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キルロイド  作者: 武嶌剛
第五章 ゼロ・ポイント
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人質たち

 鉄骨のむきだしになった暗がりの部屋で、二人の少女が拘束されていた。

 一人は手足に手錠をかけられ、もう一人は金属の鎖とワイヤーで厳重に縛り上げられて、どちらも柱にくくりつけられている。

 きっと周囲に人はいないのだろう。

 彼女らの口元にくつわがないのは、助けを呼んでも無駄ということだ。

(……この子、秀一と一緒にいた……)

 琴子は、逃げることが困難だと判断すると、隣で気絶している金髪の少女をじっと見やった。

 長いまつげに、人形のように小さい顔――ところどころ、顔が腫れているのは、だれかに殴られた跡のように見える。琴子は強い怒りを感じた。その感情は、一つは美少女をいたわる心配であり、もう一つはこの場にいない男に向けた憤りである。

(……やっぱり、ヘンな事件に巻き込まれてたんじゃない。秀一のやつ)

「ねえ。ちょっと。起きれる?」

 呼びかけても、彼女は目を開けない。意識を失ったままだった。呼吸はしているから、死んでいるということはないだろう。

 それからしばらく声をかけ続けていると、彼女が目覚めるよりも先に、部屋の扉のほうがガチャリと開いた。

 安普請な金属の音を響かせ、一条の光を背景に、老人がぬっと姿を現した。彼の顔には、どこかで見たことのあるような、そんな面影があった。

「……なんだ。まだ寝ているのか」

 老人はツカツカと床を踏み鳴らすと、そのまま少女の顔を蹴飛ばした。

「あ、アンタ! 女の子の顔になにしてんのよ!」

 琴子がとっさに叫ぶ。

 靴の裏で少女の頭を踏みにじりながら、老人はこう告げた。

「面白いことをいう。こいつはただの機械だ。見た目が人間に酷似しているだけでな」

(……機械……?)

 琴子は戸惑った。

 この老人がなにを言ってるのか、理解できなかったのだ。

 こんな綺麗な女の子のどこが機械だというのか。そんな精巧なロボットが開発されたなんてニュース、まったく聞いたことがない。どこからどう見ても、人間そのものだ。

 だが、老人は彼女のことを、まったく人間として扱っておらず、

「しかも……ろくに命令すら守れない――クズのガラクタだ!」

 彼はさらに少女のことを蹴りつけた。

「――つッ――――」

 その攻撃がやはり響いたのだろう。痛烈に顔を歪ませて、少女はようやく意識を取り戻した。

「おはよう、トゥーナイン。気分はどうだね」

「……良いわけないでしょうが。この卑怯者」

 少女はそう答えながら、老人の靴に向けて、口の中の血をツバと一緒に吐き捨てた。

 老人はじっと、その汚れを見ながら、こう言った。

「ふん。感謝されこそすれ、けなされる筋合いはない。なにしろ無能の後始末に、私たちは狩り出されているのだからな。……アガリを殺す。これは本来、貴様の役目だろうが」

「えっ――」

(……秀一を殺す……?)

 思わず琴子が声を漏らした。

 老人は楽しそうに、その表情を眺めた。

「キミには信じられないかもしれないが……わたしもこのガラクタも、彼――いや、キミの知り合いである阿我理秀一を殺すために未来からやってきてるんだよ」

「未来って……。なにいってるの、アンタ? それに殺すって……なんで、そんなことすんのよ!」

「それは未来の阿我理秀一が、自らの滅びを望んでいるからだよ」

「は、はぁ?」

 だんだんと頭痛がしてくる琴子。こんな言い逃れのできない露骨に犯罪な誘拐をするくらいの相手だ。

 もしかしたら、この老人は本気で頭がおかしいのかもしれない。彼女はそう思った。

「クソ……!」

 金髪の少女が拘束を外そうと、ガシャガシャ暴れ出す。

 だが、もちろん外れるわけはない。そう動く度に、鋭い鉄線がくいこみ、彼女の服が破れ、体を傷つけるだけであった。

「ムダだ。いくらキルロイドのパワーでも限界はある。逆に苦しむだけだぞ」

 脱出を諦めると、少女は今度は噛みつくような視線を老人に向けた。

「オマエ……シューイチを狙うだけで、どうしてこんな回りくどい真似ばかりするんだ。関係ない人まで巻き込んで!」

「だからお前はガラクタなんだ、トゥーナイン。……つまらんだろう、普通に殺るだけではな」

 そうして入り口へ戻ると、老人は光を閉ざすように扉を閉めた。


 老人が去った後、部屋に二人で取り残されて――

 琴子はひきつったように笑いを浮かべた。

「はは……。あいつ、なに言ってんのかな。バカみたいね」

 だが、少女は笑わない。

 口を閉ざして、ただ真剣な表情だけを浮かべている。

「…………」

 さすがに琴子も空気で察した。先ほどの話が本当のことなのだと。いくらなんでも、こんな状況で意味のない会話は成されないはずだった。

 そして、彼女はだんだんと理解していた。秀一のついた嘘は、こういう殺伐とした真相を隠すためのものだったことを。

 あの美少女の噂もやはり本当で、この少女は間違いなく秀一を探していたのだ。殺すために――

「……あなたも、秀一のことを殺そうとしてたの……?」

 不安そうな目つきを浮かべる琴子に、少女は安心させるように言った。

「最初は、ね……。でも、わたしはシューイチに恩ができた。もう殺したりなんかしない。だから、アンタのこともきっと助けてみせる。……今はちょっと難しいけど。シューイチたちが来たらチャンスが生まれるはず。そしたら、なんとかしてみせるから」

 たぶん、それも本当だろう。琴子は直感でそう確信した。

 祭の時、彼女は秀一と一緒に行動していたし、敵ではないだろう。信じて良いはずだ。

 そのことに緊張を緩めると、彼女はさらに気になってたことを尋ねてみた。

「ねえ……。あいつ、さっき秀一が全部悪いみたいに言ってたけど……どういうことなの?」

「……本当は話すとマズイんだけど……」

 口ごもる少女に、琴子は懇願するように言った。

「お願い。こんな状況でしょう。なにも知らないままでは、いたくないの」

 少女は、しばらく悩んだようにしてから、

「確かに……。もうアンタ、巻き込まれてるもんね。隠しても意味ないか――」

 そう前置きをして、こう教えてくれた。

「未来のシューイチはすごい科学者になるんだけど、老後になって自殺するために、過去の自分を殺そうと考えるんだ。その結果、わたしやさっきのジジイみたいなのをタイムスリップさせて、この時代のシューイチを狙わせてる。だから、まぁ、本当に悪いのは未来のシューイチだけど、今のシューイチも悪いって、あいつは言ったんだ」

 琴子がぽけっと口を開いて呆ける。ほとんど信じられない話だったが、

「なるほど……まあ、確かに、頑固で偏屈で自己中な性格のアイツなら、将来は色々とこじらせて、なんとなくそんな犯罪チックなことにも平然と手を染めそうな気がしなくもないわ……」

 最終的にそう納得できた。というより、現実にそうなっているのだから納得するしかなかった。

「えっと、あなたの名前は……トゥーナインで良いの?」

 そう訊くと、少女は明らかに不機嫌そうな声になって、すぐに指摘した。

「ノイン。呼ぶなら、そう呼んで」

「ごめん。ノインね、ノイン……。良い名前ね」

「……そう?」

 ノインが、宝石のような瞳をちらりと輝かせる。

 それから彼女たちはしばらく話し合った。互いに抱える不安を紛らわすように――


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