第024話 目指す場所
突然妻になると言い出したツバキに話を聞いてみると、こういうことだった。
俺が彼女に言った、俺様の側にいて欲しいという発言。これが、ヤマト王国的には完全にプロポーズの言葉だったらしい。
た、確かに、そう取られてもおかしくない台詞だったかも……今更ながら恥ずかしくなってきた。
そんな訳で俺は彼女に深々と頭を下げ、誤解を与える発言をしてしまったことを必死に詫びた。
側にいて欲しいのは本当だが、それは友人や仕事仲間としてという意味だったと。
すると、彼女の顔は見る見るうちに赤く染まった。
「つ、つまり……某の勘違いにござるか……? は、恥ずかしい……! こんなの、耐えられないでござるぅっ!」
次の瞬間、彼女は再び大太刀を逆手に握り、腹に突き立てる構えを取った。
俺は慌てて彼女を羽交い締めにし、彼女の恥ずかし切腹を止めた。
「ま、待て待て! すまなかった、本当にすまなかった! ツバキが勘違いするのも無理はない、俺様が悪かったのだ!」
「ぐすっ……主様、どうか止めないで欲しいでござる……!
某、殿方に口説かれたのなんて初めてだったでござる……それであんなに浮かれてしまって……ゔぅ〜……!
でも、そうでござるよね……某みたいに戦うしか能がないちんちくりんが、主様のような立派な御仁と釣り合うはずもないでござる……」
暴れていたツバキが急に大人しくなる。それは良かったのだけれど、彼女が言った言葉は聞き捨てできなかった。
「それは違う。ツバキほど魅力に溢れた女性など、そうはいない。お前に声を掛けてこなかった世の男共は、全員見る目がなかったのだ」
「ふへぇっ……!?」
ツバキが変な声を出して俺を凝視した。ちなみに彼女はこう見えて18歳なので、肉体年齢で言うと15歳の俺より年上だったりする。
「あぅ……あ、主様は、某の心を一体どうしたいのでござるか!?
そんなに言うなら、主様が某を娶ってくれればいいのでござる!」
「い、いや、それは少し性急に過ぎるというか——」
「デュラン様……?」
声に振り返ると、そこには表情を失ったラミルルと、こいつまたかと言いたげなベルがいた。
「ワフーン……」
「ラ、ラミルル……!? ベルも、なぜ、いつの間に!?」
「お二人が村から出られるのを見て、訓練が一段落したところで追いかけたんです……
デュラン様……ツバキ様と、ご結婚、するんですね……お、おめ……おめで……ふぐっ……! わぁ〜〜ん!」
「主様、まさかすでにラミルル殿を手籠に……!? それなのに某にあんな甘い言葉を……!? ひ、酷いでござる! 女の敵にござるぅ〜!」
「ふ、二人とも落ち着いてくれ……! 誤解だ、誤解なのだ!」
号泣するラミルルと暴れるツバキ。
俺は二人に必死に謝り倒し、経緯の説明と弁解を続け……さらに謝罪を続けた。
そうすることでやっと誤解は解け、二人もようやく落ち着きを取り戻してくれた。
「す、すみません……わたしったらまた勘違いを……!」
「某も申し訳ござらんかった……少し頭を冷やすでござる……」
「いや、俺様が悪かったのだ。お前達は何も悪くない。だから、その、元気を出して欲しい……」
今度はしょんぼりしてしまった二人に、俺はそんな言葉しかかけられなかった。
こ、ここは話を変えよう。ちょうどメンツが揃っていることだし。
「そうだ。ツバキにはまだ紹介していなかったな。皆、姿を現せ!」
——ザザザザッ……!
