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中ボス魔族に転生した俺、ラストエンディング回収のため密かに勇者を手助けするはずが、ハズレ天職から超進化した『支配の魔王』で無双してしまう  作者: 藤枝止木
2章 支配と強欲

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第027話 村人達の覚悟


「む……仁愛のクレマンがどうしているか、彼らに聞けばよかったか……」


 エゼキエル軍の背中が十分離れたところで、俺は自分の剣に目を落とした。

 すると刃先が大きく刃こぼれし、曲がってしまっていた。

 

「やはりか。ヨーヴル男爵領で手に入る最高品質の剣なのだが……」


 エゼキエルを切る際、俺はこの剣にしっかりと魔力強化を施した。

 だがそれでも、ただの鋼の剣に五聖将は荷が重かったらしい。

 奴の強力な身体強化を貫いたことで、たった一太刀でダメになってしまった。

 アスラと戦った時も剣を壊してしまったし、今後のことを考えるとちゃんとした武器を手に入れておく必要がありそうだ。


「おー、撤退も見事にござる。やはり五聖将が率いる軍は優秀でござるなぁ」


 俺の横に立つツバキが感心したように呟く。


「ほう、さすがは食客(しょっきゃく)殿。五聖将とも交戦経験があるのだな」


「はいでござる。あのエゼキエルとは初めて見(まみ)え申したが、他の者とは何度か。

 あ、例の仁愛のクレマン殿とも戦ったことがあるでござる! 皆良い将、良い兵達でござった。何せ某(それがし)が首を取り損ねました故」


「ははは、なるほどな。さて、村へ戻るか。全く、予想外のことばかり起こる……」


 そうしてツバキと一緒に村の門を潜ると、俺達は歓声と共に迎えられた。

 ただし、熱狂しているのは魔族兵達だけで、勇者達や村人達は呆然としてしまっている。

 無理もない。五聖将は聖王国の民にとって守護神のような存在だ。その守護神に邪悪と断じられ、村ごと滅ぼされそうになったのだ。そのショックは計り知れないだろう。

 まぁ、そもそも俺達がこの村を占領したのが原因なんだけど……


 歓声も落ち着いた頃、いつも兵の指揮を預けている実直な筆頭騎士、トリュッグ卿が興奮気味に走り寄ってきた。


「デュラン様! このトリュッグ、感服いたしました! まさかあの五聖将を打倒されるとは……! お父上のデュハルズ男爵もさぞお喜びになることでしょう!

 そして食客(しょっきゃく)殿もお見事にございました! まさに一騎当千とはこのこと!」


「うむ。お前達も俺様を信じ、よく持ち場を守ってくれた。嬉しく思うぞ」


「あはは、照れるでござるよー」


 俺はトリュッグ卿に兵をよく労うように言付けて下がらせた。

 すると今度はミネットが近寄ってきた。いつもはピンと立てている耳を伏せ、不安そうにしている。


「にゃ、にゃーデュラン……聞いてた話と違うにゃ。ウチらこれからどーなっちまうんだにゃ……?

 アンジェとソフィーも、にゃんかおかしくにゃっちまったし……」


 彼女の視線を追うと、座り込んだアンジェリカにラミルルが寄り添い、立ち尽くすソフィーをベルが心配げに見上げていた。


「あの五聖将が僕らを殺そうとした……しかもその五聖将はオークに倒されちゃって……はは、ははは」


「邪悪な村……魔族と共に暮らすことが、死をもって償わなければならないほど罪深いことなのでしょうか……?」


 五聖将は、四天王とも渡り合える聖王国最強の騎士であり、高位の神官も兼ねている。

 勇者であるアンジェリカと神官のソフィーにとって、今回のことは本当にショックだったろう……

 俺はミネットに向き直ると、部下達の手前、僅かに頭を下げた。


「すまない。俺様にとっても予想外のことが起こってしまったのだ。

 だが安心してほしい。この村も、お前達の王都への旅立ちも、全てこの俺様が何とかする」


 正直俺もまだ混乱から抜け切っていない。けれど、今はそう言い切るしかなかった。

 だがミネットは何かを感じ取ってくれたのか、ハッとしたように俺を見た。

 

「デュラン……そうだったにゃ。おみゃーって、面倒見がよくて頼りになる奴だったにゃ。ま、ちょっと抜けてるけどにゃ」


「む……それについては反論できんな」


「にゃはは! しょーがにゃいから、おみゃーもウチらを頼っていいにゃよ?

