それぞれの狙い (2/2)
秀一がこくりと頷くと、彼女は怒りを露わにした。
「……忘れてないわよね。貴方が未来を変えれば、私たちの存在は消える。そのことについて、どう考えてるのかしら」
「それは問題ないはずです。なぜなら、俺は自殺を辞めても、時間遷移と春香さんたちの研究はやる。こうすれば、少なくとも存在の矛盾は生じなくなる」
「その場合……厳密には、今の私たちと同じ存在ではなくなるんじゃないかしら」
「まあ、やってみないと分からないと思う。でも、この方が確実に全員が助かる可能性は高い」
「……賛成はしかねるわ」
「俺はあいつらと戦うことのほうが賛成できないです。こっちは致命的な手傷一つ負ったら、それまでなんだ。無血で戦いが終わるなら、その手段を取るべきだ。それに――」
歯を食いしばったように、彼は続けた。
「今回の事件では怪我人だって出てる。キルロイドのやり方が、段々エスカレートしてきてるんだ。このままほっとけば、いずれ死人が出るかもしれない。……俺のせいで」
「秀一くん……」
押し黙る春香。秀一は、両手をついて、こう誓ってみせた。
「大丈夫。必ず約束するから。未来を変えても、春香さんとノインは必ず再現してみせるって」
「あ。それならわたし、ついでに妹が欲しいから、よろしくね」
それまで会話に参加していなかったノインが、急に横からひょいっと割り込む。
その、あまりに突拍子もない軽い意見に、秀一はがくりとあきれた。
「お前は……なんちゅーか……。今までの真面目な話の流れから、よくもまあ、そーいうことをさらりと思いつくな……」
咳払いをして、春香が話を戻した。
「貴方の気持ちは分かったわ。でも、未来を変えるっていっても具体的にはどうするの? 例えば、貴方は今、ずいぶんと考え方をあらためているみたいだけど……変化はとくに起きていないみたいだし――」
「うん。問題はそこなんだ。未来の俺が、どうして自殺なんて考えたのか。まずは、その原因を知らないといけないんだけど――春香さんたちは、なにか知らないのかな?」
春香とノインは目を見合わせると、似たような表情で、肩をすくめた。
「悪いんだけど、私たちも貴方の昔のことは、あまり知らないのよ。これからどんな研究をして、こんな功績をあげたとか、そういうプロフィール的なことは分かるけど、プライベートな情報はなにも知らないわ。だから、貴方がこれから自殺に至る原因なんて検討もつかない」
「プライベートっていえば……あとは裁判くらいじゃん? ハルカ」
「ああ。そんなエビデンスも残ってたわね。離婚だの浮気だの中絶だの、ひどい女ったらしの男が受ける訴訟制裁のオンパレード。確か、慰謝料の総額は億いってたわね」
秀一が全力でずっこける。
頭をテーブルに激しくぶつけてから起き上がると、彼は両手を震わせて絶叫した。
「俺はどんだけクズな人生を送っているんだ!?」
「なんでも若い頃に勉強に明け暮れたもんだから、その反動でめちゃくちゃ女に没頭したみたいよ。まあ、そもそもヘンタイのアンタならありえない話じゃないんじゃない?」
「……はは……あはは…………」
そのトドメの補足説明に、秀一は抜け殻のようになって、表情をひきつらせるしかなかった。
もしかしたら、異性への趣味嗜好などの考え方も一緒にあらためたほうがいいのかもしれない。そんなことを思った。
(……いや、そういうことでもあるのか……?)
秀一が、そんな一つの可能性に思い当たると、同時に、さまざまな疑問がわきあがってきた。
「……なあ、ノイン。一つ聞きたいんだけど、前に俺を殺そうとしてた時、どうして俺の家に直接こなかったんだ?」
「シューイチはバカなのか? そんなの詳しい住所が分からなかったからに決まってんじゃん」
「そう……だよな……」
秀一は少し考え込むと、さらにテーブルの盗聴機を手に取って、こう尋ねた。
「疑問がもう一つある。今回の連中は、なにを考えてるんだと思う? 俺の住所を知っていて盗聴器を仕掛けられたのなら、その時に暗殺だってできたはずだ。それなのに、いちいち祭の時を狙うなんて、ただ回りくどいだけで意味がない……」
「それは、確かにわからないわね……。なんでかしら?」
春香とノインは共に疑問符を浮かべている。
そんな中、突然、秀一はくつくつと、まるで役者のようになって笑いだした。
「はは……なるほど。そういう、ことかよ……」
「原因が分かったの? 秀一くん」
そう春香が訊き返した時だった。
会話を遮るように、秀一のスマホの音が部屋に鳴り響いた。
スマホを取り出すと、その画面には『織原琴子』の名前が表示されている。
(思えば……どれもヒントだったんだ。天才の俺なら気づいてくれる……そういうことなんだろ。クソジジイめ)
彼には、くだらない茶番の全貌がうっすらと見えかけていた。




