#32 妖樹公主・雪獅子妃・不可殺王女による合併症の治療
「玉帝有勅、神硯四方! 金精克木精所司五行之木、急急如律令!」
「ほほ、だから言っているでしょ! 私の可愛い妖樹ちゃんにその力は効かないの!」
私が瓶から撒いた薬を浴びる妖樹の枝だけど。
少しばかり萎びるような素振りを見せつつ、すぐに元通りになった!
「……火精使木精所司五行之木燃!」
「く! また来たのね後宮魔女の弟子とやら……だけど!」
ええ、当然効かないでしょうね!
去魔が撒いた薬による火も、すぐさま枝から放たれた冷気により無力化された。
「ふん、まったく……もう打つ手なしと見るややぶれかぶれって所かしら、でもねえ!」
「む! これは!」
調子づく毘那妃は。
そのまま冷気により多数の氷柱が生み出され。
更にその氷柱一つ一つには、無数の口が!
「くっ、師匠! 火精使木精所司五行之木燃!」
「くっ!」
あらあら……
咄嗟に去魔が、また火精の薬を撒いて防いでくれたわ!
「ありがとう私の弟子! だけど……ここは、一旦退却しましょう!」
「は、はい!」
とはいえ。
氷柱はやはりその程度ではやられず、尚も襲い掛かって来る!
「あーもう、しつこいなあ!」
「しゃーがないわよ、今はとにかく逃げるが生きるが上計だから! さあ、早く!」
「は、はい!」
そう、今行った通り。
とにかく私たちは、今は走る走る!
「ふん、逃がす訳ないでしょうが! さあ……氷柱よ、枝よ、全てを貪る口よありったけ生まれなさい! そうしてこの者たちを、全て食い尽くしなさい!」
……あらあら。
毘那妃はご丁寧にも、更に氷柱を増やし。
枝も伸ばして私たちを囲い、襲って来た!
あわや、絶体絶命!
だけど。
「さあて、そろそろ浸透した頃かしら……玉帝有勅、神硯四方! 木精所司五行之木……」
「ほほほほ、何よ! また無意味な抵抗を?」
私は落ち着き払い、呪文を唱える。
無意味な抵抗?
いいえ、無意味でもないし。
ましてや、抵抗でもないわ!
「……生火精克金精所司五悪之寒!」
「は? ……ぐうっ! な、何これは?」
私がその呪文を唱えると。
枝の動きが鈍り、氷柱は悉くひとりでに溶けていく!
そう、これは攻勢――反撃よ。
◆◇
「な、何これは! ぐっ……これって……さっき枝に打ち込まれた薬じゃないわ! も、もっと奥から堪えて来る……がはっ!」
「ええ、この薬もさっき打ち込んだ物には変わりありませんが……これは、夢幻之香に混ぜこんでいた薬です!」
「な……む、夢幻之香ですって!?」
――玉帝有勅、神硯四方! 土精所司五志之思、夢幻之香使人眠! 急急如律令!
――む!? ……あら、これは。
そう、あの時。
私が焚いた夢幻之香の煙が、妖樹の根本一帯に立ち込めていたけれど。
その夢幻之香には、あなた向けに新たに調合した薬を混ぜ込んでいたの!
それは夢幻之香の煙と共に妖樹の根本に立ち込めた時に根本に浸透し。
まずは木精の性を帯びて、妖樹に馴染んでいく。
「火精克金精所司五悪之寒!」
「ぐっ……がはっ!」
んで、まずは雪獅子妃の冷気から無力化させてもらっているわ!
――……生金精克木精所司五行之木、急急如律令!
――ん!? こ、これは……ぐう!?
――ふん、なるほど油断したわ……だけど!
――甘いわ……私の妖樹ちゃんが持っている性は、今や一つじゃないって忘れたかしら!?
……そう、雪獅子妃と初めて対峙した時は気づかなかったけど!
さっき、こういう流れで妖樹に薬を克服されたことから見て、恐らくこの時は雪獅子妃の力で金精の力を克服された!
だけど皮肉にも、このことが私に雪獅子妃の力すなわち金精の性だと教えてくれたのよ!
「……火精生土精、所司五行之土克水精所司五行之水―― 土精克水精所司五金之鉄!」
「ぐう……くう! 次は……不可殺王女の力を潰しに!?」
はい、よくできました!
その通り、さあこれで二国の妃の力は封じました!
後は――
「…… 土精生金精克木精所司五行之木、急急如律令!」
「ぐううああ! と、止めよくも刺しに来たわね……このお!」
はい、その通り!
