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後宮の魔女〜輿入れした薬学魔法マニア妃は宮中を魔改造ならぬ魔法改造する〜  作者: 朱坂卿
第九症 野馬台の土蜘蛛遣錦使の大錦症候群と裏宮妖女の難産
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#34 大錦症候群の生み出せし土蜘蛛

「くっ、すばしっこいわね!」


 私は今自分で言った通り、屋根裏に引っ付いたすばしっこい土蜘蛛を追いかける。


「気をつけて下さい、師匠! そいつは廊下も溶かす毒を持っていますよ!」

「む……ええ、そうね!」


 私は追いかけながら去魔の言葉にはっとする。

 そうね、恐らく木は溶かされる。


 なら――


「……玉帝有勅、神硯四方! 金精(エーテル)生金鎖、捕妖魔! 急急如律令!」


 金鎖なら、どうよってね!


「や、やった捕らえ……って!? だ、駄目みたいです師匠!」


 く、ええそうね去魔……

 金鎖でも溶かされるなんて!


 だけど、打ちひしがれてもしゃーがないわ!


「溶かす……もしかしたら、そこにあの蜘蛛の手がかりがあるのかも!」


 そう、私は薬学魔法を使う後宮魔女。

 敵の属性を、まずは見なくちゃ!


 そう、溶かす。

 溶かす、溶か……


「……酸!? てことは……」


 私は走り回りながら考えて、合点したわ。

 そう、酸。


 五味のうち、酸。

 それを司るは、五行のうち木。


 と、いうことは――


「……って! ちょっとちょっと、木ならなんで今の金を司る薬にやられないのよ!?」


 私はそこで、歯軋りした。

 そう、あの妖樹公主の一件然り。


 ――金精(エーテル)木精(シルフ)所司五行之木、急急如律令!


 木精(シルフ)金精(エーテル)に弱い筈じゃないの!


「し、師匠! もしかしたらですけど。あの妖樹公主と同じく、薬学魔法への耐性を獲得してるんじゃ……」

「あ……!? え、ええええ! 私は既に知ってたわよ!?」


 あ、なるほど……

 そうね、去魔!


 まあ口ではこう言ったけど、ここはあなたの言った通りよ!


 私より先に気づくなんて、まさに負うた子に教えられとはこのことね!


 とはいえ。


「だけど、どうしたらいいのかしらね。これは。」


 私は歯軋りする。

 既に妖樹公主の一件の際、色んな手を私は見せてしまっている。


 だから今回は、大きく手を変え品を変えてやらなきゃしゃーがなさそうね!


 ◆◇


「土蜘蛛……大錦の文化の恩恵を受けた野馬台(我が国)の言葉で辺境の夷狄を意味するものでもありますぞ陛下!」


 あてがわれた部屋で。


 土蜘蛛より送られて来る情報を感じ取りながら、誰に聞かせるでもなく長我麻呂はそう言っているわ。


「三国妃が役に立たなくなった以上、私がやらねばなりますまい。狐之妖妃様、あなた様に救われしこの恩を返さねば……」


 長我麻呂は歯軋りしているわ。

 そんな彼の心中に去来しているは。


 ――ぐっ!? な、何をする禄斬殿!?


 ……え!?

 ろ、禄斬ですって!?


 私は毎度お馴染み、この時は妖魔の元になっていることも含めて長我麻呂のことを何も知らなかったのだけど。


 どうやら、優秀であったが故にあの忌々しい禄斬に嫉妬されて監禁されていたみたい!


 そこを狐之妖妃に救われ。

 康禄斬の乱を機に、野馬台へ逃げ帰ったということのようね。


「あのままなれば私は、永遠に出られず終いであったことでしょう……であれば。あなたには苦しんでもらわねばなりませんな、後宮魔女殿……」


 むう……勝手なことばっかり言ってえ!

 私はこれでも、陛下の御命であなたのことを助けに行く途上なのよ?


 ◆◇


「……玉帝有勅、神硯四方! 土精(ノーム)金精(エーテル)木精(シルフ)所司五行之木、急急如律令!」

「むう! ……し、師匠の薬が効かないなんて!」


 その頃。

 私はそうとも知らず、去魔と共に妖魔追いかけっこしているわ!


 まあでも、効かないのは分かるから今はしゃーがないわ!


 この調合は、既に妖樹公主の際に見せたものだし。


「うーん……さあて! 次はこれよお!」


 ◆◇


「ふふふ……ああああ、後宮魔女が薬を使いせっせと妖魔を倒そうとしておるしておる。」


 これも、私はその当時は知らなかったのだけど。


 そうほくそ笑むは、狐之妖妃。

 どういうやり方かは知らないけど、私たちの戦いを見て嘲笑ってるみたい!


 まったく……


「……しかし、腹立たしい! 早く新しき調合を見せぬか、間抜けめが! そうだ、そうでなくば……この娘が産まれて来ぬではないか……」


 と、狐之妖妃が意識を向ける先にあるのは。

 何やら、後宮の一角?に陣取る脈打つ繭のようなもの。


「そうだそうだ、我が娘に早く与えねばな……あらゆる薬学魔法を凌ぐ力を! さすれば近づける、仙丹(エリキシル)――百薬の長に!」


 狐之妖妃は歯軋りしている。

 やはり、それが狙いなのね。


「……もうよい、今宵は収穫なしと見える……長我麻呂! その力を畳め、もはや今宵は引くのじゃ!」


 だけど、私が土蜘蛛に手間取る間に。

 狐之妖妃は痺れを切らし、長我麻呂にそう思念を送ったわ。


 ◆◇


「えい! さあ、これでどうかしら……って! ち、ちょっとどこ行ったのよ!?」

「よ、妖魔の気配が、消えた……?」


 私と去魔が、驚いたことに。

 土蜘蛛ははたと消えたわ。


 勿論、この時狐之妖妃がどうしたかなんて分からなかったから何が何やら分からなかったけど。


「師匠……」

「ま、まあとにかく! は、早く遣錦使の所に行きましょ!」

「は、はい!」


 私はそこで、気を取り直し。


 そのまま、お目当てに向かうことにしたわ。


 ◆◇


「そんな……ま、またこの宮中に妖魔が!?」

「だ、大丈夫遣錦使さん?」


 その後、私は長我麻呂の部屋についたけど。

 先ほどの土蜘蛛の話をしたら彼は、塞ぎこんでしまった。


 いいえ、まあ塞いでいるのは元からかしら。

 さておき。


「……やはり。故国野馬台への郷愁故の適応障害、といったところね。」

「き、郷愁故、ですか……」


 私はだけど、長我麻呂にそう告げた。

 そう、さながら長我麻呂は大錦症候群といったところかしら。


「で、でも師匠。それは……」

「ええ、その通りよ我が弟子。」


 去魔に私は目配せして、彼の言わんとしていることを肯定したわ。


 そう、それはいつぞやの夢遊病と同じく心の病。

 だから本当は、薬で治るようなものではないんだけど。


「玉帝有勅、神硯四方! 夢幻之香使遣錦使夢見故国野馬台、急急如律令!」

「ん! な、なんだか眠く……」

「あ! な、なるほど……この手が!」


 ええ、そうよ。

 せめて、故国のいい夢を見せてあげないと。


 私もこの時は、この長我麻呂が土蜘蛛の根源とは知らず。


 ただただ、応急処置を施していた。


 ◆◇


「ん!? あ、あなたは!」

「久しいな……後宮魔女!」


 だけど、次の夜私が長我麻呂の部屋に行くと。


 私が、驚いたことに。

 そこには、狐之妖妃の姿が!

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