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キルロイド  作者: 武嶌剛
第三章 夏野丘星祭
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騒動 (1/3)

 騒動は、きわめて混迷を極めていた。

 阿鼻叫喚とする来場客たち。警備員とスピーカーのダブルアナウンスが、彼らの頭上にけたたましく響き合っている。

 人々が一様に混乱するのも無理はない。胸を叩き、耳をつんざく爆発音。視界をくらます強烈な火花。それらがあちこちで勃発している。もはや、ちょっとした空襲のようなものだろう。

「ハルカ。どーする? なんかすっごいパニックみたいだぞ」

「残念だけど、今日はもう中止でしょうね。さっき秀一くんにも場所を連絡しておいたから、合流したら帰りましょう」

 ノインと春香。二人は、広場の少し離れた時計塔の近くで、じっと待機していた。急いで避難したところで、駅前は混雑している。ならば少し時間を置こうという考えだ。他にもそういう人はまばらにいるようだった。

 そんな折、ノインがふと気がつく。

「ねえ、ハルカ。あいつは……?」

 彼女の指し示す先には、タンクトップを着たマッチョな男がいた。

 まるで規格外な体格の外人だった。いかり肩で、隆々とふくらんだ筋肉は今にも服を破りかねないほどに盛り上がっている。近くの駐屯地に在住する軍人なのかもしれない。

 そんな筋肉男が、なぜか彼女たちのもとへ真っ直ぐ近づいてきている。

「……まさか、こんな非常時に口説くわけじゃないでしょうし……敵意むき出しって顔ね。もしかして、事件となにか関係あるのかしら」

「くるよ、ハルカ」

 そう言って、二人が浴衣を着崩して身構える。

「どういうつもりか知らないけど……とりあえず縛り上げて、じっくり聞いてみましょう――」

 先に動いたのは、春香だった。

 彼女が走り出すと、同時に男もまた走り出していた。その明らかな攻撃の意志を感じ取って、春香はにやっと笑った。

「だれだか知らないけど……相手が悪かったわね!」

 男が拳を突き出すと――春香は、さっと後ろに回り込んで、男のもう片方の腕を絡めとって、あっという間に関節を決めた。

「じっとしてなさい。それ以上動いたら、折るわよ」

 そう脅しながら――彼の広い背中に固定させた腕を、まるで秒読をするようにねじり上げていく。

 だが、春香は瞠目した。

「なっ――」

 男の腕が急にぴたりと動かなくなる。さらに男は、腕力だけで春香の関節を無理やり外すと、その腕を振り払って、春香の身体を投げ飛ばしたのだ。

 受け身を取って態勢を急いで整えると、春香はすばやく彼から離れて、慎重に距離を図った。

「大丈夫、ハルカ?」

 そばに駆け寄ってきたノインに、春香は乱れた浴衣を整えながら注意した。

「ノインちゃん。気をつけて。あの男……力だけなら私より上かもしれない。信じられないことだけど……」

 キルロイドがただの人間にパワー負けする。彼女の知る限りの常識では、そんなことはありえないことだった。

 さらに男は信じられない行動を続けた。

「へ――?」

 思わずノインが呆ける。

 なんと、その男は、足元のマンホールを右手で突き破り、軽々と片手だけで引き抜いてみせたのだ。

 そして、顔色一つ変えず、呼吸の一つも乱さず――彼はまるでフリスビーでも扱うかのように軽々と、そのマンホールを投げつけてきた。

 鋭い回転を伴って、直線的な軌道で突っ込んでくる鉄の塊――

 さすがの二人もこれには回避する。

 直後、激しい金属の衝撃音が響き渡った。

「う、うっそぉ……」

 ノインがちらりと背後を見やると、そこにあった街灯は、腰のくだけたようにボッキリとへし折れていた。電線もやられたのだろう、先端の明かりがバチバチと音を立てて消えていた。

 春香とノインが唖然としたように目を見合わせる。

「……あんな人間って、存在するの? ハルカ……」

「いえ……私の知る限りではいないと思うけど……」

 男が再び近づいてくる。無表情のまま、じりじりと――

 ノインは、思いついたように後ろに下がると、壊れた街灯の柱を手刀で切り取って、それを槍のように構えた。

「だったら、これならどうよ。筋肉野郎め――」

「ノ、ノインちゃん。それはいくらなんでも死んじゃうんじゃ……」

「なにいってんだよ、春香。アイツが先に殺そうとしてきたんだろ!」

 そう叫びながら、ノインが真っ直ぐ突撃する。

 だが、その心配は杞憂に過ぎなかった。

 彼は片手を突き出すと、その槍の攻撃ですらカンタンに受け止めてしまったのである。しかもダメージはほとんどない。手の平から、どろっと血が流れた程度だ。

「な、なんなの、こいつ……」

 そうノインが不気味がった時、彼女は気がついた。

 その傷口から流れる液体の色が、人間の赤色とは異なる朱色だったことに――

「……オマエ。まさか、キルロイドなのか……?」

「……」

 男はなにも答えない。槍を掴んだまま微動だにせず黙っているだけだ。

 そんな中、彼はようやく場に駆けつけた。

「春香さん! ノイン!」

 むろん、それは秀一だった。


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