エピローグ (3/3)
老人が、一枚の写真を眺めていた。
それは、青年と若い娘が空港で一緒に映った写真である。
男のほうは、娘にほおを力強く引っ張られていて、表情はすっかり台無しに崩れている。
彼は珈琲を飲み終えると、煙草に火を灯して、ゆっくりと吸って吐いた。
色味の抜けた白い総髪。老人は、白衣を小奇麗に着こなして、全体的にしゃんとしていた。
「……今回は、なにを作られたんです?」
もう一人、年老いた女性が部屋の奥から、ゆっくり姿を現した。
年齢は、その老人とあまり変わらないだろう。
しかし、彼女のほうがいくぶんか若々しく、その髪は依然として黒々と艶を保っていた。
椅子を回して向き直ると、老人は眼鏡を押し上げて、彼女の問いかけにこう答えた。
「ちょっとした尻拭いだよ。あるバカな研究者の失態を、わざわざ帳消しにしてやったんだ」
「またそうやって他の人を馬鹿にして……。いくつになっても口が減らないですね、あなたは」
「……なに。他人ってわけではないから、かまわないさ」
だが、彼女はその会話自体にはさして興味もなかったのだろう。空いた食器を片付けると、
「はいはい。そうですか」
それだけ言い残して、戻っていってしまった。
老人は、眼鏡を外すと、眉間をぎゅっと抑えた。だいぶ疲労が溜まっている。乾いた目は貪欲に睡眠を求めていた。
たばこをもみ消し、席を立つと、老人は、最後に研修室の一角へと移動した。
そこには三台の大型カプセルが並べてあった。蓋はいずれも開いており、中身は空っぽである。
彼はふっと笑うと、満足そうな表情でつぶやいた。
「これで、約束は果たしたからな」
―― 了 ――




