エピローグ (2/3)
昼時の屋上で――
秀一はたまらず絶叫していた。
「ノイン。お前、どうしてここに――!?」
彼女は、へそを曲げたようにぼやいてみせた。
「もう、なんなの。急に引っ張ってきて。せっかくの転校初日だってのに。クラスメイトにへんな誤解されるじゃん。このうすらバカ」
「……いいから答えろって!」
真剣な表情の秀一に、ノインは面倒くさそうにため息をついた。
「はー、やれやれ。前に春香から聞いてなかった? 色々と準備してるって。あれ、転入の準備だったの――」
「そ、う、じゃ、な、く、て!! お前、あの時に助かってたのか!? その腕だって!」
秀一がじっと見る。
そこには、失ったはずの右腕が確かにあった。なんの違和感もなく、元通りの姿で。
「だからー……それも春香が言ってたじゃん。あいつらの遺体を回収するって。で、部品も手に入ったし、なんとか無事に修理できたってわけ」
「……あれって、証拠隠滅という意味ではなく、修理のためってこと……?」
目をぱちくりとさせて、秀一。ノインはそっけなくうなずいた。
「そ」
「……あんな思わせぶりな台詞。だれだって勘違いするわぁぁぁ!」
ぜえはあと肩で呼吸する。
(くそ。琴子のやつ。今朝の態度だと、知ってやがったな……)
見事なペテンぶりに、秀一が腹を立てる。
それから彼は、もう一つの変化に気がついた。
「……お前、なんだかこんがり小麦色に焼けてるのは、俺の気のせいじゃないよな?」
すると、ノインは嬉しがるように、その場でくるりと回ってみせた。
「アハ、気づいた? 夏休み中、ワイハだったの。春香と二人きりで」
「あ、あぁん……? ワイハって………………まさか、ハワイのことか!? そしてワイキキビーチなのか?!」
「ええ、もちろん。アロハ~」
遊び慣れたお嬢様のような手つきで、ノイン。
秀一は急に真顔になると、彼女にぐいっと詰め寄った。
「……おい、お前。写真くらい、もちろん撮ってるよな? ……具体的には、まず水着写真だ。それから湯上り姿とか寝顔とかハダけた寝相とか、そのへんのなんだかサービスショット的なものを一式」
「たった今……アンタに対する殺意が明確に沸々とわきあがってきてるんだけど……。制御しなくていいかしら、これ」
「ああ、もちろん分かってる。……で、いくら欲しいんだ?」
「お金の問題じゃないっつうの!」
声を荒げるノイン。
頑なに拒否を続ける彼女に、秀一は一心不乱に頭をかき回した。
「ああ! ちくしょう! 俺が独り心配している間に、お前らってやつは! だから家にもいなかったんだな!? しかも、そんな楽し気な夏休み鉄板イベントを男キャラ抜きで進めてただなんて! くそう! 謝れ! 俺にだけでなく、読者にも謝れ!」
「このヘンタイは、また意味不明なことを……そもそも自分が悪いんじゃん。勉強したいってカリカリしてたみたいだし? 邪魔したらまた怒ったくせに」
「それとこれとは話が別だろ! ハワイはともかくとして、お前ら無事だったんなら、せめて連絡の一本くらいしてくれたって――」
秀一のやかましい言葉を遮るように、ノインは通学カバンから取り出した紙袋をばしんと突きつけた。
「はい、これ。写真じゃないけど、そのお土産」
「お、おう。こりゃどうも。どれどれ――」
受け取った荷物を開封していく秀一。
だが、それはナッツでもアロハシャツでもティキ像でもなかった。
「これ、東京ばな奈ぁぁッっ! あきらかに成田で思い出して買うパターンのやつだからぁぁっっ!! ばななどころか、わなないておののくわ! すっかり都会人じみてるお前のふてぶてしい感覚に!」
「なによ。文句あるなら返しなさいよ。わざわざ買ってやったのに」
「……いや、食べ物に罪はない。謹んで有難く頂戴します……」
そう言って、秀一が土産を脇に抱える。
ノインは嘆息すると、その場から、ぴょいっと飛び跳ねた。
「……じゃ、もういいでしょ。わたしは教室に戻るからね。友達とか早く作りたいし。できたら彼氏とかもね」
「か、彼氏だと……?」
ぴくりとなって――秀一の顔が、鬼のような形相に変化していく。
そのまま扉のほうへ移動しながら、彼女は背中越しに手を振った。
「ま。そういうわけだから、今後もよろしくね。……マスター」




