第011話 罰として労役を課す
カレーパーティーの翌日。俺はラミルルとベル、そして勇者達を引き連れ、村の近くの森を訪れていた。
「はぁっ!」
アンジェリカの斬撃が、岩の甲殻を持つ巨大な猪型の魔物、ロックボアの喉元を切り裂いた。
突進直後の隙を突き、さらに甲殻の隙間を狙った良い一撃だ。
「ブギィィィィィッ……!」
ロックボアが鮮血を撒き散らしながら絶叫する。
奴は憎々しげにアンジェリカを睨んでいたが、やがて地響きを上げて倒れ伏した。
その直後にアンジェリカも膝を突き、援護に回っていたミネットとソフィーもへたり込んだ。全員汗だくである。
「——よし、ご苦労。今日の労役はこの辺りとしよう。貴様ら、中々良い動きだったぞ」
そう声をかけた俺を、アンジェリカが息も絶え絶えに睨む。
「はぁっ、はぁっ……オークめっ、偉そうに……! 僕らが苦しむ様を見て楽しんでいるんだろう!?」
「そんな趣味は無い。まぁ、そのロックボアは今の貴様らがギリギリ勝てる相手だった。難行だったことは認めよう」
「うにゃー……どーりで手強かったわけだにゃ……まぁでも、体で支払うよりかはいいにゃ。にゃあ?」
ミネットはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべながら俺を見た。
「——昨日の件は悪かった。だからもう忘れよ……」
昨日俺が放った「体で支払え」発言の直後、その場の空気は一瞬で凍りついた。
俺の直近の目的は勇者達を鍛えることだ。
なのであの場は、「俺様に逆らった罰として、村の周囲の魔物を駆除する労役を課す」とか言えばよかったのだ。
しかし俺は原作デュランのキャラをリスペクトしている男。
普段から小悪党ムーブを心がけているせいで、あんな最悪の表現をしてしまったのである。
その後の勇者達の反応はというと……ミネットは「あー、そういうことかにゃ……」と諦めたような苦笑いを見せ、ソフィーは「む、村のためです。仕方ありません……!」となぜか頬を赤らめていた。
加えてラミルルからは「わたしだってまだなのにぃ……! どうしてですかデュラン様ぁ!?」と涙ながらに問い詰められてしまった。
幸い、必死に弁解したことですぐに誤解は解けた。
勇者達には改めて労役について説明し、暫くは仕事に付き添うし、食事も出すと言ったらすぐに了承してくれた。そして現在に至るというわけだ。
ちなみにみんなが俺の発言に騒いでいる間、アンジェリカだけはベルと一緒にポカンとしていた。
「ねぇソフィー。昨日も不思議だったんだけど、ミネットが言ってるのってどういう意味なの?
僕ら、不本意ながら汗を流して労役とやらに励んでるじゃないか。これって、体で支払ってるってことじゃないの?」
「え……!? アンジェ……それは、その、全くもって正しいんですが、その表現だと別の意味も出てしまって……えっと……」
無邪気に質問するアンジェリカに、ソフィーは顔を赤らめながら視線を彷徨わせる。
すまんソフィー、俺のせいで……すぐに助け舟を出さねば。そう思って口を開きかけたところで、気配に気づいた。
「——ラミルル、ベル」
俺が勇者達を背に庇うように立つと、意図を察した二人がすっとその両脇に並んだ。
ラミルルがウォーハンマーを構え、ベルが牙を剥く。
背後から勇者達の戸惑う気配が伝わってくる。その数秒後。
「「ゴルルルルッ……」」
森の奥の暗がりから、巨大な虎型の魔物が三体も現れた。
大型バスほどの体格なのに足音がほとんどせず、長大な牙や爪に加え、体の各部から鋭利な刃がいくつも生えている。
「あれは……シュレッドタイガー!?」
「にゃ、にゃんだソフィー。やべー相手にゃんか!? ウチ、にゃんか鳥肌がすげーにゃ……!」
「はい……! 森の深層に生息するという上級の魔物で、ロックボアより遥かに危険な相手です!」
「ミネット、ソフィー、すぐに立つんだ! 僕が殿を引き受ける……! 二人はなんとか逃げ延びてくれ!」
アンジェリカが悲壮な覚悟を滲ませながら叫ぶ。
俺はその声を背中で聞きながら剣を抜き放った。
「落ち着け。こういう時のために、俺達が引率しているのだ」
「ガァッ!!」
直後、三体の巨獣が一斉に襲いかかってきた。
俺は刹那の間に剣を振り上げ、大上段から振り下ろした。
ゾンッ!
狙ったのは正面の一体。放ったのは剣士系の基本武技、切り裂く威力と範囲を拡張させる斬撃だった。
シュレッドタイガーの巨大な頭部を断ち割るはずだったそれは、その巨体を丸ごと両断しただけでなく、地面に巨大な亀裂を生じさせた。
——やべ、やり過ぎた。
天職が支配の魔王に進化したせいか、いまいち加減が分からない……
「デュラン様! こちらも終わりました〜」
「ワオン!」
声に左右を確認すると、ラミルルが担当した一体は頭部をハンマーで潰され、ベルが倒した一体は喉笛を食いちぎられていた。
よし。二人とも、この程度の相手には全く苦労しなくなってきたな。
「うむ、よくやった。では帰るとするか。ラミルル。アンジェリカ達を村まで送ってくれ。
俺とベルは少し森を調べる。こんな浅い層にシュレッドタイガーが出るのは妙だ」
「承知しました! ではみなさん、行きましょう?」
ラミルルが促すと、放心状態だった勇者達がハッと我に返った。
「にゃ、にゃあラミルル。おみゃーらがウチらと戦った時って、実は物凄く手加減してくれてたにゃ……?」
「え? えっと、それは……はい……その、子猫を抱くような感じで、なるべく優しくしました……デュラン様やベルちゃんも、きっと……」
「こ、子猫だって……!? 村で一番強くて、勇者の天職まで授かったこの僕が、子猫……」
「修行しましょう、アンジェ。それしかありません……」
「み、みなさん……あの、元気出してください……! そうだ、今日のお昼はなんとオムライスです!
ケチャップという甘酸っぱいソースで炒めた鶏肉とお米を、ふわとろの卵で包むんです。とっても美味しいんですよ?」
肩を落とす勇者達を元気づけようと、ラミルルが必死に昼食をプレゼンしている。
彼女、勇者達が可愛くて仕方ないみたいなんだよな……俺も彼女達を推す身として、気持ちはなんとなくわかる。
ラミルルは魔族だけど人族に恨みを持っていない。そして勇者達は彼女より年下で未熟。さらに彼女が作った料理を実に美味しそうに食べていた。
こんなのもうメロメロだろう。
「おぉ! にゃんか分からにゃいけどうまそーだにゃ!」
「また聞いたこともない料理……! 楽しみです!」
「卵と鶏肉……親子を同じ皿に乗せるなんて、魔族の料理はなんて残酷なんだ……! 食べるけど……」
「うふふ。じゃあ、腕によりをかけて作りますね!」
途端に元気になった勇者達は、ラミルルに連れられ、弾むような足取りで村の方へ帰って行った。




