#37 裏宮妖女難産の治療
「魔薬妖術、薬学魔法……ちょっと! 人の力を真似しないでよ!」
私は狐之妖妃に、猛抗議した。
いや、だってしゃーがないでしょ?
魔薬妖術って明らかに、私の薬学魔法を真似てるんだから!
「ははは、だからどうしたと申す? 真似られる程度の力であることが悪いに決まっておろう?」
「く……狐之妖妃、あんたねえ!」
もう、何その言い草!
人真似したことを恥とも思わないなんてえ!
――母上、お守りいたします……さあお行きなさい土蜘蛛! 母上を、我らが大願を守りなさい!
む、裏宮妖女!
白々しく、妖魔に命を降して来た!
◆◇
「しゃーがないわね……さあ来なさい、蜘蛛ちゃん!」
私はだけど、腹を括り。
大型化した蜘蛛に、そう戦線布告した!
すると、蜘蛛は。
ひっくり返っていた体勢を元に戻し。
私に、突撃をかまして来た!
「師匠!」
「案じることはないわ……玉帝有勅、神硯四方! 火精所司五行之火使妖魔燃! 急急如律令!」
だけど私も、反応し。
薬瓶から液を撒き、それを媒介に薬学魔法を発動したわ!
たちまち土蜘蛛は、火に包まれる。
「ふん、そんなことでは効かぬぞ! 裏宮妖女!」
――はっ、母上……魔王開封、四凶所被流於四方!
水魔克火魔所司五行之火、妖克薬、急急如律令!
「! な、火が!」
だけど、そこでまた件の魔薬妖術が発動して!
土蜘蛛を包む火が、掻き消され。
土蜘蛛はますます、怒りを増して来た!
――あらあら、随分と怒っているわね……いいわその意気よ、私もお助けしましょう! 魔王開封、四凶所被流於四方! 水魔生木魔所司五志之怒、魔薬使妖魔強、急急如律令!
む、また裏宮妖女は!
余計なことに、土蜘蛛に更なる魔薬妖術を施して凶暴化させて来た!
「まったく……本当にしゃーがないわね!」
◆◇
「ふふふ……見たか、我が愛娘の力を! 我が愛娘の魔薬妖術を!」
狐之妖妃は、空に浮かびつつ未だお腹を押さえつつも。
戦場を見渡し、嬉々として叫んでいるわ。
――ええ母上……しかし。私裏宮妖女は、今すぐにでも生まれ出とうございます……
「ふっ、ああそうであろうな我が愛娘……待っておれ、今産んで進ぜようぞ……」
裏宮妖女はだけど、狐之妖妃に出産を促している。
◆◇
「くっ、まったく! これじゃキリがないわ!」
再び、地上の戦場では。
私は尚も土蜘蛛に、薬を浴びせていくけど。
今言った通り、まったく効いてなくてキリがないわ!
「だ、だけど師匠! どうして裏宮妖女って、まだ生まれていないんでしょうか?」
「え? それは……まだ、生まれるには成長が足りないからじゃないの?」
だけどそこで去魔は、ふとそんなことを言って来たわ。
「うーん、だけど。もう口もきけるし魔薬妖術?も使えるし……成長、してるんじゃないですかね?」
ん?
あ、そういえば。
確かにそうかも!
って、いうことは……
「これは……産む途中で何かつっかえてるのかしら?」
私はふと、気づいた。
これは難産て奴かしらって。
「てことは……これは好機かもしれないわ!」
「え、好機ですか? ……ぐうっ! い、いずれにしても! 蜘蛛に隙がなくて、とても狐之妖妃や裏宮妖女にまでは」
うおっと!
ええ、そうね……
さあて、どうしましょうかしら!
◆◇
「ふうむ……我が愛娘! 苦しゅうないか?」
――はっ、私は大丈夫でございます……しかし、母上が
「ふん、私こそよい……さあて、どうしたものか……!?」
その頃。
宙に浮かぶ狐之妖妃は、相変わらず難産に苦しんでいたわ。
「金精克木精所司五行之木、急急如律令!」
「ふっ、相変わらずであるな愚かな後宮魔女め!」
――ええ、母上。所詮は母上のご期待に添えなかった女でしたわね……ん?
「む? どうした、裏宮妖女?」
そうして余裕ぶっこいていた狐之妖妃だけど。
裏宮妖女は、あることに気づいたわ。
――いえ……後宮魔女と、あと弟子がいたはずですが。
「!? そ、そう言えば……くっ、どこへ」
「玉帝有勅、神硯四方!」
――!? 母上! 魔王開封、四凶所被流於四方!
そう裏宮妖女が、訝しんでいる時。
私が式神に乗り、宙に躍り出た!
「火精所司五行之火使妖魔燃! 急急如律令!」
――水魔克火魔所司五行之火、急急如律令!
そのまま狐之妖妃に薬学魔法を振るうけど。
裏宮妖女もまた魔薬妖術を振るい、相殺して来た!
「ああら、残念だわ!」
「くっ……貴様あ!」
――なるほど……さしずめ、下で今戦っているのは弟子ってところかしら?
「ええ……まあね!」
頭も切れるみたいね、裏宮妖女!
だけど。
「さあて……あなたのその難産、治してあげないとね!」
――!? な、何ですって?
「難産を、治すだと!?」
「ええ、でもその代わり……もっと裏宮妖女には長くそのお腹に止まってもらわないと! お生憎だけれど、今はまだその為の薬ができそうにないから!」
「何!?」
――ふん……あなた、莫迦なの? そんな挑発を!
あらあら。
私が言ってみたことに対して、特に裏宮妖女ご本人からはご不満の声が聞こえてくるわね。
「挑発じゃないわ。ただ、今は引っ込んでてくれないかってだけよ。」
――ふん、それを挑発だと言っているのよ! ……当然、私の答えはこうよ! 魔王開封、四凶所被流於四方!
「あら……玉帝有勅、神硯四方!」
尚も、交渉を画策する私だけど。
どうやら決裂したみたいね!
「火精所司五行之火使妖魔燃! 急急如律令!」
――水魔克火魔所司五行之火、急急如律令!
私たちは結局、薬学魔法と魔薬妖術をぶつけ合った!
「ふふふ、はあ、はあよいぞ我が娘よ! さあて。土蜘蛛の方はどうなっているか……ん!?」
狐之妖妃はそうして、下の戦いに目を向けたけど。
そこで、驚いたことに。
「さあ……行っけえええ蜘蛛おお!」
「な……!?」
――!? は、母上!
何と去魔の命じるがまま。
土蜘蛛が、狐之妖妃に襲いかかった!
って、まあ私が夢幻之香を焚いて操るように去魔に命じたからなんだけどね!
――魔王開封、四凶所被流於四方! 金魔克木魔所司五行之木、急急如律令!
と、その時だったわ。
何と、空に空いた穴――裏宮から何か繭のようなものが躍り出て狐之妖妃の前に立ちはだかり魔薬妖術を浴びせた!
たちまち土蜘蛛は、瞬く間に下に落ち。
ひっくり返り苦悶する。
「な……あ、あれって」
私がそれに、驚いていると。
何と、繭は包む糸がどんどん解けていき。
やがて中から、狐之妖妃と同じく狐の面をつけ着物を来た女が!
「おうや……お前は」
「ええ、母上。お初にお目にかかります……」
この、感じ。
まさか。
「改めまして……この裏宮妖女、産んでくださった母上のため! その邪魔となる者たちを排除させていただきます……」
ついに誕生してしまった、裏宮妖女!
彼女は口角を上げて、ニッと笑ったわ!




