俊足の王子
ダイアンの声を聞いたエリザベートはうっすら目を開けると頷いた。ダイアンはエリザベートの足が折れていないか確認した。幸いにも骨折は免れていたが、満足に歩くことはできなさそうだった。
「くじいたのか。骨折してないとはいえ、固定しないとダメだな。添え木と包帯があればいいんだが。」
ダイアンは辺りを見回して代わりになるものを探したが、見つからなかった。ダイアンは上着を脱ぐと、剣を抜いて上着を引き裂いた。そして、剣を添え木に、上着を包帯の代わりにしてエリザベートの足を固定すると、お姫様抱っこをして立ち上がると、子どもを慈しむ父親のように温かく低い声で語りかけた。
「すぐ帰るぞ。もう少しの辛抱だ。」
ダイアンの、自分を想っての予想外の行動にエリザベートは少し顔を赤くして礼を述べた。
「ありがとう・・・」
ダイアンとナックはその場を離れた。少し歩くと、車が近づいて来た。ダイアンは助手席のドアを開けると、エリザベートを下ろしてシートベルトを締め、リクライニングを倒した。車内はエリザベートの負傷で大騒ぎになった。
クロエとマリーが不安げに尋ねた。
「エリザベート、どうしたのその怪我?!」
「ひどくなきゃいいけど。」
「彼女は足を瓦礫に潰されたんだ。早く手当てするためにも、すぐに帰るぞ。」
こう言うと、ダイアンはすぐ運転席に乗り込み、アクセルを奥まで踏み込んで車を動かした。
途中で警察の目を躱しながら、最短距離で本部に到着した。ダイアンは運転席を下りて助手席のドアを開けると、素早くシートベルトを外して再度エリザベートをお姫様抱っこした。
「マリー、手伝ってくれ。」
「わかったわ。」
マリーは慌てて車から降りると、ダイアンの元に走り、エリザベートの背中に手を添えた。それを見たダイアンは後ろを振り返ることなく、本部の中に入っていった。それを見たナックのぼやきに、クロエは本気で腹を立てた。
「俺たちにはなんもなしかよ。」
「しょうがないでしょ。怪我人がいるんだから。」
「ジョークだよ。あっさりし過ぎだと思っただけさ。」
ジョークにとれなかった言い方に、クロエは腑に落ちないまま、本部に入った。
エリザベートを医務室まで運ぶと、ダイアンとマリーは治療が終わるまで、ひと時もエリザベートから離れなかった。治療がひと段落つくと、パメラは額の汗を拭った。
ダイアンは少し恐る恐る尋ねた。
「エリザベートはどんな感じだ?」
「両脚の症状は内出血と打撲ね。思ったよりは早く治りそう。でも、この1週間は絶対安静。」
エリザベートは重い荷物を降ろしたばかりのような息をついた。
「良かった・・・私の足、まだ動かせるのね。」
マリーが優しく微笑んで頷いた。
「ほんと、良かったわね。エリザベート。」
喜びあう2人の様子を見たダイアンはしばらく考え込むと、微笑みかけて口を開いた。
「今夜は3人で夕飯を食べないか?」
憧れの人からの珍しい誘いに2人は手を取り合って喜んだ。
「やったー!」




