少女の祈り
JRS本部に戻ったダイアンとクロエは帰りを心配していたマリー、エリザベート、アルバート、バージルに取り囲まれた。マリーは2人を見つけると、駆け寄って交互に強く抱きついた。
「2人共、無事で良かった!」
エリザベートが潤んだ瞳で2人を見つめた。
「いつ戻るのかずっと心配してたのよ!」
アルバートがクロエの右腕を庇っている様子を見て尋ねた。
「クロエ、そのケガはどうした?」
バージルはクロエの傷を気遣うと、対照に無傷なダイアンに呆れた。
「ひどくなきゃいいけどな。ダイアンは相変わらず無傷だな。」
ダイアンは力なく答えた。
「身体は無傷だが、心に傷を負った。」
クロエがつかさず説明した。
「守ろうとした女の子を助けられなかったの。その子の両親に謝りに行って帰ろうとしたら、吹雪になっちゃったから泊めてもらったのよ。」
その言葉を聞いた全員は口をつぐみ、バージルは謝った。
「少し不謹慎な言い方をしたかもしれない。」
ダイアンは即座に首を横に振った。
「気にするな、バージル。これからは一層全力を尽くして守ればいいだけだ。」
それだけ言うと、ダイアンは人ごみをかき分けてその場を後にした。
「そういえば、ナックはどこ?」
アルバートが優しく答えた。
「さっきトレーニング室に入ったのを見かけたよ。」
「会いに行ってくる!」
クロエは言い終わらないうちに走り出した。
一方、ナックはトレーニング室で的をハチの巣になるまで撃ち続けていた。腕が痺れてきた頃、ダイアンがトレーニング室のドアをノックもせずに開けてナックに声をかけた。
「俺がいなくてせいせいしたか?」
「そんなわけじゃない。射撃練習をしてたから気づかなかったんだ。それよりもお前、クロエと朝帰りってことはとうとう一線を超えたのか?」
露骨な質問にダイアンは一瞬顔をしかめると、ゆっくり首を横に振った。
「超えるどころか向こうが線を引いて距離をとってるよ。どうも昨日の態度が気に食わなかったらしい。」
「何をやらかしたんだ?」
ダイアンはクロエを助ける為にモカを見殺しにしたこととクロエをなだめる為にハグをしたことを話した。
「お前のしたことは道徳的には悪いが、確率的にはそれでよかったと思う。クロエへのハグは・・・まあ何も言われてないんならいいんじゃねぇの?」
「昨日のことを痛感して頼みがある。もっとクロエの銃のスキルを上げてくれ。守らない訳じゃないが、最近の敵は俺でも倒すのが一苦労だ。」
「言われなくても、教えられることは教えるし、全力で守るつもりだ。」
「そりゃ助かる。俺の方でも、クロエにナイフや格闘術をしっかり叩き込ませるよ。」
そう言うと、ダイアンはすぐさま部屋を後にした。ダイアンがドアを閉めるや否や、ナックはすぐ舌打ちをした。一体何様のつもりなんだアイツは。クロエの保護者のように振る舞いやがって。
そうやって距離が縮まるのは俺の方なのに。
ナックがもう一度舌打ちをしようとした時、クロエがドアを開けて入って来た。
「久しぶり、ナック。昨日は大丈夫だった?」
ナックは優しく答えた。
「こっちは平気だよ。ずっと2人を心配してたんだ。」
「私は大丈夫よ。ダイアンが守ってくれたから。」
「どうもアイツは最近、君が気になってるらしいな。」
クロエは心の中で叫ぶと、ナックの言葉をなんとか無視して銃を教えてくれるように頼んだ。
「お願い、私にもっと銃の使い方を教えて!」
「さっきダイアンにも言われたし、言ったけど、俺は教えられることはどんどん君に教えていくつもりだ。それに、君のことはこれから俺が守る。」
「ありがとう。でも、最近の敵はどんどん強くなってない?もし、ナックがやられちゃったらどうするのよ?」
「俺はダイアン以外に負けたことはないから大丈夫だ。それに、君は経験を積む必要がある時期だ、簡単に死なれたら困るんだよ。そしたら大学生に戻れなくなっちゃうだろう?」
「そう。わかったわ。これからもよろしくね。」
「ああ。午後にここに来てくれ。銃を教えてやるよ。」
「はーい。」
クロエは軽い足取りでトレーニング室を後にした。トレーニング室を出たクロエは両親は両親の墓地へ向かい、目の前で祈った。
「パパ、ママ。今まで2人の愛に気づかなくてごめんなさい。」
今まで私は自分の周りを見て生きるのに精一杯だった。好きな人を好きになることに精一杯だった。
「これからも私を見守っていてね。あと、できることならダイアンも見守って欲しいの。あの人は私にとって家族みたいに大事な人だから。」
両親に手をかけたことをずっと悔やみつつも、自分を守る為に動いてくれること。あの時泣いていた自分に今日から自分が家族だと言ってJRSに迎え入れたこと。
この2つはクロエにとって大きな救いだった。
昨夜、両親を殺した事への贖罪の為に自分を守ると言われた時は嬉しい反面、責任が重すぎるのではないかと不安になった。重すぎる責任はいつか自分を潰してしまう。ダイアンだってお母さんを亡くしているから、なおさら心配だ。その事を言おうとしたけど、中々言えなかった。
お願いだからパパ、ママ、ダイアンに自分の想いを伝えるチャンスを下さい。
しかし、その時はすぐに訪れた。