俺の声が周囲に響き渡り、1万体の魔物の軍勢が森の奥から現れた。
あれ。領都解放を手伝ってもらった時はもっと多く感じたんだけど……やっぱり気のせいだったか。
「こ、これは……! まさか、この魔物達も主様の配下にござるか!?」
自身を取り囲む強力な魔物達に、ツバキがブルリと体を震わせる。
その彼女の前に、見上げるような白竜、小山のようなゴーレム、黒い六腕カマキリの三体が進み出た。
それぞれがツバキと同等以上の力を持つ、最強格の魔物達だ。
「ふーん。今度はあたしの親戚みたいな子が入ったのね。ねぇあんた、お酒は飲めるの?」
「まぁまぁ……! とっても可愛らしい子ね。こんな子が家族になってくれて、母は嬉しいわ!」
「ほう、凄まじい手練と見た。是非我と手合わせ願いたい……!」
ぐいぐい距離を詰めてくる三体に、流石のツバキも後ずさる。
「ツバキ。彼女達の名はヴァッカス、ガイア、アスラだ。見てのとおり、配下の中でも特に強い力を持つ。見知りおけ」
「はっ……! ツバキにござる。よろしくでござる……!」
ツバキがびしりと頭を下げる。三人は礼儀正しい彼女を気に入ったらしく、顔合わせはつつがなく終わった。
「いやー、驚いたでござる……! まさかこれほどの軍勢をお持ちとは……主様は、この力で何を成すおつもりなのでござるか?」
ツバキの言葉に、その場の全員が俺に注目する。
この力で何を成すか。俺はそれを、ツバキを除くこの場の全員……ラミルルとベルにさえきちんと説明していなかった。
けれど、元魔王軍四天王のツバキが入ったからには、話しておくべきだろう。
「俺様の目的……それは、人族と魔族との融和だ」
「「……!?」」
俺が放った言葉に、魔物達は首を傾げ、ラミルルとツバキが目を見開く。
無理もない。話の規模が大きすぎるし、突拍子もなさすぎる。
けれどこの世界のラストエンディングに到達するためには、きっとそうするしかないのだ。
俺は全部で100個存在するカオスマキアのエンディングの内、99個までを回収した。
それらのエンディングでは、勇者と魔王のどちらか、あるいは双方が必ず死んでいた。
そしてそれは人族と魔族についても同じだった。敗北した側の種族、またはその双方が、必ず絶滅してしまうのだ。
だからこそ俺は、人族と魔族が争いをやめ、共存する道に至るのがラストエンディングだと予想している。
この推測には俺の希望の要素がかなり入っているが、そうとしか考えられないのだ。
「デュラン様……す、すごいです! それ、とってもいいと思います!」
「そ、某も素晴らしい志だと思うでござるが……どうやってそれを成すのでござるか……?」
拍手する勢いで褒めてくれるラミルルに対して、ツバキはちょっと困惑気味だ。
「うむ、その方法だが……勇者アンジェリカ達の魔王討伐に至る冒険を影から支援する。これだ」
「——あ、なるほど。それでアンジェちゃん達がヴァルグル侯爵を倒すのをお手伝いしたんですね」
「なっ……!? それって、あの血濡れ巨人のことでござるか!? しかもアンジェリカ殿、勇者なのでござるか!? あの、光輝神の尖兵にして魔王の天敵と言われる……!?
わ、分からないでござる……! どうして勇者が魔王陛下を討つことが、両種族の融和に繋がるのでござるか……!?」
やはりラミルルはすんなり納得してくれるが、ツバキはさらに混乱してしまったようだ。
「順を追って話そう。まず、現在人族は魔族にかなり追い込まれている。このままでは人族は100年もせずにこの地上から絶滅してしまうだろう。
そんな今の状況で両種族の融和を説いたとして、耳を貸す者がいるだろうか?」
「えっと、いないかもしれないです……人族の皆さんは魔族を恨んでいるでしょうし、私達魔族も侵攻をやめる理由がない……ですよね? その、ずっと勝ち続けているわけですし……」
自信なさげに答えてくれたラミルルに、俺は大きく頷いた。
「その通りだ。しかし、人族の勇者が、最強の魔族である魔王を倒したらどうだろうか?」
俺の言葉に、今度はツバキがハッと息を呑んだ。
「……! なるほど。人族は魔族に一矢報いることができる上、魔族も人族が侮れない存在だと認識を改めるでござる。
そこで和平を説けば、両種族とも聞く耳を持ってくれるかもしれないでござるな!」
「そういうことだ。もちろん、勇者達が魔王を討伐するまで、そしてそこから両種族の融和に至るまでにも、障害はいくつも存在するだろう。
だが俺様にはお前達がいる。頼りにさせてもらうぞ」
「おぉ、任せて欲しいでござる! あれ……? でもこれ、主様が魔王陛下を倒すんじゃダメなんでござるか?
これだけの戦力でござる。アンジェリカ殿を手助けするより、よほど勝ち目があると思うでござるが……」
首を傾げるツバキに、俺は首を横に振った。
「いや、それではダメなのだ。魔族の俺様が魔王を倒したとしても、待っているのは魔界全土における内乱だ。
両種族の融和どころではなくなる。やはり人族の勇者が魔王を倒さねば」
「おー……確かにでござる。了解したでござる。某、魔王陛下には格別に取り立てて頂きもうしたが……その陛下に無実の罪にて殺されかけたでござる。
故に陛下への恩義は、此度の仕打ちにて帳消しとさせてもらうでござる。
そして某は今や主様の配下……! 陛下を……いや、魔王グラノスを誅するというその謀、全力にて支えさせて頂くでござる!」
「わ、わたしも、精一杯お手伝いします! お料理したり、ハンマーを振り回したりっ!」
「「オォォォッ!!」」
ツバキとラミルルの言葉に、魔物達も賛同するように雄叫びを上げる。ちょっとびっくりした。
「う、うむ! 皆の協力に感謝する! では、早速だが——」
俺は原作知識を思い起こしながら、次の動きについてみんなと作戦を練り始めた。
こうして手伝ってくれる彼らには感謝しかない。ただ……俺が転生者であり、この世界のラストエンディングを見るために動いていることだけは、未だ誰にも話せないでいた。




