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キルロイド  作者: 武嶌剛
第五章 ゼロ・ポイント
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決着

 形勢逆転したことに胸を撫で下ろすと――

 秀一は地面に倒れ込む琴子に肩を貸しながら、小言を漏らした。

「ったく……お前はいきなりなに考えてんだ。死ぬつもりかよ」

「これも作戦のうち。ちゃんと事前に打ち合わせしてたんだから――」

「……ノインと?」

「そ。秀一って、将来、タイムスリップできるような科学者になってるんでしょ? だから、もしもわたしたちがやられそうになったら、とにかく秀一を生き残らせようって。そしたら、あとで未来からナントカ助けてくれるんじゃないか、って……」

「それはまあ、一理あるかもしれんが……。けど、そんな博奕めいた作戦は、もう二度とやらないでくれ。時空遷移ってやつはかなり不安定なものらしいから、俺にはなんの保証もできやしない。現に、今だって、なんの助けも来てないしな――」

 そう言いながら、秀一は、ノインを見やった。

 キルロイドは人間に限りなく近い存在――それが右腕を失ったのだ。いくら機械といえど、そのダメージはかなり深刻に違いない。

 それでも彼女が平静を装っているのは、きっと、相手に弱味を見せたくなかったのだろう。

 春香に拘束され、ノインに踏みつけられながら――

 ハンドレッドは重々しく口を開いた。

「……今の気分は……例えるなら、そう。いつもの繰り返しだ。こんなこと、ただの五十一回目に過ぎない……」

「やけに諦めが良いじゃない。最後の悪あがきはしなくていいのかしら?」

「くく。どうしようもないのさ。おれは色々と特殊な設計のキルロイドでね。貴様らみたいに野蛮な力、そもそも持ち合わせていない……」

 秀一は彼の変装能力について考えた。

 確かに、あれだけの機能を搭載するともなれば、代償となるものがあってもおかしくはない。

 ハンドレッドの首に、そっと手刀を突きつけて、ノインは言った。

「だったらアンタは、ガラクタ未満ってことね……」

 彼は目玉だけを動かして、ノインの全身を眺めると、こう反省した。

「なるほど……。自分の身体を焼き切ったわけか。貴様がそこまでアガリに入れ込んでいたとは……どれ――」

 そう言うと、彼はすぐさま自分の姿を変形させていった。

 真っ白な光の粒子を全身に集めて――全身がうねうねと再構築されていく。

「なっ――」

 秀一がうろたえたのは、その姿が、まるで自分とそっくりのものになっていたからだ。

「喜べ、トゥーナイン。俺からのプレゼントだ。これで……念願のターゲットを殺す練習ができるだろう?」

「……最後の最後まで、サイッテーね、あんた」

 ノインがそう蔑むと、開き直ったように、男は言った。

「最後だからこだわるのさ。お前だって忘れたわけじゃないだろう。あの苦しみを……。今もなお、俺たち以外のナンバーは同じ被害に遭っている。お前が怠けているせいでな」

「……」

「分かっているか、トゥーナイン。この戦いを終わらせられるのは、この時代に来れた者だけ。そして、アガリを殺さないことには、延々と続くんだよ」

「……そうかもな……」

 ノインはすっと立ち上がると、彼の声に導かれるように、本物の秀一のほうへ振り向いた。

 そして、つかつかと歩いていくと――彼女は、その目の前で、ぴたりと立ち止まった。

「おい……ノイン……?」

 秀一とノイン。

 二人がじっと対峙すると、彼女はこうつぶやいた。

「わたしにはわかる。この時代のマスターは……もういない」

 ノインがそう手刀を構えると、ハンドレッドは煽るように叫んだ。

「そうだ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺してしまえ! そんなイカれたクソ科学者! 今すぐ殺せ――」

 それが彼の最後の言葉となった。

 ノインは、その場をふわっと跳躍すると、ブーツのカカトを振り下ろして、ハンドレッドの頭を深く打ち砕いてみせた。

 ばちばちと電気めいた音を立てて、彼の全身が、壊れたディスプレイのように真っ暗になって消失する。

 そうして、戦いは終わった。

 動かなくなった彼の身体を眺めながら、秀一は独りごちた。

(……お前の言う通り、本当に悪いのは俺だ。こんなバカな真似させて……悪かった)

 その時だった。

 地上のほうからすさまじい爆破音が鳴って――彼らの足場は大きく揺れた。


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