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キルロイド  作者: 武嶌剛
第五章 ゼロ・ポイント
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未来の変え方 (2/2)

 夜空の下、だれもがあっけにとられて、固まっている。その瞬間、まるで世界の時間が止まったようであった。

 最初に沈黙を破ったのは琴子であった。

「……ば、バカなの、あんた。こんな状況でそんなこと――」

 顔を真っ赤にさせて、彼女は恥ずかしそうに唇を震わせた。

 秀一が頷く。

「そうさ。俺は天才なんかじゃない。ただのバカなんだ。だから……さらにバカなお願いをさせてもらう。できれば海外にも一緒に来て欲しい。ずっと、一緒にいて欲しいんだ」

 二人が、じっと見つめ合う。

 だが――

 琴子は半眼になると、ため息交じりに、いつものくだけた調子で、こう言った。

「やだよ、ばーか」

 そのあっけらかんとした声に、秀一が肩を落として、ずっこける。

「……ええと……えっ?」

 訊き返したところで、彼女の答えは変わらないようだった。

「そんなお願い、きくわけないじゃん。だいたい、綺麗な女をはべらかしたいなんて言ってるアホに、一緒についていく女子なんていると思う?」

「いや、それはもちろん撤回するし……っていうか、お前、ちょっと空気読んでよ。未来を変えないとやばいんだから、あとでこっそりやんわり断ってくれてもいいわけじゃないの。そこは」

「……それも違うでしょ。あとで私が断るんじゃなくて、今度は秀一が誘ってよ」

「えっと……?」

 まるで理解の範囲を超えたといった顔で、秀一が困惑する。

 琴子は呆れたように続けた。

「もう自分の言葉も忘れたの? 『お前の人生なんだ。お前の好きに決めろ』って。だから、わたしも自分の意志で決める。もし、秀一がわたしについてきてほしいって思うなら……そうね。さしずめ、もっとポイントを稼がないとダメね」

「ぽ、ポイント……?」

「そ。秀一ってば、ただでさえポイント少ないのに、こんな状況で告白までするもんだから、もうまったくのゼロよ。これがテストなら不正解だらけのゼロ点。確実に赤点追試コースね」

「俺が……ゼ、ゼロ点だって…………?」

 間の抜けた声で、秀一。

 膝を崩して、彼は、もはや真っ白な灰のようになって燃え尽きていた。生まれてこの方、ゼロ点など取ったことがない。っていうか、どうやら告白は失敗したらしい。

 彼のそんな残念な結果に、それまで黙っていた春香とノインが思わず吹き出して、こう応援した。

「ふふ。これからたくさんがんばらないとね。秀一くん」

「シューイチは、まずヘンタイ癖をなおさないとなー」

 しかし、むろん、彼は笑ってなどいなかった――

 待ちくたびれたといった顔で、ハンドレッドは告げた。

「さて、見事に玉砕したところで……くだらないラブコメはもう終わりでいいだろう?」

 乱暴に琴子をそばに引き寄せて、彼は現実を突きつけるように、冷淡な声で続けた。

「さあ、約束通りゼロを突き落としてもらおう、アガリ。主賓のおれとしては、そろそろ始めてもらわないと退屈しちまうんでね……」

 秀一が、祈るような思いで拳を握る。

 現状はまるで変わっていない。あいかわらず窮地のままだ。無情なことに、どうやら未来はこれでも変わってくれないらしい――

 だが、もう他に手段など思いつきそうにない。

(……ちくしょう。打つ手なしかよ……!)

 そんな秀一を見て、琴子はふっと微笑んでみせた。

「大丈夫だよ、秀一。未来が変わらなくても……今のことなら、わたしたちでも変えられるでしょ」

 彼女はバッと振り向くと――

 あたり一帯に広がっている夜の景色に向かって、ごくりと息を呑んだ。

「なっ……琴子、まさかお前――」

 その嫌な予感は的中した。彼女の長い黒髪が、すっと揺れる。

「バカ! やめろ――」

 制止の声は届かない。

 彼女は颯爽と夜の空へ飛び込んでいた。


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