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キルロイド  作者: 武嶌剛
第四章 天才の難問
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挑戦者

 一方、同じ喫茶店の離れた窓際に、彼女たちは座っていた。

「……おい、ハルカ。いくらシューイチでも、これはさすがに怒られないか」

「しっ。ノインちゃん。聞こえないわ」

 人差し指を古典的に突き出して、春香は片耳にかけたイヤホンの音に集中していた。店に入る直前、さりげなく秀一の服につけておいた盗聴器。彼女は悪趣味にもその音声を拾っていたわけである。

 ノインは呆れたように、アイスカフェオレをストローで啜っている。

「大丈夫よ。私たちが同行しないと危険だって話はしてあるし。これもその一環のうちだって……」

「……こんだけ近いんだから、わざわざ会話まで聞く必要はないんじゃ……」

 だが、ノインの言葉はまるで届いていない。

 あたかも彼女はドラマに見ハマった主婦のようにすっかり夢中になってしまっている。気まずい男女の揉めごとは彼女のこの上ない好物であった。

 やれやれと嘆息して、ノインが窓の外を見ると、その瞬間、彼女はブハッとストローから噴き出した。

「ど、どうしたの。ノインちゃん。ハナからカフェオレが出てるわよ……」

 ティッシュで顔を拭いてもらいながら、ノインは確認するように聞いた。

「ハルカ。あれ……アイツだよな?」

 二人の視線が向かう先。

 車道を挟んだ向こうの歩道には、例の筋肉男が立っていた。アロハシャツにハーフパンツ。その下には隠しきれない筋肉が、あいかわらず激しく自己主張している。

 彼は腕組みしており、その片手で挑発的に人差し指を動かしていた。かかってこい。だれがどう見ても、明確にそう合図している。

「わざわざ出向いてくれるなんて、上等じゃんか」

 噴き出した飲み物をすべて拭き取ると、ノインがばっと立ち上がった。

「ノインちゃん。一人じゃ無理よ。私も行くわ」

「いや、大丈夫だよ。ハルカはシューイチを見ておいて。もう一人の変装女が来るかもしれないし。それに――」

 カツン、とブーツを踏み鳴らして、ノインは言った。

「今日は負けないよ。コレだってあるしね」


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