すくわれる者
秀一が浴衣の視姦活動にも飽きてきた頃――
彼女はやはり、祭の遊びに夢中になっていた。
「……は、ハルカぁ……もう一回! もう一回だけ!」
というか、ムキになっていた。顔を真っ赤に悔しがって、ノインが駄々をこねる。
傍らには、濡れて破れた数十枚のポイが転がっていた。むろん、金魚は一匹も獲れていない。
「……春香さん。これはいくらなんでも甘やかし過ぎなのでは……」
屋台の親父がホクホク顔で新たにポイを渡す。
これでは金魚すくいというより、親父の小銭すくいといったほうが適切だ。
「大丈夫よ。この程度のお金、今までにたっぷり貯蓄してきてるからね」
と、小銭入れを袖口にしまいながら、春香。秀一はふと疑問に思った。
「……そういえば、春香さんのそのへんの事情ってどうなってるんです? うちの家政婦だけじゃ、あんな豪邸に住めないですよね。やっぱり、他の仕事も?」
「ふふ……。これでも色々な仕事やってるのよ。……色々とね……」
なんだか恐い感じの表情を浮かべて、春香が笑う。
秀一はなんとなく、それ以上聞くのをやめておいた。なんだかとっても犯罪的な香りがしたからだ。もう、これ以上、彼女のイメージを壊したくはない。
「あぁぁぁ! もう! こいつらちょこまかと!」
さらにポイを破って、ノイン。なんだか滑稽な光景であった。なにせ未来の殺し屋が小魚一匹も捕らえられず、躍起になっているのだ。
秀一は、くすりと微笑すると、
「おい。ちょっと貸してみろ」
彼女の横に並んで、その網を一つ奪い取った。さらに、サングラスを眼鏡と交換して、集中を高めていく。
「なんだよ、邪魔すんなよ! これはわたしとこいつらの決闘なんだぞ!」
「お前は追いかけるからいけないんだよ。金魚すくいの鉄則は待つことだ。そして、ポイには水の負荷を与えず、勝負は一瞬で決める――」
そう言いながら、実際に一匹をすくってみせると、ノインは目をぱあっと輝かせた。
「お、おお! なんということでしょう。いとも鮮やかに!」
「いいか。今みたいにやってみろ。じっくり動きを見極めて、入れる時は斜めに――すくう時も同じに――!」
言われるがまま、ノインがその指示通りに動くと――
「ていやッ――!」
ちゃぽん。
お椀の中でびちびちとはねる金魚。
彼女はついに成功した。ずっと失敗を見ていた屋台の親父が小さく拍手を送る。ノインは、嬉々として感動の声をあげた。
「シューイチ! すごい! すごいぞ! わたしは今、初めて、オマエをすごいと思った! ただのヘンタイかと思ってたけど、金魚くらいはハントできるヘンタイだったんだな!」
「……最後の一言は余計だ」
袋に金魚を入れて、うきうきと歩くノイン。春香はそのことに驚いていた。
「意外ね。ああいうの苦手そうだと思ったのに」
「祭の遊びだけは得意なんだ。なにしろ小さい頃から毎年来てたからな――」
そう言ったところで、秀一はぴたりと足を止めた。じっと人混みの奥に視線を送ると――そこには見覚えのある顔があった。
「……どうしたの。秀一くん?」
「スマホ。持ってきてるよね、春香さん」
「え、ええ」
「それじゃ、戻る時に連絡するから、しばらくノインと二人で見て回ってて!」
会話もそこそこに打ち切ると、秀一はたまらず走り出した。
(気のせいか――? いや……あれは間違いなかった!)
跡を追わずにいられなかった。
浴衣を着た、琴子。彼女は、見知らぬ男と一緒に歩いていたのだ――




