未来の変え方 (2/2)
夜空の下、だれもがあっけにとられて、固まっている。その瞬間、まるで世界の時間が止まったようであった。
最初に沈黙を破ったのは琴子であった。
「……ば、バカなの、あんた。こんな状況でそんなこと――」
顔を真っ赤にさせて、彼女は恥ずかしそうに唇を震わせた。
秀一が頷く。
「そうさ。俺は天才なんかじゃない。ただのバカなんだ。だから……さらにバカなお願いをさせてもらう。できれば海外にも一緒に来て欲しい。ずっと、一緒にいて欲しいんだ」
二人が、じっと見つめ合う。
だが――
琴子は半眼になると、ため息交じりに、いつものくだけた調子で、こう言った。
「やだよ、ばーか」
そのあっけらかんとした声に、秀一が肩を落として、ずっこける。
「……ええと……えっ?」
訊き返したところで、彼女の答えは変わらないようだった。
「そんなお願い、きくわけないじゃん。だいたい、綺麗な女をはべらかしたいなんて言ってるアホに、一緒についていく女子なんていると思う?」
「いや、それはもちろん撤回するし……っていうか、お前、ちょっと空気読んでよ。未来を変えないとやばいんだから、あとでこっそりやんわり断ってくれてもいいわけじゃないの。そこは」
「……それも違うでしょ。あとで私が断るんじゃなくて、今度は秀一が誘ってよ」
「えっと……?」
まるで理解の範囲を超えたといった顔で、秀一が困惑する。
琴子は呆れたように続けた。
「もう自分の言葉も忘れたの? 『お前の人生なんだ。お前の好きに決めろ』って。だから、わたしも自分の意志で決める。もし、秀一がわたしについてきてほしいって思うなら……そうね。さしずめ、もっとポイントを稼がないとダメね」
「ぽ、ポイント……?」
「そ。秀一ってば、ただでさえポイント少ないのに、こんな状況で告白までするもんだから、もうまったくのゼロよ。これがテストなら不正解だらけのゼロ点。確実に赤点追試コースね」
「俺が……ゼ、ゼロ点だって…………?」
間の抜けた声で、秀一。
膝を崩して、彼は、もはや真っ白な灰のようになって燃え尽きていた。生まれてこの方、ゼロ点など取ったことがない。っていうか、どうやら告白は失敗したらしい。
彼のそんな残念な結果に、それまで黙っていた春香とノインが思わず吹き出して、こう応援した。
「ふふ。これからたくさんがんばらないとね。秀一くん」
「シューイチは、まずヘンタイ癖をなおさないとなー」
しかし、むろん、彼は笑ってなどいなかった――
待ちくたびれたといった顔で、ハンドレッドは告げた。
「さて、見事に玉砕したところで……くだらないラブコメはもう終わりでいいだろう?」
乱暴に琴子をそばに引き寄せて、彼は現実を突きつけるように、冷淡な声で続けた。
「さあ、約束通りゼロを突き落としてもらおう、アガリ。主賓のおれとしては、そろそろ始めてもらわないと退屈しちまうんでね……」
秀一が、祈るような思いで拳を握る。
現状はまるで変わっていない。あいかわらず窮地のままだ。無情なことに、どうやら未来はこれでも変わってくれないらしい――
だが、もう他に手段など思いつきそうにない。
(……ちくしょう。打つ手なしかよ……!)
そんな秀一を見て、琴子はふっと微笑んでみせた。
「大丈夫だよ、秀一。未来が変わらなくても……今のことなら、わたしたちでも変えられるでしょ」
彼女はバッと振り向くと――
あたり一帯に広がっている夜の景色に向かって、ごくりと息を呑んだ。
「なっ……琴子、まさかお前――」
その嫌な予感は的中した。彼女の長い黒髪が、すっと揺れる。
「バカ! やめろ――」
制止の声は届かない。
彼女は颯爽と夜の空へ飛び込んでいた。




