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キルロイド  作者: 武嶌剛
第五章 ゼロ・ポイント
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エピローグ (1/3)

 教室のベランダで、秀一は大きく吐息を漏らしていた。

 さびついた安普請の鉄の柵――その向こうで、門から続く並木道では、生徒たちがそぼろに登校している。二学期が始まったのだった。

「……新学期早々、なーにたそがれてんの。辛気くさいな」

 聞き慣れた快活な声。教室の窓から顔を覗かせているのは琴子だった。

「よう。……あれ、髪が?」

 振り返ると、彼女は、前髪を紐のカチューシャでまとめて、おでこを露わにしていた。いつもの活発な印象が、より明るくなって見える。

「あんまり暑くて、つけてみたらそのままハマっちゃってさ。似合う?」

 琴子がベランダに降りてくる。彼女は横に並ぶと、さらに近くで、変えたばかりの髪型をお披露目してみせた。

 ただ、肝心の秀一はそっぽを向いたままだ。

「ふーん。似合う似合う。良いと思う」

「ほとんど見てないのは気のせいかしら……」

「きみがまぶしくてみていられないんだよ」

「……素敵な棒読みありがとう。まるで感情がこもってない。……こら減点ね。ついにマイナス突破」

「ゼロで止まらないのか!?」

 慌てる秀一に、琴子がニヤニヤと笑みを浮かべる。

「うぷぷ。あんたも早いところ態度をあらためないとねー。もう審査期間は一年も残ってないのだよ、キミ? わたしについてきて欲しいんでしょ、海外まで。ねえねえ」

「……」

 がしがしと頭をかいて、秀一が気まずく黙り込む。

(……くそ。この阿我理秀一、一生の不覚だ……)

 人生最初の告白――

 今になると、思い返すだけで、顔から火どころかマグマが溢れかねない。あまりの恥ずかしさで胸が押しつぶされそうになる。しかも結果は失敗だ。

 話を変えようと、秀一が尋ねる。

「……で、なんか用なのか? よそのクラスからわざわざやってきて、まさか俺の失態チェックなんかしにきたわけじゃないだろ」

「いや、そーだけど?」

 ゴンッ――。

 それは頭を柵に打ちつけた音だった。けろっとした表情の琴子。ずれた眼鏡を直しながら、秀一がたまらず突っ込む。

「いくらなんでもそれは暇人過ぎやしないか――!?」

「なによ。わたしのこれからを決める重要なことじゃない。まったく……ちっとは感謝しなさいよ。あんたみたいな唐変木の無神経男に、わざわざ貴重な時間を割いて律儀に付き合ってあげてる、わたしの殊勝な寛容さを」

「……いっとくが、べつに無理はしなくていーんだぞ。俺は強制までするつもりはないんだからな」

 会話もそこそこに、手すりに身をゆだねると、秀一は再び嘆息した。

「やっぱり気になってるの? ……ノインちゃんたちのこと」

「……まあ、それも含めて、いろいろだな」

 琴子は大きく背伸びをすると、軽やかな足取りでベランダから教室への段差を乗り越えた。

 ――去り際に、こう言い残して。

「くよくよしても、しょーがないんだから。元気出してよ。そうすれば今日にでも良いことあるって。きっと」

「……そうだといいな」

 まとまりのない目で、空をぼーっと眺めながら、秀一はそう答えた。


 予鈴が鳴って、始業式が終わり――

 教室に戻ると、秀一のクラスは異様にざわついていた。高校には珍しい転校生がやってきたからだ。

 ふわっとした金髪に、宝石のような金眼。

 男女問わず、歓喜の声がわきあがる。

 男子はさまざまな期待を、女子は愛らしいものへの感嘆を、それぞれに抱いて喜んでいた。

 その中でただ一人――彼だけはあっけにとられていた。

 肩肘をついたまま、口をぽかんと開いている。

 まるで風のように現れた少女は、にこっと表情を崩すと、ぺこりと挨拶して、こう名乗った。

「転校生の如月之音です。よろしくお願いします」


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