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今回の訪問は、シャルン、レダン、ガスト、ルッカ、ベルル他身の回りの世話をする者数名となった。
ミラルシアはもちろん、サリストアも国を放ってでもいいと行きたがったが、長い滞在になる可能性があり、その間、アグレンシアに国政を支援してもらうとなれば、いろいろよからぬことを考える輩も出てくるだろう。
「つまり、私にカースウェル=ハイオルトの盾となれと」
唇を尖らせたサリストアは大きく深く溜息をついた。
「そりゃあさ、私とレダンの仲だからさ、他ならぬシャルンの頼みでもあるしさ」
ぶつぶつぶつ。
不満そうな響きを滲ませる。
「国も落ち着いているしさ、こうやってこっちでお茶するぐらいは手も空くけどさ」
カップの茶を含みながら、上目遣いにシャルンとレダンを交互に見やる。
「でもさ~~~!」
私だって、少しは楽しみたいんだよ!
天井に向かって大声を上げる。
「ほんっと、王様って面倒臭いよな!」
「そんなに嫌なら、放り出せばよかろう」
同じようにしれっとお茶を飲みながら、ミラルシアが突っ込む。
「放り出したくてもさ~、皆んな弱っちいしさ、相手にさえならないんだよ」
サリストアは鋭い光を瞳に過らせる。
「暇潰しに相手したら、近衛全部なぎ倒しちゃうし」
「おい」
レダンは呆れた。
「何をしている」
「仕方ないから、一斉に来いって言ったのに、ばらばら来ちゃうから、ついつい叩きのめしちゃうしさ」
「相変わらず体力バカですね」
新たなお茶を注ぎ足しながら、ガストは頷く。
「さすがアルシア」
「面白がってるだろ、ガスト」
サリストアがじろりと相手を睨みつける。ガストは動じた様子もなく、心配そうに眉を寄せ、
「いえいえ、アルシアの将来を案じています。あなた程度にそんな様子では、この先安泰とは難しいかもしれない。いっそカースウェルと併合します?」
「あ、それいいかも、そうなったら、アルシア=カースウェル=ハイオルトだよね!」
「違うだろう、カースウェル=ハイオルト=アルシアだろう」
「何でさ! でもまあ、併合しちゃえば、王様はレダンでいいし、私はシャルンと一緒に居られるし、何ならシャルン付きの近衛でもいいよね!」
「そんな、サリストア様!」
誰もまともに取り合わない中、シャルン一人が青ざめた。
「アルシアのような立派な国がなくなるなんて、とんでもないことです」
「うわああんんっ、シャルンっ」
新たなお茶のカップに手を付けないまま、サリストアがシャルンにぎゅっと抱きついた。
「君だけだよ、私のことを真剣に考えてくれてるのは!」
「止せ離れろしがみつくな、シャルンが減る」
レダンが険しい顔で手を伸ばし、サリストアがくっついたままのシャルンを引き寄せる。
「減らないよ!」
「減る」
「減るわけないでしょ!」
「減る! 肌とか髪とか確実に擦り減る!」
「ふっふっふ…」
ミラルシアは楽しげにレダンとサリストアを見やり、ちらりと背後に立つルッカに視線を投げる。
「ここは本当に楽しいなあ、ルッカ?」
「馬鹿はいろいろ揃っておりますね」
「それで? 私はアグレンシア様の剣として留守居すればいいのじゃな?」
「大変申し訳ありませんが奥方様のためです、よろしくお願い致します」
ルッカが深々と頭を下げる。
「いつもなら場を制するはずのガスト様でさえ、少々浮かれております故」
「え、私も馬鹿に入ってるんですか」
ガストがぎょっとした顔で振り向くのに、ルッカは冷ややかに応じた。
「おふざけにしても、他国王族のお茶に眠り薬は不敬でしょう」
「あ、やっぱり?」
レダンとぎゅうぎゅうシャルンを取り合っていたサリストアが満面笑顔でガストを見上げる。
「妙な匂いだな~と思ったんだ」
「ちょっと黙って頂けないかと気が迷いまして」
「飲んでたらどうするの」
「飲まなかったから問題ないでしょう」
「あるよ、普通」
「ありますよ、ガスト」
さすがにシャルンがなお青ざめて、そろそろ頃合いかとレダンはシャルンを離し、ガストに視線を送った。
「はい」
心得てガストがテーブルのお茶を片付け、地図を広げる。
一同それぞれに覗き込んで、ザーシャルへの道程を確認し合った。
「今回はリオル橋ではなくミヤ・シーナ谷を通る。前の馬車にガストとベルル、中央に私とシャルン、後ろにルッカが乗る。一番最後は荷物の馬車だ。ミヤ・シーナ谷の国境警備で一泊はするから、かなりゆっくりした行程になる。ザーシャル側の国境で、サグワット王の婚約者、アデナ・イルスト様が迎えて下さることになっている」
「婚約者?」
シャルンが少し驚いた声を上げた。頷いて続ける。
「訪問を打診した後の手紙で、婚約したので引き合わせたいと追伸があった」
「あの、でも」
シャルンが訝しそうに地図の上に指を置く。淡いピンクの爪が可愛らしい。
「国境に、ご婚約された方がお一人で来られるのですか?」
「サグワット王は同席しない。何でもアデナ姫のたってのご要望とのことだ。もちろん侍女や従者はいるだろうが」
確かに国境警備の建物は、いくら整えているとはいえ、王宮とは全く違う。旅程が遅れて待機する場合もあるだろう。潔癖症のサグワットがそんな場所に泊まるなどとは考えられない。
「何かあるんだろうな~」
サリストアがふふん、と鼻を鳴らした。
「面白そうだな~」
「どれだけねだっても無理だぞ」
レダンは釘を刺した。
「ザーシャルがダフラムと繋がっているなら、今回の訪問は絶好の機会だ。王族不在のこっちにちょっかいをかけてみようと考えるかも知れない。母上からミディルン鉱石の情報を引き出そうとかな」
「はいはいわかってる。私はこっちで遊んでるよ」
ひょいとサリストアが肩を竦め、片目を閉じる。
「アルシアは盾」
「私が剣」
ミラルシアが心得たように薄く微笑みながら声を合わせた。
「のこのこ突っ込んでくればいい、屠ってやる」