 ほんじゃ、ウチはあの二人を慰めてくるにゃ。全く、みんにゃ世話が焼けるにゃ」


「ああ、よろしく頼む」


 ミネットはひらひらと手を振りながら、アンジェリカ達ほ方へ歩いて行った。

 彼女の明るさにはいつも助けられているな……よし。俺も、もうひと頑張りするか。

 俺は未だ混乱の収まらない村人達を見回し、大きく息を吸い込んだ。


「聞け! コルマール村の者達よ! 俺様の領民達よ!」


 俺の声に広場はしんと静まり返り、村人達が不安げな顔を俺に向けてきた。


「今回のことで、この村は人族における立ち位置を失ってしまったかもしれん。

 だがこの村は、ほかならぬ俺様の領土だ! 俺様は自身の領土と領民を必ず守る!

 それは相手が五聖将でも……たとえ魔王陛下だろうと変わらん! 安心して日々を過ごすがいい!」


 隣に立つツバキが、はっと息を呑んだのが聞こえた。

 彼女は魔界を追われ、故郷にも帰ることができない。もうこの村にしか居場所がない。

 その原因をつくってしまった俺は、絶対にこの場所を守らなければならないのだ。

 一方、村人達の表情は晴れない。やっぱり、侵略者の俺が何を言ってもダメか……


 するとその時、村人達の中から一人の老人が歩み出た。

 この村の村長、ロイク氏だった。


「どうした、ロイク村長よ」


「デュラン様……どうかこの老耄(おいぼれ)に、一言話させていただけませぬか?」


 普段の穏やかな彼とは違った雰囲気に、俺は自然と頷いていた。

 彼は俺に恭しく頭を下げると、村人達の方を振り返った。 


「皆、思い返してみるのじゃ。デュラン様がこの村へ来る前のことを。

 魔物や野盗に怯えながら暮らし、厳しい重税で春でも腹は満たされず、冬には餓死しかける者もいたあの日々を」


 村長の言葉に、村人達の視線が遠くへ飛び、その表情が曇る。彼は言葉を続けた。


「だがデュラン様が来てからは全てが変わった。

 兵士の方々が儂らの安全を守ってくださり、食料支援のおかげで空腹を忘れて久しい。

 もうすぐ収穫できる春蒔きの作物にかかる税も、以前とは比べ物にならんほどに軽い。これならば冬も心穏やかに迎えられるじゃろう」


 村長の言葉に村人達が何度も頷く。魔族兵達も少し嬉しそうにしている。


「じゃが……皆も聞いたじゃろう。王都から来た偉い騎士様の言葉を。あの方は、この村を邪悪だ、神の名の下に滅ぼすとおっしゃった……

 今まで散々儂らから税を搾り取り、魔物が出ても放っておいたくせにじゃ……! こんな理不尽、許せるじゃろうか……!?」


 村長の雰囲気が変わった。蓄積された静かな怒り。それが滲み出すような語りに、村人達が次々に声を上げ始める。


「いや……許せねぇ……! 王都の連中、俺達をなんだと思ってやがるんだ!?」


「人族のお偉いさん達より、魔族の旦那の方が何倍もマシだ!」


「そうよそうよ! こんなのあんまりだわ!」


「そうじゃろう! 儂はもう覚悟を決めたぞい……! 聖王国から、人界から決別し、心からデュラン様の領民となる覚悟を!

