2人だけの秘密
クロエは自分の身体に目をやりながらダイアンに話しかけた。
「起こしてくれてありがとう。そろそろどいてくれない?それに、苦しい・・・」
ダイアンは首をかしげた。
「苦しいってなんだよ。」
「自分で確かめて・・・」
クロエは顔は赤くしてダイアンから目を背けた。ダイアンが自分の体勢を見てみると、クロエを押し倒しているようになっていた。その上、右手がクロエの胸を揉むような格好で触れていたことに気づいた。これは恥ずかしがるはずだと確信したダイアンは慌てて謝って手をどけた。
「わ、悪い!許してくれ、決して下心があったわけじゃない。」
「わかってるわよ、事故だってことぐらい・・・・・・」
そう言いながらもクロエはダイアンの手が当たった箇所を大事そうに手で覆いながらまだ赤い顔を手であおいだ。
「そういうダイアンこそケガはないの?」
「ないよ。お前が無事で良かった。あっ・・・」
つい心の中で呼んでいた3人称で呼んでしまったことにダイアンは慌てて謝ろうとしたが、クロエはすぐに顔の前で手を横に振った。
「“お前”でいいわ。“あんた”なんかよそよそしいし。」
「わかった・・・・」
クロエは起き上がると、ダイアンの上着を叩いて汚れを落とそうとした。
「上着、汚れちゃったわね。洗って帰すわ。」
「捨てるからいいよ、ずっと着てたやつだし。俺の方が早くこのハンカチを返さなきゃまずい。」
「そんなことよりも、ケガを治すことが先よ。私のハンカチだって古いし、どう処分してもいいわよ。」
「わかった。」
ダイアンはナック達の乗った車を見つけると、クロエの手をひいて歩いた。
「後でお前に戦闘術を教える。いつまでも素人じゃこの先生き残れないからビシバシやるぞ。」
その言葉を聞くや否、クロエは強く首を縦に振った。
「構わないわ。やっとこれで活躍できる。手加減しなくて結構よ。でも、ケガしてるじゃない?」
「教えるくらいはできる。これからは自分の心配をしろ。」
ダイアンはクロエを後部座席に乗せると、自分は助手席に乗ってナックに発進を命令した。
こうしてルーカスとの戦いは勝利に終わった。
ビルが崩落したのはその数時間後の出来事だった。本部に着いたJRSメンバーは各々の作業場に戻った。ダイアンは医務室に行き、頭の傷の治療を受けた。処置が終わると、ダイアンはベッドに寝転んだ。するとパメラが注意した。
「寝たいなら自分の部屋に行ってちょうだい。」
ダイアンは不満をもらした。
「俺はケガ人だぜ?そんな言い方ないだろ?」
「本当にケガ人ならいいけどね。」
この言葉を聞いたダイアンは飛び起きてパメラに詰め寄った。
「どういうことだ?説明しろ。」
「はぐらかさないで。」
パメラはダイアンの左腕を掴んだ。
「離せ!」
パメラはダイアンの叫び声を気にせず事実を告げた。
「あなたの腕が治ってることは知ってるのよ。」
ダイアンは青い顔をして自分の異常を知っている理由を尋ねた。
「なぜ知ってる?誰にも言ってないのに・・・」
驚くダイアンをよそにパメラは淡々と述べた。「カルテと、あなたの腕の使い方で推測したの。元々あなたの骨折はどちらかと言えば、骨折より内出血の方がひどかったから、あと1〜2週間くらいは上手くごまかしてちょうだい。頭の傷も完治は時間の問題かもね。でも今日は絶対に安静して。」
ダイアンは即座に了承した。
「わかった。これは俺達だけの秘密だ。」
パメラは強くうなずいた。
「もちろん。誰にも言わないわ。悪いけど、しばらく私の所に来てくれない?あなたの体を調べたいの。」
「了解。」
ダイアンは医務室を後にすると、部屋へ向かう途中でクロエとすれ違った。クロエはダイアンを見つけるや否、頭の傷を心配した。
「頭の傷は大丈夫なの?」
「問題なさそうだ。稽古をつけるって話だけど、1週間程待ってくれないか?」
クロエは優しく微笑んだ。
「いつでもいいわ。あなたはケガを治すことを最優先すべきよ。」
「わかった。ありがとう。」
ダイアンはクロエに背を向けると、振り返らずにその場を離れた。クロエは姿を見送りながら、傷が早く治ることを祈った。
1週間後の朝、ダイアンは左腕のギプスと頭の包帯を取ってリビングに向かった。席に着くとクロエが真っ先に話しかけた。
「おはよう、ダイアン。いいの?もうギプスと包帯を取って。」
「骨折は元々そんなにひどくなかったからもう大丈夫だと思うぞ。頭の傷も、ばんそうこうなり、前髪で隠すなりすれば平気だと思ったからな。飯を食ったらすぐに稽古だ。」
「わかった。」
朝食を取って動きやすい服装に着替えたクロエはトレーニング室に向かった。ドアを開けると、ダイアンがストレッチをして待っていた。ダイアンはクロエに気づくとすぐにストレッチを命令した。
「すぐにストレッチをして身体をほぐせ。俺のせいだけど、早く教えられなかった分周りとの実力はもうかなり広がってるからな。」
「ちょっと待って、すぐやるわ。」
ダイアンはクロエのストレッチを見ながら何を教えるか考えた。ストレッチが終わると、ダイアンはすぐに口を開いた。
「今からお前に教えるのは“基礎中の基礎”だ。」
クロエは不満をもらした。
「私が教わりたいのは強い威力のある技よ。」
「甘く見るな。ただのパンチやキックでも完璧に撃つのとそうじゃないのとじゃ全然違う。それに、ここんところ目立ったリップオフの襲撃はないし、色々教える時間はある。」




