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キルロイド  作者: 武嶌剛
第三章 夏野丘星祭
29/51

騒動 (3/3)

(くそ。早くしてくれ、春香さん……)

 秀一が歯がゆく拳を握りしめる。

 戦いが始まって、二十分ほどか。次第に勝負の行く末はうっすらと見えてしまっていた。

 スピードでかき回すノインに、一撃をゆったりと狙う外人。まさに一進一退の膠着状態なのだが、不利なのはノインのほうだった。

 要因は体力――激しく動き回るノインには目に見えて疲労が現れており、男のほうは呼吸一つ乱していない。

 このままでは、春香が到着する前にノインの体力が先に尽きてしまう。

 とはいえ、普通の人間では、その戦いには到底割って入れそうもない――秀一にはどうすることもできなかった。

(……それにしても、あいつはなんなんだ? キルロイドじゃないにしたら、なおさら頑丈過ぎる――)

 男はあまりにも強すぎた。

 ノインの手刀は、鉄のフェンスですら切り裂くほどだというのに、まるでダメージを与えられていない。人間でないことだけは確かだろう。

 そんな風に、秀一が戦いを傍観している時だった。

 浴衣を着た一人の少女が、その戦場にふらりと現れた。

 桜柄の浴衣をまとった黒髪の若い娘。

 むろん、秀一には、すぐに正体が分かった。

(バカ! あいつ、なんでこんなとこに――!?)

 琴子のことに気がつくと、秀一はすぐに駆け寄った。

「なにやってんだ、お前! ここは危ない、はやく離れろ――」

 と、そこで秀一の言葉が途切れた。

 彼女がいきなり両腕で首を掴んだからだ。

「な……なに……を…………?」

「ねえ、どんな気分?」

 琴子が不敵に笑った。

 それは、ジョークの類ではなく、殺意のこもった力のかけ方であった。みるみるうちに秀一の顔が赤くなっていく。

(――呼吸が――――)

 あと数秒もすれば意識が飛ぶ……

 そんな寸前のところで、ノインの声がかすかに聞こえた。

「シューイチに――なにしてんだ、オマエ!」

 彼の危機に気がついたノインは、外人男との戦いを中断して、全力で琴子へ飛びかかった。

 おもいきり顔面を殴られて、激しく地面を転がっていく琴子。

 秀一は膝をつくと、咳込みながら呼吸をめいっぱいして、肺に酸素を急いで送った。

「大丈夫か、シューイチ」

「ああ……悪い、助かった……」

 礼を言いながら見やると――

 その琴子の変貌ぶりに、秀一は目を見開いた。

(な……顔が……?)

 まるで液晶画面が割れたように、琴子の顔に幾何学的なヒビが入っていた。

 それは、人間が傷ついた時に生じる類の怪我ではない。明らかに機械的な損傷だった。

「だ、だれなんだ! お前!」」

「……ふふ。今日のところはここまでかな……」

 そう言いながら、偽琴子は筋肉男と合流すると、急に二人はその場を離れ始めた。

「おい! どこいくんだ!」

「帰るんだよ。もっと面白いことを思いついてしまったからね……」

「ま、待てよ! お前ら――」

 だが、秀一は引き止められた。

 浴衣の裾を掴んでいたのは、ノインである。彼女はすぐにこう謝った。

「悪い、シューイチ。二人相手に追いかけるとなると、今のわたしだと、ちょっと厳しい」

 見れば、彼女はひどく疲弊していた。

 あれだけの死闘をずっと続けていたのだから、無理もないことだった。きっと最後のダメ押しは、秀一を助けた全力疾走のせいなのだろう。

 秀一は追跡を諦めた。ただの人間である自分が追いかけたところで返り討ちに遭うだけだ。意味はない。

(くそ……なんなんだよ、あいつら――)

 そうして騒動は終わり、夏野丘星祭はその日で中止となった。


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