも抵抗した跡が全くない。そして、ジニアさんが密室で亡くなったということ……」
吟遊詩人は、哀しく優しい声でこう告げた。
「ユーリさん。笛を吹く必要はないんです。本当に残念ですが、もう……手遅れなんです」




