戦いの結果
今度はルーカスが声を上げて笑った。
「自意識過剰も程ほどにしておけ!」
ルーカスは手のひらを槍に向けて伸ばした。すると、折れた槍の柄から新しい穂先が生え、ルーカスの手のひらに収まった。これを見たJRSメンバー全員は驚き固まり、特にダイアンは自分の過信を悔い、動揺した。ダイアンはすぐに頭を冷やして部屋全体を見回すと、ある提案を思いつき、JRSメンバー全員に撤退を命令した。
「全員、撤退の準備をしろ!あいつは責任を持って俺が倒す!」
「待てよ、何言ってるんだ!」
食いかかったナックにダイアンはそっと耳打ちした。
「わかった。槍に気をつけろよ。」
ナックは顔を上げるとドアを開けてメンバーに避難を促した。
「ダイアンの言うとおりだ。俺達じゃ、あいつに勝てない!早くここを出よう、本当の足手まといになる前に。」
ナックの言葉を聞いたメンバーはドアに向かって走り出した。
「目撃者は全員死んでもらう!」
ルーカスはメンバー達に向かって斬撃を飛ばした。それを見たダイアンは叫んだ。
「させるか!」
ダイアンは剣で斬撃をはじき落とした。しかし、最後の一撃だけは払い落とせず、吹っ飛んで地面を転がり、クロエを巻き込んでしまった。ダイアンは起き上がって態勢を整えると、クロエを気遣った。
「悪い、クロエ!大丈夫か?」
クロエはうなずいた。
「大丈夫よ。それよりも、他の皆は?」
ナックが声をかけた。
「全員下に降りたよ。後は君だけだ!」
「わかったわ─痛っ!」
立ち上がろうとしたクロエだったが、みぞおちに痛みを感じて動けなかった。それを見たダイアンは軽く舌打ちすると、クロエをルーカスから隠すように立った。
「クロエは俺が連れて帰る!だからナック、先に行って皆を頼んだぞ!」
「わかった。必ず戻れよ!」
ナックは階段を駆け下りた。その音が聞こえなくなる前にダイアンはドアを閉めた。
ルーカスはダイアンの周りに目をやりながら話しかけた。
「背水の陣のつもりか?」
ダイアンは苦々しくうなずいた。
「ああ。もう俺に攻撃手段はない。」
クロエは青い顔をして尋ねた。
「どうして?」
「ウォッチハンターが弾切れだ。それに、剣を見てみろ。」
見ると、剣は根元から粉々に砕け散っていた。
「そんな!剣が!」
ダイアンはため息をついた。
「剣でこうなるんだ、生身でくらったら絶対に助からない。それに、生えてきた切っ先が前よりもさらにゴツいし威力が高い。だからクロエ、俺の手を離すなよ。」
ダイアンはクロエの手を握ると、後ろに立たせ、走ってルーカスから距離をとった。それを見たルーカス下卑た笑みを浮かべた。
「ずいぶんナメられたな。その女をどこまで無傷でいさせられるかな?」
ダイアンは闘志を燃やした目つきで叫んだ。
「お前が倒れるまでだ!」
ダイアンはクロエの手を引いてルーカスの攻撃を伺った。ルーカスが槍を振りかぶって繰り出した斬撃をダイアンは転がってクロエが傷つかないように抱きしめながら避けた。ルーカスは態勢を立て直すと、再び槍を2人めがけて斬りつけた。ダイアンは今度は立ち止まって槍の向かってくる方向を観察し、大体の予測をつけるとクロエに向かって叫んだ。
「左に避けろ!」
2人は回避に成功し、なんとか負傷を免れた。そういった回避が何度も続いた。
一体いつまで続くのだろうか。疲れを訴える身体に鞭打ち、クロエは決してダイアンの手を離さずに走ったり転がって避ける時に受け身をとったりすることに精一杯だった。それを見たルーカスはニヤニヤと笑った。
「そろそろ休んだらどうだ?ダイアン・タスカー。女はもうヘトヘトのようだぞ。」
クロエは心境を見透かされたことに一瞬驚いたが即座に否定した。
「ウソ言わないで!ダイアン、私まだ平気だから!」
それを見たダイアンはクロエを優しく気遣った。
「あと少しの辛抱だ。もうちょっとで出れるからな。」
ダイアンは走るのを止めると、バタフライナイフを取り出して構えた。
「ちょっと待ってろ。すぐ片付ける。」
ルーカスはダイアンのバタフライナイフを見て鼻で笑った。
「片付けられるのはお前の方だ。」
ダイアンはすぐに相手の間合いを詰め、バタフライナイフを振り回した。ルーカスは槍を小刻みに動かして攻撃を防ぎ、反撃しようとしたがダイアンもフットワークや蹴り、ナイフで受け流す等で身を守った。勝負はしばらく続いたが、巨大な槍と小さなナイフでは無論、槍が有利なのは誰にもわかることだった。
ルーカスの振るった槍はダイアンのナイフを捉えて粉々にした。ダイアンは鉄くずと化したバタフライナイフの破片を集めてしばらく見つめていた。ルーカスはダイアンに槍の切っ先を向けながらも称賛した。
