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後宮の魔女〜輿入れした薬学魔法マニア妃は宮中を魔改造ならぬ魔法改造する〜  作者: 朱坂卿
第七症 不可殺王女による鉄欠乏症
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#28 鉄欠乏症の治療

「この地響き……これは!?」

「ええ、私の可愛い不可殺(プルガサリ)ちゃん! こんなに大きくなって……ますます可愛くなったわ♡ さあて……あなたを小さい頃甚振ってくれた奴らよ、好きなだけ復讐しちゃいなさい!」


 すっかり上機嫌な不可殺妃は、私たちに対してそう告げた。


 すると。尾はそのまま地中に潜って行き。

 かと思えば、次には先刻とは比べ物にならないほどの地響きが轟き!


 牛角に狼のような四つ足の獣が、湧いて出たわ!


「し、師匠!」

「ええ、去魔ちゃん……これが、不可殺とやらなのね!」


 まったく……

 こんな大きな敵、前代未聞よ! 


 ◆◇


「どんな大国でも、君子を都諸共消し飛ばせば滅びる……なら! この都越安を、私と不可殺ちゃんで踏み潰してみせるわ!」


 いつの間にやら不可殺の背中に乗っていた不可殺妃が、私たちにそう告げた。


「ど、どうしましょうか師匠!」

「ええ、そうね去魔ちゃん……」


 私は考える……いえ、正確に言えば考える振りをしていた。


 だって。


「……撤退よ。」

「……はい!?」


 もう、それしか道はないと分かりつつあったから。


「私たちに勝ち目はないわ、ここで撤退すべきよ!」

「……いやいや! あんな奴さっさとやっつけて下さいよ、薬学魔法で」

「無理よ。あんな巨大な奴が出て来るなんて完全に想定外。とてもじゃないけど……いえ、()()()! あの巨体じゃあ私たちが使ってきた薬の量で殺し切れないわ!」

「そ、そんな……」


 その通り。


 あんな巨体なら、致死量になり得る薬の量は、これまで私たちが使っていたような薬じゃ到底効かないわよ?


「そうよ、想定外。だから、今めちゃくちゃ焦ってるわ。」

「いやいや師匠! それもう、完全に棒読み臭いんですが?」


 うん、まあそうね。

 焦りもしてないかな、ちょっと諦めかけてるかな……


「そ、そうだ師匠! あれって結局は生き物なんですよね? なら……し、心臓とかに薬を直に打ち込めば! あ、あるいは脳に薬を打ち込めば!」


 ええ、それも考えた。

 ……だけどね、去魔。


 多分それも無理。


「……さっき、あいつの尾が私たちに振り下ろされそうになった時聞いた。キーンて、刃が打ち付けられたような音を……」

「……え?」


 ◆◇


「な、何事じゃ!」

「へ、陛下……ば、化け物が都にこの宮に現れました!」


 そうして、その頃。

 この騒ぎに気付いた陛下や衛兵たちが出て来たわ。


「ははは、よく聞きなさい大錦の者共! この越安は私とこの不可殺ちゃんで踏み潰させてもらうから!」

「! な……あ、あれがその化け物か!?」

「は、はい! く、あれでは……」


 あらあら、驚いてる。

 まあ無理もないわよね、あんなのが来るなんて聞いてないんだから。


「大陸の覇者大錦を舐めるな! 射殺せ!」

「はっ!!!」


 衛兵たちは、だけど引かず。

 不可殺に向けて数多の矢を、うち放った!


「ふん、そんなものが効くものですか!」

「く……矢を弾くか!」


 でも、放った矢は。

 不可殺の硬い身体に弾かれてしまったわ!


「な、何ですかあれ! や、矢を弾いた?」

「ええ、やっぱりね! あいつの身体、鉄で出来てるのよ!」

「な、て、鉄!?」


 私は去魔に、そう説明した。

 そう、鉄よ。


 奴の硬さの秘密はそれ。


「一体どうすれば……」

「あ! し、師匠足に!」

「え……あ。」


 と、その時。

 私の右くるぶしを見た去魔は、そこにある切り傷を発見したわ。


 ああ、多分。

 さっき不可殺の、尾による一薙ぎを食らった時負傷したのね。


「あら……まあ。」

「あらまあ、じゃないですよ! は、早く手当しないと!」


 あらまあ(二回目)。

 まあでも、そんなに慌てることもないわ。


 ほらもう、血も固まって……


「む!? これは、なるほどね……その手があったわ!」

「え? し、師匠?」


 私は、去魔からしたら奇妙なことに。

 自分の切り傷を見て、目を輝かせていたわ。


 ◆◇


「さあさあ、どうしたのかしら大錦! この前の遊牧民との戦いといい、こんな雑魚が大陸の覇者とは笑わせるわね!」

「く……貴様!」

「いや、駄目だ! 早く引け、このままでは宮殿諸共」

「ぐ……!」


 そうして、衛兵たちは。

 悔しいけど不可殺妃の操る不可殺の前に、手も足も出ず。


 ただただ、その大きさに恐れ慄き逃げ惑うのみ。


「ははは! さあ、このまま」


 と、不可殺妃が宮殿を踏み潰すべく不可殺の前半身を持ち上げさせたその時だったわ!


