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キルロイド  作者: 武嶌剛
第五章 ゼロ・ポイント
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百番目の目的

 遠くで、夏野丘の街明かりが小さく輝いている。その電波塔の頂上は、地表から二百メートルほどの高さだったか。強い風にさらされて、鉄骨はぎしぎしと軋む音をたまに鳴らしていた。

 秀一と春香が長い階段を登り終えると、その老人は夜空を背景にして、歓迎するように言った。

「待っていたよ、アガリ」

 二人が、瞬時に状況を確認する。

 琴子とノイン。当然、彼女たちは拘束されていた。老人が琴子を抑え、筋肉男がノインを抑えつけている。さらに琴子の両腕には手錠がかけられており、ノインは芋虫のようになって、身体全体に鉄線と鎖が厳重に縛りつけられていた。

 あたり一帯の床の面積は、教室の広さと同程度か。極端に狭いわけでもないが、動き回るには不十分な広さ。周囲に柵はなく、落ちたら一巻の終わりである。まず助からない。

 彼らにとって、この上なく優位な環境といえた。

「よお、変装野郎。もしかして……その顔が、未来の俺の顔なのか?」

 彼の年老いた顔に、どことなく自分の面影を感じて、秀一が尋ねる。どうやら、あまり自分の望む方向の容姿にはならないらしい。彼は内心、少しがっかりした。

「しゅ、秀一!」

 助けを求めるように、琴子が叫ぶ。

 春香は一歩前に出ると、鋭い口調で告げた。

「その娘を離しなさい! 関係ないでしょう!」

 男は声色を変えて、笑い出した。

「おいおい……勘弁してくれ。腹がよじれちまう。そんな台詞一つで人質を解放するバカ、この世にいるとでも思うか? ゼロ」

 その言い方は、もはや老人のものではなくなっていた。おそらく、その本体、彼個体の喋り方なのだろう。卑屈そうで――常に人を嘲笑うような癇に障る口調であった。

 普段は冷静に構える春香が、驚愕したように息を呑んだ。

「……貴方、どうして私の番号を――」

「そりゃあ知っている。おれには過去のキルロイドの情報が、すべてインプットされているんだからな……」

「どうして、そんな情報を――」

 その疑問に答えたのは、秀一だった。

「……カンタンなことだよ。要するに、未来の俺は信用しなくなったのさ。これまでのキルロイドを。だから、もし障害になるようなら破壊する。そう考えて、キルロイドの情報を記憶させた。そんなとこだろ……?」

「へえ、驚いた。さすがは未来のアガリ。察しが良い。……色んなことを分かってきてるようだな」

「……お前の目的はなんなんだ? ええと――」

「ハンドレッド。おれのことを呼びたいなら、そう呼べ。こんなもの……ただの番号に過ぎんがな」

「貴方が、百番目のキルロイド……」

 春香は言葉を失っているようだった。秀一も同じように驚いていた。

 確か、時間遷移は、春香とノインの間で四十回の失敗が起きている。すると、その後に六十回近くの失敗が続いたということになる。やはり、それだけ時間遷移は難度の高いものなのだろう。そして、

「くそ。いったいどんだけ長生きしてるんだよ、未来の俺は――」

 自分の寿命を呪う。本来は嬉しいことなのだが、今は厄介なだけだった。

「憎まれ者、世になんたら、ってやつだな。いっとくが、まだまだ生きそうだぜ、あのジジイは……」

 言いながら、ハンドレッドは、急に琴子の腕を引っ張って、歩き出した。

 そして――その小柄な身体を夜の暗闇に向けて、ぐっと突き出す。

「――ッ――――――」

 琴子が声にならない悲鳴をあげる。

「な、なにやってんだ! お前!」

「おっと、そう近づくなよ。……おれは臆病な性格でね。緊張のあまり、ぽろっと手が滑っちゃうかもしれんぜ」

 彼の言葉に、秀一も春香もぴたりと立ち止まった。

 心臓の音が強く鼓動する――風に強く揺れる琴子の髪が、秀一の不安をさらに煽っていく。 

 老人は打ち明けた。

「さっき……俺の目的が何かって聞いたな、阿我理秀一。それは至極カンタンなことだ。貴様をとことん殺す。ただそれだけだ。トラウマに残るくらい、最悪な記憶を植え付けてな――」


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