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American Dianthus  作者: nacchan725
距離の違い
62/70

禁じた理由

ダイアンは怪訝な顔をして尋ねた。

「快眠できるマッサージ?」

「ええ。いくつかあるの。頭と首周りをやっていくね。大抵の人はこれで寝れちゃうらしいよ。」

「そんなのがあるのか。じゃあ頼む。」

ダイアンは頭を膝枕に委ねて無抵抗になった。それを見たクロエはほほえむと、さっきより少し弱めに頭のツボを押した。

「強さはこれくらいでいい?」

ダイアンは短く首を縦に振った。

「気持ちいい。これが丁度いい。」

「いくつか質問していい?」

「何が聞きたいんだ?」

「ダイアンはいつもナイフで戦ってるよね?どうして銃を使わないの?」

ダイアンは顔を背けて少し黙ると、慎重に口を開いた。

「別に使えない訳じゃない。使う資格がないだけだ。」

「どうしてそんな事言うの?」

「ニッポンにいた時、リップオフとの戦いで間違って味方を撃っちまったんだ。その人は父親のように慕っていた上司だった。今でもその光景は鮮明に頭に浮かんでくるよ。何度もその人に謝ったし、無論、撃ちたくて撃ったわけじゃないが、その人に対しての罪の意識はいつまでも残り続け、拳銃を持つたびに誤射した時の光景がフラッシュバックするんだ。手の震えと手汗のせいでまともに銃が握れない。恐怖が限界突発すれば、どうもしっかり握れるみたいなんだ。一応、俺は自分の命が危うい時と、敵が多すぎる時以外は銃は使わないと決めたんだ。」

「首周りのマッサージに移るわ。何度も謝ったって言ったけど、その人から赦してもらえなかったの?」

「その人は赦してくれたよ。でも、俺は怖い。いつかなんらかの形でツケがくるんじゃないかと思ってる。俺はもう、ちゃんと銃を使えなくなるんじゃないかと思ってるよ・・・」

そう言うとダイアンはクロエから顔を背けて自分の腕に顔を埋めた。クロエは悲しませてしまったと思って慌てたが、ダイアンは即座に顔を上げて表情を戻したので、心情は推測できなかった。これ以上この話題について話すのは無意味だと判断したクロエは子どもを心配する母親のように話しかけた。

「ダイアン、大丈夫?」

ダイアンはのっそりと顔を見上げて数秒遅れて舌の回らない口調で答えた。

「・・・ああ。大丈夫・・・」

「そう。声をかけちゃってごめんね。」

クロエはマッサージを続けた。マッサージを終えてダイアンを見ると、目を閉じて小さい寝息をたてていた。

クロエはダイアンの髪を触りながら呟いた。

「同い年なのに、こんなに重い重荷を背負ってたのね・・・まるで違う世界の人を見てるみたい。」

もちろん違う世界の人間ではないことはわかってるが、ダイアンが歩んできた人生は普通の人はあまり経験しないだろう茨の道であることが予測できる。常人なら、下手したら精神に異常をきたしたり、世を儚んでの自殺もありえる。そんな重い傷を負っているのに、あなたは辛くないの?私じゃ、あなたを癒すことはできないの?

クロエは再びダイアンの顔を覗いた。ダイアンは完全に眠りについたようで、寝息が大きくなり、表情が穏やかになっていた。クロエは愛しさを感じてダイアンの髪と頬を撫でた。

「かわいい。ちっちゃい子どもみたい。」

いつもこんな表情を見せてくれれば、もっと印象は違うと思うのに。いや、それができないからいつも表情が乏しいのだろう。どうにかして心の傷を癒してあげたい。もっとダイアンの側にいたい。クロエは辺りを見回して周りに人気がないことを確認すると、ダイアンの唇にキスをした。

「ダイアン、あなたが好きよ。お願いだから、心の傷を見せて。」

起きている時に、顔を合わせてそう言える勇気が私にあればいいのに。クロエはもう一度ダイアンの髪を撫でた。

「おやすみなさい。ここは安全だから、しっかり疲れをとってね。」

クロエは意識のある限り、ダイアンの髪を撫で続けた。

翌朝、ダイアンとクロエはナックの声で目覚めた。

「起きろ!見張りが寝てちゃ意味ねぇな。」

ダイアンは叫んで飛び起き、クロエは重い目をこすりながら挨拶した。

「はっ?!」

「おはよう・・・ナック。」

ダイアンは時間を尋ねた。

「今何時だ?」

「6時半だ。最初ダイニングに入った時2人で寝てたから驚いたよ。」

それを聞いた昨夜の記憶を思い出したダイアンは目を見開いた。

「そうだ、昨日クロエが俺を・・・」

「マッサージの途中であなたは寝ちゃったのよ。」

「そうか。ありがとうな。昨日は何かあったか?」

「悲鳴とかは聞こえてこなかったから、大丈夫だったんじゃない?ナイフを返すわ。」

「ありがとう。」

ダイアンは朝食を摂るために冷蔵庫を漁り始めた。

ナックはクロエに近寄ると、ダイアンの方を時々振り返りながら声を絞って話しかけた。

「昨夜ダイアンと何があったんだ?」

クロエは即座にあっさりと答えた。

「寝不足の徴候が出てたから、快眠できるツボを押してマッサージをしてただけよ。」

「そうか・・・」

そんなことになっていたのに、ぐっすり眠っていたとは。今日のデートはなんとしても成功させる必要があるな。そんなナックの思いは露知らずでクロエが笑顔で話しかけた。

「今日はよろしくね、ナック。どこに行きたいの?」

寝起きにも関わらずクロエの華やかに弾けた笑顔にナックは上機嫌になって答えた。

「君の行きたい所でいいよ。君が楽しめればいい。」


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