同い年の先生
ダイアンはクロエのそばに行くと、ファインティングポーズをとった。
「これから俺のすることを全て真似しろ。まずはこうやって、両手の拳を正面に向けろ。」
クロエはダイアンの言うとおりにした。
「もう少し腰を落とせ。その方が攻撃が当たりにくいし、突きの威力が高くなる。」
クロエはクスクス笑った。
「なんか先生みたい。」
「師範代として子供に教えてたことがあったんだ。」
クロエはダイアンの甘い教え方を少しからかった。
「じゃあ、私は子どもってこと?」
ダイアンは即座に否定した。
「そうは言ってねえよ。てか話がずれたぞ、勝手に切り替えるなよ。ホラ、しっかり構えろ。」
「はーい。」
クロエの軽い返事を聞いてダイアンは軽くはやした。
「やっぱり子供かな。ちんちくりんだし、めっちゃはしゃぐし。」
「ひどい!それはないでしょ!」
クロエは子ども扱いされたことを怒ってダイアンにパンチを繰り出した。ダイアンは避けたが、クロエのパンチをほめた。
「それだ、クロエ!今どうやって殴った?」
「とにかく殴ろうとして全身でいった気がする。」
「腰を入れて今みたいにいけばかなり強いパンチが撃てる。続けるぞ!」
ダイアンのほのかに熱い言い方でクロエのやる気は上がっていった。
「はい、先生!」
ダイアンはパンチ以外にも、キックやナイフの使い方などを教えた。3日後の朝、クロエがトレーニング室に入って見たのは、いらだっているダイアンの姿だった。クロエはなるべく刺激しないように少し遠慮がちに声をかけた。
「一体何があったの?」
「おかしすぎるだろ!目立ったリップオフの活動がなさすぎる。絶対に何か企んでいるとしか思えない!」
クロエは優しく諭すように声をかけた。
「そんなカリカリしないで平和を謳歌すればいいじゃない。リラックスすることは体にも心にもいいわよ。」
ダイアンはクロエの言葉を頭の中で反復して深呼吸した。
「・・・少し神経質だったかもしれない。思い出した、朗報があるぞ。お前の生存率が上がった。」
クロエは目を輝かせて恐る恐る尋ねた。
「どれぐらいなの?」
「15%だ。」
「何%から?」
ダイアンはサラリと言い放った。
「0に決まってんだろ。」
「そんな確率じゃちっとも朗報じゃないじゃない!」
憤慨するクロエとは対照にダイアンは落ち着いた声で話した。
「素人が3日で基礎を身につけたんだ、十分朗報だ。それに、15%は全体的に見ての話。部分的に見れば接近戦なら生存率は65%、ナイフ術なら30%だ。じゃ、おさらい言ってみろ。」
クロエはこの3日間で頭と身体に叩き込まれたことを思い出して噛みしめるようにしっかり口を開いた。
「パンチは腰を使って上半身で撃つ!
キックは腰から動いてお尻を相手にむける!
ナイフは手を添えるように持って相手よりも先に攻撃する!」
ダイアンは軽く拍手をして褒めた。
「よくできました。あとはお前の心しだいだ。でも、ナイフは使うな。状況を見て俺が指示する。」
「どうして?」
「今からテストだ。いかにナイフを使えないかわかる。」
ダイアンはクロエにナイフを構えるよう指示すると、自分もナイフを取り出して顔の前で構えた。
「これからナイフのみの1対1で勝負だ。お前が俺のナイフを落とせばお前の勝ち、俺がお前のを落とせば俺の勝ちだ。異存は?」
クロエは即座に首を横に振った。
「ないわ。さっさとやりましょう。」
2人は構えると、お互いの全身を見てにらみ合った。クロエは“敵として”ダイアンを見ると、全身に寒気を感じた。今、目の前にいる敵には全力を出しても無事じゃないだろう。
ダイアンの闘気はまるで、刃物だけじゃなく、とげや銃口など人を傷つけるもの全てを突きつけられているようだった。
これがプロと素人の差なのか。その様子を見たダイアンはハンデを追加することを促した。
「どうした?怖いなら素直に言え。もう少し手を緩めるぞ。」
クロエは恐怖を抱いているのをごまかすために強気に言い返した。
「い、いいわよ別に!」
「そうか・・・・・」
ダイアンは深呼吸すると、クロエに斬りかかった。動きをじっくり観察していたにも関わらず、いきなり襲ってきた敵にクロエは驚いた。
「ウソ?!」
クロエは驚きながらもダイアンのナイフを受け流すことになんとか成功した。
ダイアンは隙を入れずにナイフで攻撃し続けた。クロエは避けれる攻撃は避け、受け流せる攻撃は払い、受け流し続けた。しかし、とうとうクロエの限界が来てダイアンにナイフを払われてしまった。慌てて拾おうと落ちたナイフに手を伸ばしたクロエだったが、ダイアンが先にナイフを取り、自分のナイフと交差させてクロエの首筋に当てた。
「これでわかったろ?いかにお前がドベだったか?・・って言いたかったけど、思ったよりやるな。とても3日だけとは思えない。けど、やっぱりしばらくは禁止だ。」
「ナイフを使うのはダメってだけで、戦闘に参加するのはいいんでしょ?ウォッチハンターもあるし。」
「参加もダメだ。ウォッチハンターなんて使いこなせれば誰だって戦士になれるから意味がない。それにお前はウォッチハンターを完璧に使いこなせてないし、弾切れの時に自らを補う戦闘力も十分じゃない。」
「そんな!話が違うわよ!」
「最後まで聞け。“参加は”ダメだと言っただろ。お前の役割はダメージのある敵に止めを刺す伏兵、もしくはピンチの時に攻撃して仲間を助ける救援だ。何気に重要なポジションだ、準備を怠るな。」
「わかりました、先生!」
目を輝かせて返事をするクロエにダイアンは一瞬、微笑んだ。




