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キルロイド  作者: 武嶌剛
第五章 ゼロ・ポイント
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崩壊 (2/2)

 しばらく沈黙してから――最初に口を開いたのは春香だった。

「これ、渡しておくわね」

 すっと差し出したものは、キーケースだった。秀一が受け取ると、中には数種類の鍵がジャラジャラと入っていた。

「春香さん……どうして、こんなものを――」

「こんな状況が起きることも想定済。だから準備しといたの。もしも最悪の場合……貴方がうちに自由に入れるようにってね。離れの床下に、私とノインちゃんの再現データを隠してあるわ。今の貴方が見ても理解できないでしょうけど、たぶん未来の貴方ならわかるはずのものよ」

「……なにをいってるんだよ、春香さん」

 彼女は手すりから慎重にロープを取り外すと、その先端を自分の身体に巻きつけた。

「私がロープを支える。そうすれば、少なくとも秀一くんは助かるはずでしょう?」

「なに――勝手に諦めてるんだよ!」

 秀一が怒鳴りつける。彼女に叫ぶのは、それが初めてのことだった。

 春香はにこっと笑うと、いつもの表情で優しく告げた。

「安心しなさい。私はなにも諦めていない。まずは貴方を先に助ける。それから私たちの助かる道を考える。……なにも矛盾していないでしょう?」

「それはそうだけど……でも……他に助かる道なんか――!」

「……バカだな。だから、オマエまで付き合うなっていってんだよ。ハルカは」

 そう口を挟んだのはノインだった。さらに彼女は続けた。

「未来の天才科学者なんだろ……。だったら分かれよ。今の状況くらい……」

 いつもの生意気な態度。

 むろん、秀一には分かっていた。その表情は演技で保たれたものだということを――

「ノインちゃんの言う通りよ。それに……私たちにはまだやることがある。彼らの遺体をこの時代の病院に運ばせるわけにはいかないの……」

「……」

「ここから先の後始末は……未来の時代からやってきた私たちが取るべき責任。そして、貴方は今の時代の人。こんなことで死んではいけないのよ。だから、早く逃げなさい。このままだと本当に助からなくなる」

 秀一はじろっとノインに向き合うと、念を押すように思い出させた。

「おい、ノイン。あの約束……ちゃんと覚えてるだろうな」

「ああ。確か……アンタが、木苺とブルーベリーのクレープを奢ってくれるって話だっけ?」

「……このバカ。こんな時にボケんじゃないっつうの……」

 金色の髪を撫でて、秀一はその顔を胸元に抱き寄せた。

「今度は、大怪我してる重体の少女にセクハラ? あんた、本当に変態ね」

「だったら……振り払えよ……」

 彼女の小さな片手が、ぎゅっと服を掴む。

「ちゃんと帰ってこいよ。生きるために……」

 そうして、秀一がロープに手をかけて――

 彼女たちは姿を消した。

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