表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キルロイド  作者: 武嶌剛
第五章 ゼロ・ポイント
PR
40/51

悪意

 いつもは活力に満ちている琴子の顔が、今はすっかり血の気が引いてしまっている。どんなに訓練した人間でも、そこで冷静を装うことは難しいだろう。彼女の眼下には高度二百メートルの景色が広がっている。落ちれば即死だ。怯えないわけはない。

 秀一が、目を鋭く釣り上げる。心の中に、ふつふつと煮えくり返りそうな怒りがわきあがっていた。

「どうしてこんなことを……。俺を殺したいなら、俺を直接狙えよ!」

「くく……。理由はカンタンだ。貴様のそういう顔が見たかったからだよ。アガリ。まったくもって最高の気分だ……」

 彼の感情を嘲笑うように、ハンドレッドは唇を歪ませてみせた。

「お前……」

 拳を握りしめて、秀一が歯を食いしばる。

 だが、安易に動くわけにはいかない。下手な行動は、琴子の命を奪うだけだ。春香もまたそのことを分かっていて、じっと慎重に身構えている。

 二人の鋭い視線を浴びながら、男は言った。

「おいおい。おればかりをそう一方的に恨むなよ。悪いのは……すべて自分のせいだろう、アガリ」

 彼は続けた。

「おれたちキルロイドに自分の意志なんか厳密には存在しない。元を正せば、貴様の意志がこの場にいる全員を巻き込んでいるわけだ。こんなもの、ただの自業自得ってやつだろう。逆恨みもいいところだ」

「……そんなことはとっくに分かってる……」

「いいや、その様子じゃ、まるで分かっていないな。たとえば、おれは貴様に五十回も殺されたわけだが……その痛み、貴様にはまるで想像つかないだろう?」

 彼は琴子の足を踏みつけると、そこを軸にして、彼女の身体を夜空に向かって、さらに傾けてみせた。

「ちょうど、こんな感じだ。高所から落下するように――ちょうど自分の重みを感じ始める頃、身体がなにかに衝突するんだ。そして、悶絶するような激痛を味わう。繰り返し、繰り返し……何度もやらされてな。トゥーナイン、時間遷移の失敗を知る貴様なら、少しはその痛みが分かるんじゃないか。ええ?」

 ノインはなにも答えない。

 蔑視するような視線を常に向けているだけであった。

「……やめろ、ハンドレッド。だからって、琴子は関係ないだろう!」

「大アリさ。こいつが死ねば、同じような苦しみを味わえるだろう? 俺はできる限りたくさん殺してやりたいんだよ、貴様のことをな」

「……頼む。やめてくれ……」

 懇願するように秀一がつぶやく。

 しかし、それは逆効果でしかない。結果として、それは彼に愉悦めいた満足を与えるだけだった。

「良い表情だ。けどな、さっきも言ったろ? 言葉一つで物事はなにも解決しないって――」

「やめなさい! なら、その娘じゃなくて、先に私をやりなさい!」

 そう叫んだ春香に、じっと視線を転じると――

 男は少し迷ったようにしてから、にっと笑って、こう提案した。

「……おかげで面白いことを思いついた。こんなのはどうだ? 貴様がその手でゼロを突き落とすというなら、おれも織原琴子を慈悲の心で助けてやらないこともない」

「……そんな言葉……信じろっていうのか……?」

「バカいえ。信じる信じないは関係ない。やるかやらないか、それだけを聞いてるんだよ、おれは……」

 春香と目を合わせると、彼女は小さく頷いてみせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