第015話 ダークエルフの正体
「にゃあデリア。もしかしておみゃー……」
「デュランさん、ですか……?」
ミネットとソフィーの言葉を聞いた瞬間、俺の表情は凍りつき、全身から冷や汗が吹き出した。
う、嘘だろ……なんで俺がデュランだってバレたんだ!?
勇者達を村から送り出した直後、俺は自分の致命的なミスに気づいた。
このままでは彼女達はお助けキャラに出会えず、ヴァルグルに殺されてしまう。
そこで俺は悩んだ末、自分自身がお助けキャラになることにしたのだ。
もう急すぎて他に思いつかなかった……
だが例によって俺は表立って手助けできない。
アンジェリカが絶対反発するし、魔族社会に裏切りがバレたら実家が大変なことになる。今後のストーリーへの影響も心配だ。
だから俺はとある配下の魔法を借り、デュランの姿とは程遠い人族の少女に変身した。
瞳の色だけは変えられなかったので、変身先の種族は同じく目の赤いダークエルフを選ぶしかなかった。
性格や口調も変える必要があったけど、もう考える時間が無かったので素の俺そのままにした。
あとは念のため、武装も普段使っている剣ではなく弓に変えた。
そうしてデリアという架空の人物になりすました俺は、偶然を装い勇者達と合流し、無事仲間に入れてもらうことに成功した。
これでなんとかなる。そう思って完全に気を抜いていたのに……本当になんで気づかれたんだ?
いや……まだだ。まだ誤魔化せるかもしれない……!
「デュ、デュラン……? 俺の名前はデリアだ。最初の一文字しか合ってないよ」
「うぉっ、こいつ冷や汗すげーにゃ。ソフィー、やっぱり当たりだにゃ!」
「ですね……! デュランさん。怒ったりしませんから、正直に話してください」
「いや、だから俺は……」
なおも言い逃れしようとする俺を、二人は確信に満ちた目で見つめる。
あ、だめだこれ。完全にバレてる。
「ふー……分かったよ。降参だ。元身」
ギュルッ。
変身の魔法が解除され、俺の姿がデリアからデュランに戻った。
「見事だ……よくぞ見破った」
「う、うにゃー! ほ、本当にデュランだったにゃ! びっくりだにゃ!」
「凄い……! こんなに完璧に姿を変えられるなんて! 一体どうやって——」
「んむぅ……うるさぃ……」
目を輝かせて騒ぐミネットとソフィーの声に、アンジェリカがうるさそうに寝返りを打つ。ま、まずい……!
「し、静かにせよ……! お前達二人ならともかく、アンジェリカに知られたら面倒なことになる……!」
口元で指を立てながら小声で叫ぶと、二人はコクコクと頷いてくれた。
再びアンジェリカに目を向けると、起きる様子は無さそうだった。
「ふー……では聞かせてもらおうか。お前達がどうやって俺様の正体に辿り着いたのかを。
俺様とデリアとの共通点は、それこそこの赤い目くらいしか無かったはずだが……」
「んー……にゃんか最初から、雰囲気とか仕草が似てるにゃーって思ってたにゃ。でも決め手は匂いだにゃ。
デリアの匂いが、デュランと似てるっていうか、全く同じだったにゃ。そんにゃ奴、家族や兄弟でもいにゃいにゃ。ウチ、鼻はかなり効くんだにゃ」
「私も似た感じです。村でのデュランさんの対応、デリアさんの接触タイミングと異常に高い実力、蛇を調理する際の手際や味付け……疑うには十分でした。
でも確信に至った理由は、蛇を食べる際にあなたが口にした『いただきます』という言葉です。私はそれを、デュランさんとラミルルさん以外から聞いたことがありません」
ミネットとソフィーの言葉に俺は天を仰いだ。
匂いや雰囲気はともかく、他が迂闊すぎる。とんだ大根役者だ。いや、でも急いでたからなぁ……
「な、なるほど……やるではないか」
「にゃはは。おみゃーにしてはちょっと間抜けだにゃー。そんで、にゃんでウチらを助けてくれるんだにゃ? ヴァルグルって、おみゃーの親分にゃろ?」
「私はデュランさんの天職も気になります。ベルを連れているから、魔族だけがなれるという魔物使いかと思っていたんですが……
でもそれだと貴方の剣士としての異常な強さを説明できないですし、さっきはご自身で変身を解いていましたよね? そんなに高度な魔法を使えるなんて、一体……」
二人の質問に、俺は必死に頭を働かせる。なるべく嘘はつきたくないけど、本当のことを話すわけにもいかない。
「村でも言ったが魔族も一枚岩ではない。俺様にとっては、お前達がヴァルグル侯爵を倒してくれた方が都合が良かったのだ。
だが侯爵は強い。お前達だけでは厳しかろう。だからこうして姿を偽って手助けしに来たというわけだ。
天職については……お前達の想像に任せるとしよう」
「ほーん……まぁ、それで納得しといてやるにゃ。ともかくデュランが付いて来てくれるにゃら心強いにゃ!
ウチ、今回は流石に死ぬかもって……死ぬかも、しれにゃいって……あ、あれ……?」
にこにこと笑っていたミネットの目から、突然ほろりと涙が流れた。
あ、と思っていると、それを目にしたソフィーの目も潤み始めた。
「ぐすっ……ミネット、泣かないでくださいよ……私だって、我慢、してたのに……」
二人はそのまま、何かが決壊したように泣き始めた。
俺はその姿に驚きつつも、どこか腑に落ちる感覚を感じていた。
彼女達は普段から、勇者アンジェリカの仲間として気丈に振る舞っている節があった。
けれど、彼女達はまだ14歳の子供だ。死地に赴くのが怖くないわけがない。
俺は半ば衝動的に二人の元へ駆け寄ったが、いつかのラミルルのように頭を撫でるのは憚られた。
その時俺の脳裏に浮かんだのは、最近再現に成功したとあるお菓子だった。
あれを嫌いな子供はまずいない。それに確かリラックス効果もあったはず……!
「大丈夫だ。お前達は死なん。俺様が死なせん。だから安心せよ……!
そ、そうだ。ここにチョコレートという菓子がある。食べれば少しは落ち着くだろう」
俺はアイテムボックスから板チョコを二枚取り出し、おずおずと二人に差し出した。
すると二人は涙に濡れた顔を上げ、俺の顔と板チョコとを何度か見比べ……途端に吹き出した。
「ぷっ……にゃははは! お、おみゃー、それ今どっから出したにゃ!」
「ふふっ……デュランさんもそんな顔するんですね。ちょっと意外です」
「う、うるさい……! 要らぬならしまうぞ」
「あー、貰うにゃ貰うにゃ。にゃんかそれ、すっげー美味そうな匂いがするにゃ!」
「ええ、とても甘くて官能的な香りです……! アンジェには悪いですが、頂いてしまいましょう!」
途端に笑顔になった二人が、チョコレートを手にはしゃぎ始める。
良かった……どうにか元気づけることができたみたいだ。
しかしそれと引き換えに、一ヶ月積み上げてきた俺の威厳が崩れ去ってしまった……
でもまぁ、この子達の笑顔と比べたら安いもんか。




