ノクスのこと
ノクスが炭鉱に、と言うか、この商会に入ったのは随分前のこと。
先代がまだ商会長だった頃のこと。
「――⋯⋯ふむ」
先代とノクスが机を挟んで向かい合う。両者が座っているソファは一見しただけでも、上等な物だと分かる。
一方、肝心の二人は、一人は真剣な面持ちで、もう一人は何も考えていない無表情。
扉からこっそり見ていた幼いセヴェランはどんな商談が繰り広げられるのかとワクワクしていた。
ノクスは廊下から感じるセヴェランの視線に気付いていたが、一瞥した瞳は興味のないものだった。
ややあって、先代は目を通していた書類を机に置き、息を吐いた。
「これが本当ならば、貴女の負債はざっと、この王国二年分の予算になりますね」
ちょっと紅茶を頼むよ、と言うかの如く、先代は軽く爽やかに言い放った。
さて、では、当時のノクスに持ち合わせがあるのかと言えば、ない。
「貴女の話がなくとも、かなりの借りが貴女にはあります。ああ、いえ、貴女の話を信じていないだとか、そういうわけではありません。ただ⋯⋯このような金額、一個人が払えるとは到底思えないのです」
困りましたねぇ、と全く感情のこもっていない声で呟く。
「労役四五七年と八カ月ですね」
にっこりと、先代はノクスへ微笑んだ。




