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中ボス魔族に転生した俺、ラストエンディング回収のため密かに勇者を手助けするはずが、ハズレ天職から超進化した『支配の魔王』で無双してしまう  作者: 藤枝止木
1章 カオスマキアの世界

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第013話 救援要請


 あれから一ヶ月ほどが経過した。

 早朝、場所はコルマール村の広場。木刀を手に対峙する俺とアンジェリカを、多くの兵士と村人達が見守っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


「どうした勇者よ。もう限界か?」


「う、うるさい! 今日こそ殺してやる!」


 殺気を撒き散らしながら、アンジェリカが地を蹴る。

 彼女が放ってきたのは横薙ぎの一撃。俺はそれに合わせて間合いを潰し、打点をずらしながら木刀で攻撃を受けた。


「うむ。速度と膂力は一ヶ月前よりかなり向上しているな。しかし、動きが直線的過ぎる。虚実も無い。怒りに任せて棒を振り回すことを剣術とは呼ばん」


「くっ……! 黙れこのオークめ!」


 アンジェリカが連撃を放つが、疲労のせいか動きに雑さが目立つ。

 俺はそれらを全て躱(かわ)し、彼女の握りが甘くなった瞬間に木刀を打ち据えた。

 その手から木刀が吹き飛び、彼女は息を乱してへたり込んだ。


「ぐぎ、ぐぎぎぃっ……! また負けたぁ……オークなんかにぃ……!」


 俺を睨む彼女の目には涙が滲んでいる。最初は負かすたびに号泣していたので、そこは進歩かもしれない……


 この一ヶ月。俺は勇者達にひたすら魔物退治をさせ、位階を上げた。

 ただ身体強化の強度や魔力が上昇しても、それを扱う技術が伴わないと意味がない。

 そうならないよう、こうして稽古の真似事をしているのだ。


 ちなみに、何故俺が他人に戦いの技術を教えられるのかというと、カオスマキアで学んだからだ。

 あのゲームの戦闘モーションは超格好いいだけでなく、実戦に即したもので、剣術家の配信者が解説動画を出すほどだった。

 俺は何度もゲームを周回するうちにそれらを暗記し、動きを完全再現できるようになっていた。

 まさかこの無駄すぎる特技が役に立つ日がくるとは……人生分からないものだ。

 その技術をアンジェリカにも伝授したかったんだけど……


「その憎っくきオークを殺すためにも、俺様から技術を盗めばいいものを……見ろ。他の二人は着実に進歩しているぞ」


 アンジェリカから視線を外し、広場にいる他の面子(めんつ)に目を向ける。

 まずはミネットとラミルルのペア。


「うにゃにゃにゃにゃにゃっ!」


「そうそう、上手上手! 次はもっと急所を狙ってみて!」


 木刀の双剣を握るミネットが、彼女より遥かに大きいラミルルにまとわりつくように連撃を繰り出していた。

 まだ荒さは目立つが、以前より斥候らしい動きになってきている。

 次にソフィーとベルのペア。


「ワンワン!」


「もうっ、ちょこまかと……! 聖なる矢(ホーリー・アロー)!」


 走り回るベルの背中に乗った的を、ソフィーが威力を殺した攻撃魔法で撃ち抜いた。

 神官である彼女の役割は回復と援護だ。狙撃能力と立ち回りが重要な役どころだが、最初の頃は全然当たらなかったので、格段に上達している。


「よし……皆、朝稽古はここまでとしよう! 片付けて朝食に——」


「デュラン様!」


 そこへ、村周辺の警備を任せている兵士が走り込んできた。


「どうした。何事だ」


「は! 村の外で怪しい人族を捕らえました! この辺りの人間ではないようです!」


「……! 来たか……その者をここへ!」


 そうして兵士が連行してきたのは、薄汚れ、痩せ細った青年だった。服装から貴族であることが分かる。

 彼は俺達魔族に恐怖の視線を向けながら、村人達の様子を見て戸惑いの表情を浮かべている。


「な、なんだ……? ここは本当にコルマール村なのか……!? どうして魔族と人族が、こんなに穏やかに……!」


 彼の言葉に、村人達と兵士達が顔を見合わせる。

 この一ヶ月、俺達魔族は村人に無体を働かず、領民として守ってきた。

 村人達もそれを分かり始めているようで、最近では兵士達に挨拶したり、差し入れをしあったりしているのを見るようになった。

 だがそれは、今この村に来た彼には信じられない光景だろう。


「一体何事ですかな……? む……? あ、あなた様は……!? どうされたのですか!?」


 すると、騒ぎを聞きつけた村長が杖を突きながら現れた。

 そう、この村の村長と貴族の彼は顔見知りだ。彼はこの辺り一帯の領主である子爵の息子なのだ。


「村長……! 無事だったか……お、落ち着いて聞くのだ。我らが領都モンフォルムが、陥落した……!」


「なっ……!?」


 村長を始めとした村人達が一斉に息を呑み、勇者達も驚愕の表情を浮かべた。

 子爵令息が絞り出すように続ける。


「魔族が、大軍を率いて攻めてきたのだ……! 率いるのはあの悪魔……血濡れ巨人の異名を持つヴァルグルだ!

 都市は今、人々が日々虐殺される地獄と化している……我が父も、奴に……!

