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中ボス魔族に転生した俺、ラストエンディング回収のため密かに勇者を手助けするはずが、ハズレ天職から超進化した『支配の魔王』で無双してしまう  作者: 藤枝止木
1章 カオスマキアの世界

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第019話 血濡れ巨人(2)


「——元身(アンディスガイズ)」


 魔法の発動と共に、俺の姿はデリアから本来のデュランへと戻った。

 側で俺の傷を治してくれていたソフィーが目を剥く。


「え……デュランさん、お姿が……!?」


「いいのだ……治療に感謝する。あとは任せよ。お前はアンジェリカを」


「は、はい……!」


 有無を言わさない俺の雰囲気を察したのか、ソフィーはすぐにアンジェリカの元へ駆け出した。


「おいソフィー、あいつ変身解けてるにゃ!」


「よく分かりませんが……大丈夫だそうです! それよりアンジェは!?」


「生きてはいるにゃ……でも色々とぐしゃぐしゃだにゃ……」


 背後からソフィーとミネットの会話が聞こえてくる。

 アンジェリカが死にかけたのは俺のせいだ。ヴァルグルの強さに違和感を持った段階で、すぐに変身を解除していれば……!

 ——いや、後悔するのは後だ。今は目の前のこいつを片付けよう。


「オ前……誰ダ? 魔王、様……?」


 元の姿に戻った俺を見て、ヴァルグルはフリーズしたかのように首を傾げている。

 奴と顔を合わせた時と違い、今の俺は魔王グラノスと同じ特徴を持つ姿に変質している。流石に主君と似た奴には斬り掛からないらしい。

 俺は臣下としての最後の礼を示すため、奴の前で膝を突き、頭(こうべ)を垂れた。


「ヴァルグル侯爵閣下……デュハルズ男爵が長子、デュランでございます」


「デュ、ラン……? ソノ姿……? 何故ココニ? 何故、人族ト……!?」


 収まっていた奴の殺気が再び増大し始める。

 俺は静かに立ち上がると剣を抜き、その剣先をひたりと奴の喉元に向けた。


「それは……俺様が裏切り者だからだ。血濡れ巨人ヴァルグルよ。貴様は残虐に過ぎる。俺様の目的のため、ここで死んでもらう」


「裏切リ……コノ、薄汚イオークガァッ……!」


 ズンッ……!


 奴の威圧感が増大し、その体を覆う赤いオーラが輝きを増す。


「グルァァァッーー!! ブッ潰ス! ブッ殺ス! 派手ニ咲キヤガレェッ! 血花繚乱(ブラッディローズ)!!」


 極大狂化状態の奴が放ったのは、狂戦士最強の武技だった。

 城壁を両断しうる一撃が、刹那の間に幾度も襲いくる。

 能力が制限されたデリアのままだったら、俺は細切れの肉片となって床を赤く染めただろう。だが……


 ガキキキィンッ!


 異様な速度で振るわれた俺の剣が、奴の斬撃の悉くを弾ききった。

 支配の魔王となり、一万の配下を得てさらに力を増大させた俺にとって、奴の絶技を捌くのは容易かった。

 目の前の光景が信じられないのか、ヴァルグルが怯えたように後ずさる。


「オ前……一体、何ダ……!?」


「知れたことを……貴様の言う、薄汚いオークの中ボスだ。六道斬(りくどうざん)」


 ゾンッ!