かなり迂遠な攻略だったとは思いますけど、良くはなくても悪くはないでしょう?
「ほほ……だけど甘く見ないで頂戴! 如何な根に薬を叩き込まれたとて、即死はしないわ……これも即刻克服すればいいだけの話よ!」
「あら……くっ、木が!」
あらあら。
薬に必死の抵抗を見せてか、妖樹は不規則に脈打ち畝っている。
「ほほほほ! さあどうかしら後宮魔女、今こそ」
「はっ!」
「やっ!」
「ぐっ!? な……こ、これは!?」
「あら? ……あらあら!」
だけど、次には。
何と、妖樹の根本あたりから無数の氷柱が生えて突き破り。
更にその氷柱にある無数の口が、妖樹を内側からバリバリと噛み砕き破壊して行く!
「まさか……あなたたちなの!?」
「ええ、妖樹公主おはようございます……」
「私たちに床を供してくれたこと、お礼させてもらうわ!」
毘那妃が、驚かれたことに。
それはさっき、私の薬によって力を無効化されたことで目覚めたミンマー妃に保明妃だったわ!
「どういう、つもりかしら……?」
「はっ、どういうつもりかって? そんなの……あなた自身が言っていたじゃない! "獅子身中の虫獅子を食う"って……その言葉、そっくりそのままお返ししているまでよ!」
保明妃は毘那妃に、鼻を鳴らしながらそう答えた。
「何ですって……何でよ! 食うべき獅子は私じゃない、大錦だってのに!」
「あ、もう獅子獅子言わないでもらえますか? 不愉快なんで!」
「ぐう! あ、あなた……!」
ミンマー妃も、毘那妃には牙を剥いている。
「くっ……誰も彼も所詮はこの程度! 所詮はやはり辺境の夷狄止まりが! 今に見ていなさい、私は違」
「大きな隙ができてるわ! 玉帝有勅、神硯四方! 火精使木精所司五行之木燃!」
「む……後宮魔女お!」
毘那妃がそうして、二国妃に拘っている間に。
私は完全にお留守となった根本に降り、易々と追加の薬を浴びせた!
「ふん……だけどその薬はもう見切っているわ! この」
「……火精生土精! 土精生金精、克木精所司五行之木、急急如律令!」
「く!? ま、また薬の調合を、変えて……ぐああ!」
ええ、同じ薬なんて食らわせやしないんだから!
これであなたに、止めを刺す!
「……金精生金之針、急急如律令!」
「ぐうあ! き、木が内側からの針山に、食い破られて……!」
そう、更に!
妖樹の根本を、物理的に破壊させてもらったわ!
「さあ……私たちのもお食らいなさいな!」
「ぐう! こ、これは……み、ミンマー妃に保明妃!?」
更に更に。
私の攻撃に追い討ちをかけるがごとく、雪獅子妃の氷柱と不可殺王女の無数の口も中から妖樹の根本を食い破る!
「ええ、よくも私たちを虚仮にして……もうすぐ私たちの力も消えるけれど、その前にせめてもの仕返しよ!」
「ふん、つくづく、辺境の夷狄、止まり共があああ!」
ミンマー妃も保明妃も、最後の力を振り絞り渾身の一撃を妖樹公主にお見舞いした!
すると、そんな妖樹公主の断末魔を最後に。
妖樹は萎びていき、やがて朽ちていく――
◆◇
「師匠!」
「ええ、ありがとう去魔ちゃん! どうやら二国妃の眠りを覚ましてくれたみたいね。」
「はい! 呼びかけには、ご両妃ともあっさり応じてくださいました!」
私は砂煙と朽ちていく妖樹の滓が舞い視界が悪い中。
去魔と合流する。
「まあでも、まだ勝負は終わっていないわ……」
「……はい。」
私はだけど、周りを見渡す。
すると煙の中に、三つの人影が見える――
◆◇
「まったく、せっかく薬を克服できるようになった私の力を分け与えたというのに……また誰も彼も役に立たぬか!」
この様子を見ていた、狐之妖妃は。
キリキリと、奥歯が言うほど歯軋りをしているわ。
「……狐之妖妃様。」
「! おや……戻ったか、季朝献!」
と、そこへやって来たのは何やら男性。
そう、この男は。
「はっ、あなた様に助けていただきし季朝献――島国野馬台の阿江長我麻呂! その御恩に報いるべく、再び野馬台より馳せ参ぜし次第にございます……」
今名乗った通り。
島国野馬台からの遣錦使・阿江長我麻呂だった――