 儂はこのお方についてゆく。皆はどうじゃ!?」


「「おぉぉーっ!!」」


 村長の言葉に村人達が拳を突き上げる。不安と戸惑いに囚われていた彼らは、もうどこにもいなかった。


「ロイク村長……感謝するぞ。俺様の言葉だけでは、彼らに届かなかっただろう」


「いえ、滅相もございませぬ。——どのみち、儂らは貴方様の庇護を失えば終わりにございます故……」


「そうだな……俺様は今まで、この村の現状をできるだけ変えないように統治してきた。

 だが今後はそうもいかぬようだ。この村は、俺達は強くならなければならない。手伝ってくれるな? ロイク村長」


「おぉ……もちろんでございます、領主様」


 俺と村長はどちらともなく歩み寄り、固く握手を交わした。






***






 デュラン達が狂信者エゼキエルを退けていた頃。コルマール村から遠く離れた魔王城では、今日も残虐な行為が行われていた。


「カッ……カァァ……」


 か細い断末魔の声を上げ、屈強な騎士だった男が衣服と鎧だけになって崩れ落ちる。

 謁見の間の床には、同じような装備が何十と散らばっていた。ツバキの捕縛に失敗した近衛騎士達の成れの果てだ。

 そしてこの光景を作り出したのは、玉座に座し、額に赤い宝玉を持つデーモンの男……魔王グラノスである。

 彼は自身の手のひらを見つめ、騎士達から吸い上げた命の感覚に僅かに頬を歪めた。

 

「ふむ……数の割に、あまり喰いでがなかったな」


 そのあまりの言いように、居合わせたドライアドの老宰相は声を荒げた。


「陛下……彼ら近衛騎士は陛下への忠誠も篤く、心技体を極めた優秀な者達でした……帝国の明日を担う者達だったのですぞ……!

 このようなことを続けては、帝国は滅びの道を歩むことになりましょうぞ!」

 

 決死の覚悟で忠言する宰相に、魔王は感情を感じさせない顔で小首を傾げた。


「宰相よ。余が喰らうのは、敵、裏切り者、無能……この三者だけだ。どれも帝国には不要であろう。

 そしてこの者達はツバキの捕縛に失敗し、未だ行方すらつかめていなかった。すなわち無能だ。喰らっても何も問題なかろう。

 この者達が真に優秀で余に忠誠を捧げていたのであれば、何らかの成果を持ち帰ってきたはずだ。違うか?」


「そ、それは……しかし……!」 


「無能のことはもう良い。次だ」


「はっ……」


 宰相は、無力感に苛まれながら次の者を謁見の間に呼んだ。

 現れたのは、ローブを着た魔導士然とした魔族だった。

 彼は魔導卿という役職を帯びた男で、このキメリア魔帝国における魔導研究の全てを差配する立場にある。

 その魔導卿は、床に散らばる夥(おびただ)しい装備に悲鳴を上げかけたが、何とか堪えて魔王の前に平伏した。


「ま、魔王様におかれましては、ご機嫌麗しゅう——」


「挨拶はよい。ツバキは見つかったのか?」


「は、はい……! ツバキ様……失礼。反逆者ツバキのものと思われる、強力な火魔法の波動を捉えることに成功しました!

 詳細な場所はまだ解析中ですが、魔界との境界に程近い人界のどこかではないかと……」


「ほう、人界だったか……そのまま解析を急ぐのだ。それと、例の魔法陣の進捗はどうか?」


「は。そちらも、もう間もなく完了いたします。ツバキの居場所の解析が終わる頃には、ご使用いただけるかと」


「うむ、大変結構だ。そのまま励むがよい。見よ宰相。これこそ優秀で忠誠に篤い臣(しん)だ。魔導院の予算は倍に増やすとしよう」


「ば、倍でございますか……承知いたしました」


「おぉ……! あ、ありがたき幸せ!」


 魔王と宰相のやり取りに、魔導卿は喜色を浮かべながら深く平伏した。

 それに頷いた魔王は、魔導卿から目を外すと、人界の方角へそのギラついた視線を向けた。


「ツバキよ、もう間もなくだ。其方(そなた)の力と体、そして魂……全てを余が喰らい尽くしてくれよう」


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