 異様な音を伴い、極大の威力を秘めた六つの斬撃が、全く同時に放たれた。

 それらが光の断層となってヴァルグルの体を駆け抜ける。

 斬撃は奴の強固な身体強化を容易く貫通し、その体を寸断しただけでなく、背後の壁を焼失させた。


「がはっ……!?」


 手足や胴がバラバラになったヴァルグルが地に堕ちる。

 奴は目だけを俺に向けながら、震える口で呟いた。


「ば……化け、物め……」


 その言葉を最後に、暴虐の限りを尽くした血濡れ巨人は死んだ。


「貴様がそれを言うか……あ」


 六道斬(りくどうざん)の余波で、謁見の間の半分ほどが消し飛んでしまっていた。外はすでに夜が明けつつあるようだ。

 またやりすぎてしまった……やっぱり加減が分からない。なんか前より力が増している気もするし……


 剣を納めながらさらに辺りを見回すと、廃墟のような謁見の間の中にあって、ヴァルグルの悪趣味なオブジェだけが無事に残っていた。

 完全に暴走していたように見えたのに……奴は残虐非道で悪魔のような男だ。それでも、最後まで芸術家だったらしい。

 あのオブジェに組み込まれた遺体も、あとできちんと弔わないとな……


 俺は事切れたヴァルグルに背を向け、勇者達の元へ走った。

 すると、成り行きを見守っていたミネットとソフィーが興奮気味に迎えてくれた。


「お、おみゃー……とんでもねーにゃ! つえーとは思ってたにゃけど、にゃんかもう……すげーとしかいえねーにゃ!」


「はい! まさかあのヴァルグルを一撃で……! 信じられません!」


「ああ……それよりアンジェリカは!?」


「あ、はい。今治療が終わりました。直に目を覚ますと思います」


「そう、か……そうか……! よかった……二人とも、今回はすまなかった。

 デリアの姿で助力すれば勝利できるという俺の見込みが甘かった。もっと早く変身を解いていれば……」


 アンジェリカが重症を負って気絶し、目撃者になりそうな魔族兵も全滅していた。

 それもあって、変身を解いてヴァルグルを倒す決心がついたけど、出来ればしたくなかった。

 奴は、勇者アンジェリカが乗り越えるべき障害だったからだ。


 血濡れ巨人の異名を持つヴァルグルを倒したことで、彼女は勇者としての名声や自信を得る。それが今後のストーリーで重要になってくるのだ。

 もし今回のことで彼女が自身を失ってしまったら、ラストエンディングへの到達はかなり怪しくなる。

 それを恐れるあまりに俺の決断は遅れ、彼女達を危険な目に合わせてしまった……

 俯く俺に、ミネットとソフィーは顔を見合わせた。


「いにゃいにゃ、元々あぶにゃーのは覚悟してたし、これはウチらが始めたことだにゃ。それを手伝ってくれたおみゃーが謝ることはにゃに一つにゃいにゃ!」


「その通りです。それに貴方は約束を守ってくれました。私達は誰も死んでいません。それだけで十分以上です」


 約束……? あ、そうか。二人に正体がバレた時、「お前達は死なん。俺様が死なせん」って言ったんだった。


「そうだったな……すまない。感謝する」


「だーから、礼をゆーのはこっちだにゃ。にゃはは。お? アンジェが起きそうだにゃ!」


「あ、デュランさん変身……! 変身しないと……!」


「そ、そうであった……! 変身(ディスガイズ)……!」


 慌ててデリアの姿に変身したところで、アンジェリカが目を開けた。


「うぅん……あれ……!? ヴァルグルは!?」


「——あそこだよ」


 飛び起きて周囲を見回す彼女に、俺はヴァルグルの死体をただ指差した。

 奴の死因は、どう見ても強力な斬撃によるものだ。

 斥候のミネットや、弓兵のデリアの仕業には見えないだろう。さて、どう説明したらいいやら……


「あれは……あれって、もしかして僕が……!?」


 アンジェリカが驚いた表情で自分を指差す。

 これは……俺達は瞬時に目配せして頷き合った。


「ああ、その通りだ! 覚醒した君の力が圧倒的で、あのヴァルグルを倒してしまったんだ!」


「そ、そーだにゃ! とにかくこう……すごかったにゃ!」


「え、ええ! 本当に! でもヴァルグルを倒したあと気絶してしまったので、きっとその辺りの記憶が抜け落ちてしまっているんです!」


 俺に続いた二人の表情が若干引き攣っている。ごめん、慣れない嘘をつかせてしまって……流石にバレてしまうか……!?


「そうか……そうだったんだ……! なんか一度ぶっ飛ばされたような気がするし、ちょっと実感もないけど……僕があのヴァルグルを倒したんだ……!」


 アンジェリカは喜色満面で自分の両手を見つめている。あ、なんかいけたっぽい。


「君達もご苦労様! この勝利は僕のものじゃない……! 僕ら四人のものだ! ありがとう! 本当に!」


 アンジェリカは、実に嬉しそうに俺達三人を抱擁した。

 彼女に抱きしめられながら、俺達三人は小さく笑い合った。

 前から思ってたけど……この勇者、ちょっとチョロ過ぎるぞ。

 けれど同時に納得した。こういう彼女だからこそ、ミネットとソフィーはついて行くんだ。こんないい奴、放っておけないもんな。


「おっと、こうしちゃいられない。抵抗勢力のみんなに知らせないとね! デリア!」


「ああ、任せてくれ」


 抱擁を解いた勇者に俺は頷く。

 そして弓に鏑矢(かぶらや)を番(つが)え、崩れた天井越しに見える空に向かった放った。

 朝日に照らされた領都に、甲高い勝利の音が鳴り響いた。


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