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中ボス魔族に転生した俺、ラストエンディング回収のため密かに勇者を手助けするはずが、ハズレ天職から超進化した『支配の魔王』で無双してしまう  作者: 藤枝止木
1章 カオスマキアの世界

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第017話 死の芸術家


 城館内には魔族の兵士や騎士がウヨウヨいた。

 俺達はそいつらに見つからないよう慎重に進み、やむを得ない場合だけ俺とミネットで敵を昏倒させていった。

 そうして数時間が経過した頃、ようやく謁見の間の前に到達した。


「着いたな……中の奴は、もう俺達に気づいているみたいだ」


 両開きの大きな扉の向こう側からは、粘つくような強烈な気配が漏れ出ていた。


「そのようだね……みんな、準備はいいかい?」


 アンジェリカの言葉に、全員が緊張の面持ちで頷く。

 それを見届けた彼女は、体当たりするような勢いで扉を開けた。

 そして謁見の間に足を踏み入れた瞬間——


「「……!?」」


 勇者達は目の前の光景に硬直した。

 無理もない……俺も初回プレイの際には彼女達と同じ状態になった。


 広々とした謁見の間の中央には、奇怪なオブジェが置かれていた。

 オブジェは六枚の歪な石板から構成されていて、それらは放射状に床に置かれている。まるで花びらのようだ。

 そして石板の上には、それぞれ一人、恐怖に引き攣った表情の死体が磔(はりつけ)にされている。

 彼らは頭や腹を巨大な刃物で断ち割られていて、石板には夥しい量の血痕が残されていた。

 残酷で冒涜的な、奴の作(・)品(・)だ。


「素晴らしいでしょう……? 題名は『悪徳の六花』と言ったところかしら」


 その声はオブジェを挟んだ向こう側、謁見の間の奥から聞こえた。

 オブジェに目が釘付けになっていた勇者達が、慌てて視線へ移す。


 そこに座っていたのは、異様な巨軀(きょく)のトロールだった。

 禿頭の側面には赤薔薇の刺青、口元には同じく真っ赤な口紅。筋骨隆々の肉体は華美な鎧に覆われていた。

 その獣に近い凶相(きょうそう)に上品な笑みを浮かべ、うっとりとオブジェを眺めている。


「そこの彼らはこの都市の支配者層で、民を置いて自分達だけで逃げようとしていたところを私が捕らえたの。

 素材の質としてはお世辞にも良くなかったのだけれど……意外に仕上がりは良くってねぇ。

 気に入ったから冷凍保存して、こうして日々愛でているのよ」


 そいつは勝手にオブジェについて解説すると、手にした盃を飲み干してから、やっとこちらに視線を向けた。


「あら? どんなお客かと思ったら、随分と可愛らしい子達ね」


「お前がヴァルグル……! 血濡れ巨人、ヴァルグルか!?」


 アンジェリカの憎々しげな声に、そのトロール……ヴァルグルは凄惨に笑った。


「その呼び名、あまり好きではないのよねぇ……私はいつも『死の芸術家』と名乗っているのだけれど、なんで定着しないのかしら?

 ま、いいわ。貴方達をここへ通してしまった部下達には、後できつくお仕置きするとして……今回は私が鼠退治をしてあげましょうか」


 ヴァルグルは静かに盃をサイドテーブルに置いた。

 その直後、奴は残像を残す速度でアンジェリカの目の前に移動した。

 巨大なハルバートを振りかぶる奴に、当のアンジェリカは全く反応できていない。


「アンジェリカ!」


 ヴァルグルがハルバートを振り下ろす直前、俺は鋭い声と共に矢を放った。

 音速に近い速度で矢が奴の目に迫るが、奴はそれを片手で軽々と掴み取ってしまった。

 しかしそれによって、奴が武器を振り下ろすタイミングが僅かに遅れた。

 その僅かな間にアンジェリカは剣を頭上に掲げ、防御姿勢を取った。


 ガァンッ!