「こんなナイフでよく粘ったな。敵ながらたいしたもんだよ。」
ダイアンはため息混じりに言った。
「残念だけど、もう別れの時間だな。」
ダイアンはクロエの後ろにある窓をウォッチハンターのワイヤーで狙い撃つと、最大限のスピードで巻き取って、クロエを抱いて宙に浮いた。
予想外の行動にルーカスは慌てて口を開いた。
「何をする気だ!?」
「言っただろ、別れの時間だって。
餞別に俺のバタフライナイフと一緒に葬ってやるよ。」
ダイアンはクロエをかばうようにしてルーカスに背を向けると、窓を蹴り破って飛び去った。去り際にバタフライナイフのかけらを火打ち石のようにこすって火花を焚き、それをルーカスに投げつけた。ルーカスはダイアンを捕まえようと手を必死に伸ばしたが、叶わず空を切るだけだった。ルーカスの虚しい思いとは裏腹に、ダイアンが生み出した火花はどんどん大きくなり、やがて部屋全体を包み込む大きな爆破を起こした。それを現場から2キロ程離れた建物の屋根から見ていたダイアンは安堵した様子で勝利を喜んだ。
「良かった、成功して。一時はどうなるかと思ったよ。」
確実に何か企んでいたダイアンにクロエは困惑して質問した。
「今の音は何?どういうことなの!?」
「粉塵爆発さ。知ってるか?」
クロエは聞きなれない単語に首をかしげた。
「初めて聞いた。・・それよりも、ニッポンのかけらはどうなったのかしら?」
ダイアンはハッとした。
「すぐに見つけて帰ろう!あいつが持ってるといいんだがな。」
2人は慌ててビルに引き返した。
先程いた部屋の前に行くとダイアンはすぐ口元を覆った。
「この部屋の空気を吸うな!粉塵爆発は威力よりも爆発後のガスの方が危険だ!」
クロエは慌てて口元を覆った。
「わかったわ。・・・それじゃあルーカスはまだ生きてるってこと!?」
ダイアンは部屋の隅で倒れているルーカスに駆け寄って脈をとった。
「大丈夫だ。もう起きあがらないよ。」
2人はニッポンのかけらを探し始めた。空気が吸えないならば、見つけるチャンスは1回しかない。2人は目を皿のようにして周りを見つめ、あちこち手を動かした。ついに2人の努力は報われ、クロエがニッポンのかけらを見つけてダイアンに報告し、ダイアンがかけらを受け取ってすぐに球体にはめた。ダイアンが球体を閉まって動こうとしたその時、天井が軽く崩落を起こした。2人は慌てて伏せて身を守った。崩れる音が止むと、2人はすぐに起き上がってドアに向かって走った。視界が塵芥で霞む中、クロエが出口を指差して覆っている口元に笑みを浮かべた時、クロエの頭上の天上が軽く崩れた。それに気づいたダイアンはクロエを突き飛ばし、重そうな瓦礫がダイアンの頭を直撃した。
「ダイアン!」
クロエは慌てて駆け寄り、ダイアンの左腕に手を回して立ち上がった。ダイアンは呻きながらも頭を抱えていた右手を離し、クロエに向かって血まみれの手を突き出した。
「置いてけ!こんなんじゃ2人共死ぬぞ!」
「死なせないわ!もう私の目の前では誰も死なせない!」
そう言いながら自分よりもはるかに身長差と体格が上回る相手をなんとか支えながら精一杯ドアまで歩くクロエにダイアンも足を動かし、ついにドアを通って部屋を出ることができた。階段まで来ると、ダイアンは手すりに左手をつき、右手でハンカチを持って頭の血を拭った。
「私がやるから、じっとしてて。」
クロエは自分のハンカチでダイアンの血を拭いてダイアンの頭に巻いた。丁寧な手当てを受けてダイアンは痛みを紛らわせるために少しはにかんだ。
「いいのかよ、こんな風にして?」
クロエは優しく微笑んだ。
「ハンカチは汚れるものよ。気にしないで。」
その時、ビル全体が揺れた。
ダイアンは避難を迅速に促した。
「このままじゃビルの下敷きになる。早く下に降りよう!」
クロエは素早くうなずいた。
「そうね。早くみんなの所に戻りましょう。」
クロエが先に立ち上がって手すりに手をかけた瞬間、またビルが揺れクロエは手すりから手を離して転がった。
ダイアンは飛び出してクロエの腕を掴んで抱き寄せ、上着を脱いで自分たちに被せた。
2人はサッカーボールのように階段を転がり落ち、少しの間目を回していて立てなかった。なんとか意識を戻したダイアンは起き上がってクロエを起こした。
「クロエ、起きろ!」
クロエは頭を抱えてうっすら目を開いた。
「ダイアン・・・」
「気づいたか!」
クロエの次の一言で2人はしばらくぎくしゃくすることになった。




