崩壊 (1/2)
「な、なんだ――!?」
悲鳴をあげる秀一。爆発はさらに連鎖していて、建物全体をぐらつかせた。
「急いで!」
春香が叫び、四人が塔の頂上からフロアーへと駆け降りる。そして非常階段に踊り出たところで、彼らは気がついた。
電波塔の中層部あたりを覆う、燃え盛る炎の存在に……
「自分が失敗したら建物ごと爆破か……。ベタ中のベタな展開ね。あいつ、なんとしても貴方を殺すつもりだったみたいよ――」
爆発はなおも続く。さらに火の手のあがる異常な速さ。もしかしたらガソリンまでぶちまいているのかもしれない。その殺意は、どう見ても常軌を逸している。
「とにかく、急ぎましょう」
不幸中の幸いともいうべきか、外の階段にまで火の手はあがっていなかった。たちこめる煙が、斜めになって風に流される中、彼らはさらに駆け下りていく。
高度二百メートルあまり――その長い道のりに疲労して、息切れも激しくなっていく。
やがて中層部に近づくにつれ、外気の温度はぐんぐんと上がっていた。炎の周りがかなり早いようだ。吸い込む空気に、灰の香りが混じり始めている。
「あと少しよ。がんばって!」
疲れの見える三人を気遣って、最後尾から春香がそう声をかける。彼女の言う通り、ここを抜ければ、あとは火の下。安全圏だった。
しかし、秀一はある違和感に気がついた。
(……あいつが、こんな避難経路を残すような真似をするのか――?)
その悪い予想は、見事に当たってしまった。
まさに一瞬のことである。
ドンッ――
すさまじい爆風。まるでタイミングを見計らったように、階下の非常階段はごっそりと崩落してしまった。
「……うそ……だろ……?」
地上は、まだ遥か下だった。足場もとっかかりもなくなった断崖絶壁。その景色は、さしずめ絶望と呼んでいい。
「まだよ」
春香は希望を指し示すように、そう告げると、彼女は履いていたパンツの腰元から、しゅるっと取り出して見せた。
「それは――」
「備えあれば憂いなしってね。さっき貴方に突き落とされても、なんとかできたってわけ」
彼女が隠し持っていたものは、クライミングロープであった。先端には、改造を施したような独特な形状のフックがついている。彼女は手早くロープに複数のダマを作ると、近くの手すりにそれを結び付けた。
「詰めが甘かったわね。階段をすべて破壊されたらマズかったけど……幸い、高さはせいぜい二十メートル。あそこまで到着すれば、あとはただ駆け降りるだけよ」
秀一がごくりと息を呑む。
階下の足場に向けて、ロープがゆらゆらと風に煽られて頼りなく揺れている。くくりつけている金属の手すりは、どこか頼りなさそうにも見える。
「悪いけど、心の準備を待っている時間はないわ。まずは小柄な琴子ちゃんからね――」
春香に誘導されると、彼女は金属の軋む音に不安そうな表情を浮かべながらも、案外にうまく、するすると下へと降りて行った。
(……あいつは昔からこういうの得意だったからな……)
「次は、秀一くんね」
後押しされて、秀一がロープに手をかける。あまり下は見ないようにしよう――そう思って、彼が体重を預けた時だった。
「うわっ!」
金属の軋む音と共に、がくんっと身体が下がる。
見れば、手すり全体がべろっとめくれるように曲がって、今にも壊れかけようとしていた。
「秀一くん!」
すかさず春香が手を差し伸べて、秀一がかろうじて足場に戻る。
だが、
(ど、どうすれば……)
最後の生命線はそれで絶たれてしまった。
手すりの根元は完全にひしゃげている。爆風の影響か、そもそも老朽化した施設のせいなのか――どちらの原因かは不明だが、どうやら琴子の体重までが許容荷重だったらしい。
もう一度降りようとすれば、今度は手すりごと地上に真っ逆さまであろう――
周囲を見渡しても、他にロープをかけられる場所は見当たらない。
そのことには……彼女たちも気がついているようだった。