 轟音と共にハルバートが打ち下ろされる。

 アンジェリカは剣でそれを受けたが勢いを殺しきれず、彼女の肩口に刃が食い込んだ。


「ぐっ……!」


 苦悶の声を上げるアンジェリカにヴァルグルは頬を歪め……前触れもなくしゃがみ込んだ。

 直後、奴の首があった辺りの空間を、背後から忍び寄っていたミネットの双剣が薙いだ。

 その後ヴァルグルは背後に飛び、巨体を感じさせない身軽さでふわりと着地した。


「あらあら……! 驚いたわぁ。思ったよりやるじゃない。それで、あなたがこの子達の引率役?」


 ヴァルグルがにやりと笑いながら俺を見る。いつかのように、一瞬で実力を測られたらしい。相変わらず油断できない男だ。

 俺は奴から目を離さずに声を上げた。


「ソフィー! アンジェリカの治療を!」


「は、はい! 小回復(レッサーヒール)!」


 ソフィーの杖から清浄な白い光が迸り、アンジェリカの出血が治った。


「ありがとうソフィー! デリアとミネットも。二人がいなかったら、僕は死んでた……!」


「礼は後で聞くよ。今は敵に集中してくれ」


「うへー、さすが敵の親玉だにゃ。後ろに目でも付いてんのかにゃ……!?」


 敵の実力に戦慄する俺達に、ヴァルグルは楽しげに笑う。


「うふふ……貴方達、いいわねぇ。とってもいい……凄く創作意欲が刺激される……!

 この都市を陥すときには、あまり楽しい相手がいなかったんですもの。

 貴方達を素材にすれば、きっとそこの作品を超える芸術を生み出すことができる……! あぁ、胸が躍るようだわぁ!」


「素材、作品……? 一体何を言ってるんだ……? まさか、そこに置いてあるものがそうだって言ってるのか!?」


 部屋の中央に鎮座するオブジェを横目に叫ぶアンジェリカに、ヴァルグルは寂しそうに息を吐いた。


「まぁ、貴方達には理解できないでしょうね……猛々しい戦士、汚濁に塗れた為政者、慈愛に満ちた聖職者……立場も性質も異なる誰もが、私がその体を断ち割れば、全員赤く美しい花を咲かすの……!

 この儚さ、美しさ、尊さ、感動……言葉だけではとても言い表せないわ!

 私はもっと花を咲かせたい……もっと……もっともっともっと……! この人界を埋め尽くすほどに!

 そうすればいつか、私の追い求める究極の芸術に辿り着けるかもしれないわぁ……!」


 ヴァルグルは熱に浮かされたように語り始めた。これが奴の異常性だ。

 奴が戦場に立つ最大の理由は、魔王に命令されたからでも、家のためでも、金のためでもない。

 多くの命を無残に刈り取り、奴にとっての至高の芸術作品を創り出すことなのだ。


「——そんなことのために、彼らを殺したのか……!? ふざけるなよ……そこにあるそれは、ただの死者への冒涜だ! 美しくも尊くもない!

 そして、お前も芸術家なんかじゃない……! 死体で遊ぶだけの変態だ!」


 アンジェリカが怒りに震えながら言い放った瞬間、空気が凍った。

 これまで上品な微笑みを絶やさなかったヴァルグルから、表情が抜け落ちたのだ。


「お、おいアンジェ!」


「それは禁句だって話だったじゃないですか!」


「あ……」


 ミネットとソフィーの指摘に、アンジェリカが口を押さえる。

 デリア姿の俺が事前に共有したので、勇者達はヴァルグルの戦闘スタイルを知っている。

 中で最も注意すべきこととして伝えたのは、奴の「芸術」を貶めてはいけないということだ。

 奴はそれをされると確実にキレる。そして、キレた奴は非常に厄介だ……!


「言ってしまったものは仕方ない……! みんな備えろ! 死ぬなよ……!」


 全員が油断なく注視する中、ヴァルグルが口を開く。


「——この私の作品が、美しくないですって……? 私の作品が、お遊びですって……?」


 その呟きは静かだったが、奴の全身からは強烈な怒気が発せられ、まるで噴火前の火山のようだった。


「この……コノッ……芸術ヲ解サヌ、下等種族ドモガァーッ!!」


 凄まじい絶叫が城館全体を揺るがす。

 ヴァルグルの存在感が急速に増大し、奴の鎧が内側から弾け飛んだ。


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