 頼む! このことを王都に知らせてくれ……! どうか、我が領都の民達を助けてくれ……! どうか、どうか……」


 その言葉を最後に、子爵令息は意識を失った。






 子爵令息が齎(もたら)した急報は村に衝撃を与えた。

 しかし、俺達魔族の占領下にある村人達にはどうすることもできず、子爵令息を介抱することが精々だった。

 そしていつもの日常が過ぎ、時刻は深夜。気配を感じた俺は、用意していた荷物を持って天幕を出た。


 気配を殺して村の防壁に近寄ってみると、そこには勇者達がいた。周囲にはいつも配置している警備兵の姿も無い。

 俺が壊した防壁の大扉は修復済みで、夜間である今は閉じられている。

 この扉は大人が数人がかりで開く大掛かりなものなので、位階の上がった彼女達でも通るのに難儀しているようだ。


「殊勝な心がけだな」


 そこへ俺が声をかけると、全員が弾かれたように振り向いた。


「くそっ、見つかったか……! 僕らは領都モンフォルムに行く! 邪魔はさせないぞ!」


「アンジェ! しーっ、だにゃ! デュ、デュラン、こんばんはだにゃ。これはその、えっとだにゃ……」


「——デュランさん、殊勝な心がけとは?」


 開き直ったり誤魔化そうとする二人とは対照的に、ソフィーが冷静に問いかけてくる。


「なに、感心していたのだ。まさか夜中にまで魔物退治に励もうとするとは……とな。そんな勤勉なお前達にはこれをやろう」


 俺が荷物を差し出すと、それを受け取ったソフィーは中を覗き込んで息を呑んだ。

 荷物の中身は、業物の長剣と双剣、杖、そして防具だ。

 今の彼女達が使う上で、ギリギリ性能に振り回されないグレードの武具である。


「え、いいのかにゃ!? 助かるにゃ〜。ウチらの得物、結構ボロボロだったからにゃ〜」


「え、なんで……? オークめ、一体何を企んでいる!?」


 武具を目にしたミネットはにゃははと笑い、アンジェリカは疑いの目を向けてくる。

 実に彼女達らしいリアクションで、俺は少し笑ってしまった。


「デュフフ……企むも何も、良い武器を使った方がお前達の仕事も手早く済むだろう。

 しかし最近は強力な魔物も多い。村周辺の魔物を間引くのにも時間がかかるかもしれん。

 そうだな……二週間ほど村を留守にしても許してやろう」


 二週間。村から領都に向かい、何かしらを成して戻ってくるには十分な期間だ。

 それを察したらしいソフィーが、驚きと戸惑いの視線を投げかけてくる。


「デュランさん……どうしてここまでしてくれるんですか? 領都を占領しているのは、あなたの主君なんですよね……?」


 領都の件については、昼の内にミネットとソフィーから相談を受けていた。領都には知り合いもいる。なんとかならないかと。

 それに対して俺は、ヴァルグルとの関係を理由に無理だと答えた。

 奴がいかに危険で残虐な男か、どんな戦い方をするのか、具体的なエピソードも併せて……


「なんの話か分からんな……だがまぁ、魔族も一枚岩ではないということだ」


 俺は大扉に歩み寄ると、超重量のそれをゆっくりと押し開けた。


「さぁ行くが良い……気をつけてな」


 勇者達は、少しの間戸惑うように固まっていた。

 しかしアンジェリカが決然とした表情で門を潜ると、ソフィーとミネットもそれに続いた。

 俺は去っていく彼女達の背中を見送り、ゆっくりと門を閉じた。


「ちょっと露骨過ぎたか……? まぁ彼女達も随分腕を上げた。この後お助けキャラとも合流するはずだし、ヴァルグルにも勝てるだろう。

 ——念のため確認しておくか……ガイア、聞いているか?」


 ズズズ……


 呼びかけると、地面から人形サイズのゴーレムが出現した。


「こんばんは、デュラン。寝かしつけて欲しいの? もう、甘えん坊さんねぇ」


 そのゴーレム、ミニガイアは両手を大きく広げながらそう言った。

 これはガイアの分身で、地面と繋がった場所ならどこにでも出せすことができるらしい。


「い、いや。それはまた今度頼もう……ここから北に数日歩いたところに大きな都市がある。領都モンフォルムという都市だ。

 そこに、西の方から人族の軍隊が近づいているはずなのだが……少し見てきてもらえるか?」


「ええ、もちろんよ。ちょっと待っててね」


 その言葉と共にミニガイアが地面に沈み、しばらくしてまた浮かび上がってきた。


「見てきたわよ〜。人族の軍隊なら見つかったわぁ」


「そうか、よかった……」


「あ、でも、モンフォルムの近くにはいなかったわよ?」


「へ……? そ、そんなバカな……! どこにいるというんだ!?」


「えっと……もっと西の、モンフォルムよりも大きな都市の近くよ。なんだかたくさんの魔物と戦ってて、大変そうだったわぁ」


「……!? 王都だ……なんでまだそんな所に……! いや、それよりも魔物の大群……!? この時期にそんなイベント無いはずなのに……一体何故……!?」


「——あ」


「どうした!?」


 頭を抱えながら問いかけると、ミニガイアが気まずそうに俺を見上げた。


「あー、えっと……ほら、私達って魔界の森から大勢で来たじゃない?

 そしたら、人界の森の魔物が西の方に逃げていったのよ。結構、いっぱい……

 もしかしたら、それが原因かなーなんて、母は思ったり……しちゃったり……」


「……! つ、つまり、俺のせいか……」


 しまった……そこまで頭が回らなかった……! やばい……かなりまずい状況だ……!


 原作では、魔族の侵攻を察知した王都が、救援のために軍隊を差し向ける。

 その軍隊を率いるとあるキャラの助力により、勇者達はボスであるヴァルグルを打倒するのだ。

 だが、俺の行動のせいでその流れが大きく変わってしまった。

 ヴァルグルは今の勇者達だけで勝てる相手じゃない……このままじゃ、彼女達は確実に殺される……!


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