「待っていたわ……この時を! えいっ!」

「よ、よし……行っけええ師匠!」


 私は自分でも言った通り、この時を待っていたとばかり。


 木の薬学魔法で成形した弓に、水――鉄の薬学魔法で成形した矢を放った!


 矢は宙を舞い、狙い過たず不可殺の胸――心臓の位置に!


「あれは後宮魔女……ふん、莫迦めが! 矢なんてこの不可殺ちゃんには効かないのよ、さっき見たでしょう!?」

「果たしてそうかしら?」

「はっ? ……きゃあ! ぐ……ふ、不可殺ちゃん!?」


 余裕綽綽な不可殺妃だけど、すぐにその余裕は崩れた。


 彼女が乗る愛しの不可殺ちゃんが、苦悶で暴れ出したからね!


「ば、莫迦な! や、矢なんて通る訳が」

「……玉帝有勅、神硯四方! 水精ウンディーネ所司五行之水、使不可殺錆! 急急如律令!」

「!? そ、そうか師匠……鉄を錆びさせたんですね!」


 ええ去魔ちゃん、その通り!


 さっき私は、自分の切り傷を見てふと気付いたの。


 さっきまで赤かった血が、黒くなっているって。

 そう。血も鉄錆なら、更に錆びて黒くなる。


 そこで思い出したわ、水や血は鉄を錆びさせるの。


 だから、人を斬ったら刃物は清める!

 兵の常識よ。


 ……まあだからこそ何故五行の内、水が鉄を司るのか未だに謎なのよね。


 まあ、それはさておき。


「……土精(ノーム)水精(ウンディーネ)所司五金之鉄、急急如律令! 土精(ノーム)水精(ウンディーネ)所司五金之鉄……」

「ぐっ……プ、不可殺ちゃん!」


 とはいえ、あれは化け物だから矢が心臓を貫いたってそれだけじゃ死んでくれない。


 だから矢に仕込んだ薬をじわじわと、心臓に打ち込んでいく。


 心臓を直接狙えばあんな大物でも、そんなに多くの薬無しで仕留められる!


 やがて。


「く……ぐうっ! わ、私の不可殺ちゃんが!」


 不可殺は、限界を迎え。

 そのまま自重に耐えきれず、崩れていく!


「や、やりました師匠!」

「ええ……さあ、行くわ去魔ちゃん!」

「はい! ……え、どこに?」

「不可殺妃の所。」

「え……ええ!?」


 うん、驚いていないで早く行きましょう。

 だって不可殺妃も、一応は救うべき人だから!


 ◆◇


「くっ……この! 後宮魔女……よくも……」


 不可殺が崩れてモウモウと土煙が舞う中。

 不可殺妃は、意識を保っていた。


「不可殺妃……」

「!? こ、後宮魔女……どこに!」


 私の声が、そこへ聞こえ。

 不可殺妃は、周りを見渡す。


 でも土煙の中で私の姿は、捉えることが出来ない。


「まあその前に不可殺妃……あなた、欣羅(キルラ)保明(ボミョン)妃ですよね?」

「!? な……」


 うん、これは図星ね。

 だって。


不可殺(プルガサリ)……欣羅(キルラ)語訛りの汎文読みですよね?」

「く……あなた、大錦人の癖に辺境の夷狄のことに詳しいみたいね!」


 これは、認めたみたいね。


「あなたこそ何者かしら? 大豪商の娘とか?」

「私のことはいいでしょう? それより……このことは黙っておきます、だからお立ち去りください。」

「!? え?」


 だけど私は。


 自分でも分かっていたけど、不可殺妃――いいえ、保明(ボミョン)妃が困惑するようなことを敢えて言った。


 そう、見逃しよ。


「どうせあの不可殺ちゃんとやらが倒れれば、もうあなたなんかに戦う力はないんでしょう? それとも……ここで私の薬学魔法に倒れたいですか?」

「ふん……謹んでお断りするわ!」


 私が敢えてそう言うと。

 保明妃は大人しく、土煙の中から消えた。


「……いいんですか師匠? あれで」

「いいのよ……これで!」


 ええ、まあ誹りたいのは分かるわ去魔。

 自分の手で止めを刺せない――ということももう見抜かれてるんでしょうね。


 でも……これでいいの。


 ◆◇


「ふん、口ほどにもない奴めが! 不可殺王女も……後宮魔女も!」


 そうして、全てが終わった後。

 どこから見てたんだか、狐之妖妃が私と不可殺妃――いえ、不可殺王女を誹っていた。


 ……まあ、無理もないかしら。


「……後はそなたぞ、毘那(ビルナ)公主!」


 ◆◇


「……できるならば、北のみならず。南をも併呑したいと思うは大国の――いえ、人の性! ……そうですよね、狐之妖妃様……」


 ――私の可愛い公主よ……ご覧。この高原を。

 ――す、すごく広いです父上!

 ――ああ、だが……この高原も狭い。この大陸の広さに比べればな……

 ――? 父上?


「あの時は子供で、無知でしたが……今は分かりますわ、父上……」


 その頃、毘那(ビルナ)妃の頭に浮かぶは。


 父たる廻骨(ウイグ)何干(カガン)(北の遊牧諸民族の言葉で王の意)である永義康功毘那(ビルナ)何干の顔だったわ――

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