決着
形勢逆転したことに胸を撫で下ろすと――
秀一は地面に倒れ込む琴子に肩を貸しながら、小言を漏らした。
「ったく……お前はいきなりなに考えてんだ。死ぬつもりかよ」
「これも作戦のうち。ちゃんと事前に打ち合わせしてたんだから――」
「……ノインと?」
「そ。秀一って、将来、タイムスリップできるような科学者になってるんでしょ? だから、もしもわたしたちがやられそうになったら、とにかく秀一を生き残らせようって。そしたら、あとで未来からナントカ助けてくれるんじゃないか、って……」
「それはまあ、一理あるかもしれんが……。けど、そんな博奕めいた作戦は、もう二度とやらないでくれ。時空遷移ってやつはかなり不安定なものらしいから、俺にはなんの保証もできやしない。現に、今だって、なんの助けも来てないしな――」
そう言いながら、秀一は、ノインを見やった。
キルロイドは人間に限りなく近い存在――それが右腕を失ったのだ。いくら機械といえど、そのダメージはかなり深刻に違いない。
それでも彼女が平静を装っているのは、きっと、相手に弱味を見せたくなかったのだろう。
春香に拘束され、ノインに踏みつけられながら――
ハンドレッドは重々しく口を開いた。
「……今の気分は……例えるなら、そう。いつもの繰り返しだ。こんなこと、ただの五十一回目に過ぎない……」
「やけに諦めが良いじゃない。最後の悪あがきはしなくていいのかしら?」
「くく。どうしようもないのさ。おれは色々と特殊な設計のキルロイドでね。貴様らみたいに野蛮な力、そもそも持ち合わせていない……」
秀一は彼の変装能力について考えた。
確かに、あれだけの機能を搭載するともなれば、代償となるものがあってもおかしくはない。
ハンドレッドの首に、そっと手刀を突きつけて、ノインは言った。
「だったらアンタは、ガラクタ未満ってことね……」
彼は目玉だけを動かして、ノインの全身を眺めると、こう反省した。
「なるほど……。自分の身体を焼き切ったわけか。貴様がそこまでアガリに入れ込んでいたとは……どれ――」
そう言うと、彼はすぐさま自分の姿を変形させていった。
真っ白な光の粒子を全身に集めて――全身がうねうねと再構築されていく。
「なっ――」
秀一がうろたえたのは、その姿が、まるで自分とそっくりのものになっていたからだ。
「喜べ、トゥーナイン。俺からのプレゼントだ。これで……念願のターゲットを殺す練習ができるだろう?」
「……最後の最後まで、サイッテーね、あんた」
ノインがそう蔑むと、開き直ったように、男は言った。
「最後だからこだわるのさ。お前だって忘れたわけじゃないだろう。あの苦しみを……。今もなお、俺たち以外のナンバーは同じ被害に遭っている。お前が怠けているせいでな」
「……」
「分かっているか、トゥーナイン。この戦いを終わらせられるのは、この時代に来れた者だけ。そして、アガリを殺さないことには、延々と続くんだよ」
「……そうかもな……」
ノインはすっと立ち上がると、彼の声に導かれるように、本物の秀一のほうへ振り向いた。
そして、つかつかと歩いていくと――彼女は、その目の前で、ぴたりと立ち止まった。
「おい……ノイン……?」
秀一とノイン。
二人がじっと対峙すると、彼女はこうつぶやいた。
「わたしにはわかる。この時代のマスターは……もういない」
ノインがそう手刀を構えると、ハンドレッドは煽るように叫んだ。
「そうだ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺してしまえ! そんなイカれたクソ科学者! 今すぐ殺せ――」
それが彼の最後の言葉となった。
ノインは、その場をふわっと跳躍すると、ブーツのカカトを振り下ろして、ハンドレッドの頭を深く打ち砕いてみせた。
ばちばちと電気めいた音を立てて、彼の全身が、壊れたディスプレイのように真っ暗になって消失する。
そうして、戦いは終わった。
動かなくなった彼の身体を眺めながら、秀一は独りごちた。
(……お前の言う通り、本当に悪いのは俺だ。こんなバカな真似させて……悪かった)
その時だった。
地上のほうからすさまじい爆破音が鳴って――彼らの足場は大きく揺れた。




